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Web3実装社会のデザイン

2024年2月9日、国際社会経済研究所(IISE)が開催した「IISEフォーラム2024 ~知の共創で拓く、サステナブルな未来へ~」では、各テーマに沿ったブレイクアウトセッションを実施。「Web3実装社会のデザイン」のセッションについて紹介します。国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢 久美、Decentier代表取締役の小畑 翔悟 氏、IISE 特別研究主幹の池野 昌宏らが登壇し、「Web3の社会実装を進めるうえでこれから求められること」について議論しました。MIMIGURIデザインストラテジスト/リサーチャーの小田 裕和 氏がモデレーターを務め、様々な「問い」を起点に各登壇者のユニークな意見やアイデアを聞きました。

※本記事の登壇者肩書は2024年2月9日開催当時のものです。


「中央集権型のWeb2」から「主権在民型のWeb3」へ


池野 IISEの特徴は「ソートリーダーシップ」にあります。技術を先に論じるのではなく、まず社会や世界の理想的な姿を考え、その中で技術がどのように役立っていくかという視点で議論を進めています。
 
生活者が誰かにコントロールされることなく、本人の価値観を主体的に表現し、体現できる世界が求められています。特に、情報の管理と活用が重要です。自分に関する情報を自分自身で管理し、どこにどういう情報を出し、活用していくかを自分で決められる「主権在民型社会」を実現する必要があります。そのベースとなるのが、Web3です。
 
現在のインターネットは、Web2の段階にあります。中央集権型社会です。GAFAに代表される一部のプラットフォーマーが、自分の利益を最大化するための社会になってしまっているのです。
 
Web2の中央集権的なパラダイムはまもなく終焉し、Web3を基礎とする分散型のアプローチへ移行するでしょう。主権在民型による生活者視点で、社会インフラの把握と利用が進むようになります。

Web3が生み出す「クリプト経済圏」とは?


小畑 Web3の大きな特徴は、ブロックチェーン技術を背景に「クリプト経済圏(Crypto Economy)」という新たな経済圏を創出することです。現在は、中央銀行が発行する法定通貨のみを使って消費や投資が行われています。これを「フィアット経済圏(Fiat Economy)」と呼びます。
 
ブロックチェーンをベースに新たなサービスが続々と生まれています。「分散型金融(Decentralized Finance)」は、既存の銀行を介さずプログラミングのみで実行される金融サービスです。「GameFi」はゲームとファイナンスを掛け合わせたもので、ゲーム内でお金を稼いだり資産を形成できます。2021年にはNFT(非代替性トークン)が広がり、デジタルアートの所有権などが取引されるようになりました。現在、暗号資産の総計は300兆円に達すると言われています。

株式会社Decentier 代表取締役 小畑 翔悟 氏

小田 法定通貨を基軸とするフィアット経済圏は、やがてクリプト経済圏に置き換わっていくのでしょうか。

小畑 そうはならないでしょう。フィアット経済圏とクリプト経済圏は共存し、両方とも成長していくと考えます。フィアット経済圏とクリプト経済圏の間には、法定通貨と暗号資産を交換する「VASP(Virtual Asset Service Provider)」と呼ばれる法人や団体が存在し、双方をつないでいます。

小田 クリプト経済圏では、従来と違う新たな価値観が生まれていくでしょう。その姿はすでに見え始めていますか。

小畑 まだ、これからだと思います。

Web3の暗号通貨にはコンテクストを乗せることが可能

 
小田 Web3の出現により、自分の価値観を発露させて生きることが可能になりつつあります。そこでのポイントは何でしょうか。

池野 あらゆるモノには、コンテンツ(モノそのもの)とコンテクスト(文脈)という2つの側面があります。同じモノでも、コンテクストが違えば全く違う意味になってしまうわけです。私たちはコンテンツの生産や交換のみに終始し、コンテクストがない状態が続いてきました。これは、私たちの自己が失われた状態にあるとも言えます。

Web3の暗号通貨には、コンテクストを乗せることができます。人間に論理と感情があるとすれば、論理の方は人工知能(AI)による置き換えが進み、人間のやるべきことが減っていきます。その結果、感情や自己表現の意味が相対的に大きくなっていくわけです。

小田 例えば、震災復興の募金でも、お金はお金でしかなく、寄付する側の思いを乗せることはできません。Web3になれば、寄付する人の思いを貨幣価値に上乗せできるようになるでしょうか。

池野 そうしたこともやりやすくなるでしょう。

同じ価値を共有する人たちが、Web3で新たな経済圏を創出

 
小田 クリプト経済圏が発展していくためには、何が必要でしょうか。

株式会社MIMIGURI デザインストラテジスト / リサーチャー 小田 裕和 氏

藤沢 マネタイズできるということが、誰の目にもわかりやすいかたちで共有される必要があります。Web3がもたらすビジネス的なメリットが、まだ十分に共有されていません。Web2よりWeb3の方が稼げることが明らかになれば、移行が加速すると思います。
 
クリプト経済やフィアット経済の前にも、経済はありました。通貨経済の前には交換の経済、その前には贈与の経済があったわけです。重要な点は、それらは今も存在し、経済の重要な部分を支えているという事実です。交換や贈与の経済は、家事や福祉という見えないかたちで貨幣経済を大きく支えています。クリプト経済では、そうしたものの価値が可視化されていく可能性があります。

国際社会経済研究所 理事長 藤沢 久美

小田 目に見えにくかった価値が評価可能になり、新たな資本として生かせるようになるのですね。
 
池野 ケニア共和国に、モバイルマネーサービスを展開するサファリコム社があります。「M-PESA(エムペサ)」というモバイル送金サービスは、取引金額がケニア共和国のGDPの4割ほどの規模に達しているそうです。その中心はモノの売買ではなく、お金の貸し借りや助け合いであり、共同体のようなかたちで経済が回っていると聞きました。そこにはコンテクストがすごくあるわけで、これが発展していけば、経済を大きく変革する可能性があります。

国際社会経済研究所 特別研究主幹 池野 昌宏

Web3のポイントは、見えない価値が可視化されること


藤沢 Web3の大きなポイントは、見えない価値を可視化できる点にあります。価値というとすぐにお金に換算しがちですが、Web2の世界でもすでにSNSの「いいね」やフォロワー数など、お金以外の評価基準が生まれています。Web3になれば、もっと多彩な評価基準が生まれ、お金で測れない価値を可視化してくれるでしょう。
 
池野 多様性がカギです。生活者一人ひとりが自己表現できるようになれば、多様性は自然に広がります。多様性を尊重しながら協調できる社会こそが、真の持続可能な社会です。それを目標としながら、身近なところで何ができるか考えていくと良いと思います。
 
小田 一人ひとりの思いに意味があり、考えが違うからこそ、新たな価値が生まれる。そんな社会をどう作っていくかが問われています。Web3に興味を持たれた方は、ぜひ今日登壇したメンバーに問いを投げかけ、新たな関係性を創っていただきたいと思います。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】


国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。

アーカイブ動画


抄録

https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2024/sym_iise-forum2024_ab.html


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