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宿命の雪

読書感想文
紅蓮の雪            遠田潤子

わかりあえるのはこの世で双子の姉、朱里だけだった。
牧原伊吹は姉の死に茫然と己を失ったようになっていた。
姉はなぜ二十歳の誕生日に自死したのか…。
この世で唯一わかりあえた双子だったのに。
俺はどうすればいい?
物を持たない姉の部屋に残されていた大衆演劇の雑誌と入場券の半券。
伊吹は姉の死の理由がそこにあるかもしれないと大阪は鉢木座の公演を観に行く。
そこで若座長、鉢木慈丹に強引にスカウトされ伊吹は鉢木座で舞台に立つことになる。

父母に疎まれ愛情というものを知らない伊吹と朱里は二人だけで支えあい生きてきた。
肉親の愛情を越えた愛…。物語の根底に人の道を外れるほどの愛憎と哀しみが息づいている。狂気に裏打ちされた凄みだ。
大衆演劇の観客を魅力する役者の色気と華。
現実を忘れさせるほどの夢幻の熱情。
影を引きずる牧原伊吹に対して鉢木慈丹は陽だ。人に触れられる事を怖れる伊吹に慈丹はまっすぐに伊吹の声を聴き受けとめていく。
この慈丹という人がいい。まったく良い男だ。なんて気持ちのよい男なのだろう。惚れてしまうわ。ファンがきゃーきゃーいうのわかるわ。慈丹は看板の女形なのである。
物語は伊吹と朱里の両親、双子の出生の秘密と明かされていく。伊吹にとって残酷で過酷な秘密だった。
そして伊吹が絶望してしまう時、また太陽のように光を当てるのが慈丹なのである。
女形というと私はまず梅沢富美男を思い浮かべた。伊吹も舞台で夢芝居を踊る。
異性の服をきて化粧をする者は美しく見える。女形もそうだが、宝塚歌劇団でも女が男装をする姿は美しい。
この小説の中でも「背徳感バリバリで、なおかつ美しい世界。」というセリフがある。なんかわかるわー。
ラストは凄く魅せてくれる。
牧原伊吹は舞台でどんな雪を浴びるのか。
それは宿命を芸に変え命を芸に燃やす紅蓮の雪となる。


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