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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第176回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。 
 
堯曰二十の一
 
堯曰咨爾舜。天之暦数、在爾躬、允執其中。四海困窮、天禄永終。舜亦以命禹、曰、予小子履、敢用玄牡、敢昭告干皇后帝。有罪不敢赦。帝臣不蔽。簡在帝心。朕躬有罪、無以万万、万万有罪、罪在朕躬。周有大賚。善人是富。雖有周親、不如仁人。百姓有過、在予一人。謹権量、審法度、修廃官、四方之政行焉。興滅国、継絶世、挙逸民、天下之民帰心焉。所重民食喪祭。寛則得衆、信則民任焉。敏則有功。公則説。
 
堯曰く、「ああ、舜よ。天の運命は、なんじの身にある。中庸を保て。天下が困窮すれば、その恩恵は永遠に失われる。」
湯王曰く、「私は不束者、意を決して、黒い牡牛を供え、上帝に申し上げます。罪のある者は許しません。上帝の臣下である私は、何も隠しません。選択は上帝の御心しだいです。私の身に何かあっても、国々を責めないでください。国々に罪があれば、罪は私の身にあります。
武王曰く、「周には天の賜物がある。善人が大勢いることだ。周には親族がいるけれど、仁者には及ばない。民に過ちがあれば、私一人に責任がある。度衡量を厳格に運用し、法律を明確化し、廃した官職を補充すれば、天下の政治はうまくゆくだろう。滅んだ国を再興し、途絶えた家督を継がせ、世捨て人を登用すれば、民は心を寄せる。重視すべきは、民と食物と葬儀と祭祀である。寛容であれば、他人の指示を得、信用があれば、民は役割を果たす。機敏であれば成功し、公平であれば、民は喜ぶ。
 
(現代中国的解釈)
 
国有企業重視をあからさまに強める現政権下において、民営企業はどのような役割を果たせるのだろうか。民営企業は、国有企業のサブ業務、または国有企業の関知しない、ニッチ産業を担うだけの存在でよいと、思われているのかも知れない。IT巨頭は鬼っ子なのだ。その一方、地方政府による起業支援は盛んだ。ハイテク産業をリードするのは、民営、それも設立間もないスタートアップが重要な役割を演じることが多い。さらに充実したベンチャー投資機構が揃っていて、将来性豊なベンチャーにとって、資金調達は決して難しいことではない。ただし国有系の投資機構も多く、将来の経営権には留意が必要だ。
 
(サブストーリー)
 
中国では、ChatGTPやSoraなど、生成AIに対する関心が非常に高い。米国に引き離されたくない、という強い意思と焦りを感じる。半導体の二の舞はごめんである。中国メディアによれば、中国政府は40を超える大規模言語モデルと関連するアプリの公共利用を承認した。補助金や減税などでAI分野の発展をサポートする。得意手をここでも出してきた。
 
しかし中国メディアは、中国AIスタートアップは、技術開発や融資総額で米国企業に遅れている、と率直に認めている。中国では、ChatGPT やCharacter.aiなどの画期的AIアプリをすることが利用できない。そのためスタートアップたちは代替品を立ち上げようと競っている。米国とは研究開発の意味合いが少し異なるのだ。
 
そして現在中国には、OpenAIやAnthropic(OpenAIから独立)のように人工智能に取組む企業が260社ある。メディアはその中から、ユニコーンに成長した4社、智譜AI、MiniMax、月之暗面(Moonshot AI)、零一万物(01,ai)を紹介している。企業価値は12億ドルから25億ドル。彼らは国内投資家から強力なサポートを受けつつ、優秀な人材の確保に取組むという。
 
智譜AIは、従業員数800名、AI人材を輩出する清華大学を基盤としている。2月の資金調達ラウンドでは10億ドルを調達、ここで企業価値は25億ドルと見積もられている。
 
MiniMaxは、3月の資金調達ラウンドでは6億ドルを調達、企業価値は智譜と同様25億ドルとされる。
 
この両者は、ゲーム市場をターゲットに、アバターに変身しアニメキャラクターとじゃれあったり、冗談を言い合ったりする、アバター・チャットポット・モデルを開発している。ChatGPTのような生産性チャットポッドに比べ、限られたコンピューティング資源を生かすープンソースのモデルで、ユーザーからのフィードバックを得ながら改良を繰り返している。
 
月之暗面は、AIアシスタント「Kimi」をリリースした。20万の漢字入力をサポートし、長文読解におけるブレークスルーを達成したという。応用シナリオは、専門的な学術論文の翻訳、読解、法的問題の分析、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)開発文書の迅速な読解などである。今年3月のアクセス数は1260回となり、あまりに急増したため、2日間のサービス休止に追い込まれたという。
 
零一万物は、Metaの大規模言語モデルLLaMアーキテクチャー上に、Yiと呼ばれる一連のオープンソースモデルを発表した。常識的な推論、数学、コーディング、読解スキルに関連するモデルのランキングでは、トップにあるという。また「万智」と名付けた生産性チャットポットモデルも発表している。
 
4社の適切な評価ができるわけではないが、生成AI分野において、少しずつ語るに足る成果を出し始めた、という段階ではないだろうか。国と民間、うまく力をまとめることができるだろうか。

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