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「ウルブス売却中止騒動」まとめ

なんとアレックス・ロドリゲスとマーク・ロリーのウルブス買収が失敗になりそうです。

3/29に球団オーナーのグレン・テイラーが声明を出し、「ティンバーウルブスとリンクスはもう売りに出していない」と発表したのです。

テイラーは売却を中止にした理由に、ロドリゲスとロリーが買収期限の2024年3/27までに買収条件を満たさなかったことをあげています。

この数日前にはロドリゲスとロリーは買収金を確保してNBAに申請を出したとレポートがあり、買収に向けて順調に進んでいたように見えていただけに驚きの展開です。

これにはロドリゲスとロリーも面食らって「核爆弾が落とされたようなもので、本当に驚いている」と話しており、だまし討ちにあったかの反応をしていました。こんな事ってあるのでしょうか!?

これまでの経緯

この騒動をより楽しむ(?)ためには、これまでのこの買収の経緯の理解がマストなので、ここで簡単に時系列で説明します。

・これまでに何度か球団売却の話が出ていたが、テイラーは2020年にロドリゲスとロリーにウルブスとWNBAのリンクスを$1.5Bのバリュエーションで球団売却を決める。ただし条件つきで、2020年の7月で20%を売却、2022年の12月末に20%を売却、2023年の12月末の3回目の40%に分けておこなわれる。2023年の3回目の支払いで、ロドリゲスとロリーは球団の過半数超えの株式である80%を得る予定だった。

最初の40%の売却金はテイラーに行き、最後の40%売却金は少数株主を含む株主の保有株式率に応じて分けられる。

・1回目の支払いはとどこおりなく終了。金額は$250Mとも$300Mとも言われている。

・この1回目のトランシェでは、ロドリゲスとロリーは50/50で出資して対等オーナーになるはずだったが、ロドリゲスが資金を調達できなかったため、ロリーがその分をカバー。持ち株はロリーが13%、ロドリゲスが7%だったとも言われている。支払いが$300Mだとすると、ロリーが$90Mをカバーしたことになる。

・2021年の7月。17%の株式を所有するマイノリティーオーナーのメイヤー・オーバックが球団の売却金を先に支払うようにテイラーを提訴した。裁判はテイラーの勝利に終わる。このマイノリティーオーナーが売却金を手にするのは、ロドリゲスとロリーが最終的に買収した時になる。

・2022年の12月。フェニックス・サンズとマーキュリーが$4Bのバリュエーションでマット・イシュビアに買収されることになった。

・2022年の12月にロドリゲスとロリーが次の20%の買収オプションを行使した。ここでふたりは投資家と$1.5B以上のバリュエーションで交渉していると言われはじめた。実は$3Bでのバリュエーションで交渉していたとのレポートもある。オプション行使で支払いのデッドラインが12/31から3/28に伸びた。

・2022年の3/29。ロドリゲスとロリーが2回目のトランシェの支払いを完了。今回は$290Mとのレポートがあるが、詳しい数字は媒体によってバラつきがある。これでロドリゲスとロリーの買い取った株式は40%になった。テイラーによると、球団全体では36%だそうだ。ここまで資金調達に難があったようだが、買収は順調に進んでいた。

・2023年の8月。マイケル・ジョーダンが$3Bのバリュエーションでホーネッツを売却。

・2023年の11月。ロドリゲスとロリーが買収グループにプライベート・エクイティのカーライルを加えるとのレポート。これまでふたりは残りの資金を集める事ができないのではないかと言われていたが、カーライルの名前が入ったことでそのような噂を抑えられた。カーライルに提示したバリュエーションは$2.3Bだと言われている。

・2023年の12月。Googleの元CEOのエリック・シュミットが買収グループに入ったとのレポートが入る。資金調達のバリュエーションは$2.1Bだと言われている。

・2023年の12月。ウルブスのバリュエーションは$2.94B(リーグ28位)になった。

・2023年の12月:$3.5B~$4Bのバリュエーションでダラス・マーヴェリックスが売却された。

・2023年の12月末。ロドリゲスとロリーが最後の40%を買収するオプションを行使。その金額は$600Mだと言われていた。3/28までに最後の$600Mを調達しなければならない。

・2024年の買収デッドライン2週間切った3月中旬。NBAがカーライルが入る買収ストラクチャーを承認せず。何がNGだったのかは不明だが、選手たちがカーライルに投資していたためだとも言われている。

この時のSporticoのレポート:「ウルブスのオーナーのグレン・テイラーによると、彼らは金を集める新しい方法が必要になっているそうだ。テイラーは、『彼らにはエクイティーのグループがいて、$300Mを出すはずだった。そのエクイティーグループは引き下がったか、NBAが拒否したかのどちらかだ。彼らは新しい金を見つけなければならない。それは私にはわからない。彼らがそれを見つけたのか、彼らがどうするのかわからない』と言った。ふたりはNBAがカーライルを承認をしない事を想定して、複数の投資グループと交渉している。ソースによると、ふたりは予定通りに買収をするそうだ」

・2024年3/20:ロドリゲスとロリーはカーライルの代わりにダイアル・キャプタルと手を組んで、球団買収に必要な最後の40%の資金を確保した。ロドリゲスとロリーがNBAに買収のためのファイナンシャル・ドキュメントを提出。

ロドリゲスとロリーの買収経緯とマイノリティーオーナー(以下LP)の訴訟についてはnoteの記事で詳しくまとめたので気になる方は有料(¥100)になりますが読んでみてください。

これまでのざっとした流れは以上になります。

途中、ロドリゲスとロリーが資金調達に苦しんでいた様子がちらほらと囁かれていましたが、最終的には問題なく資金を調達できていたようです。また、2020年以降NBAの球団価値が全体的にあがっているのも重要なポイントになってきます。

登場人物

これをさらに楽しむという意味では登場人物のことも知らなければいけません。この買収に関わっているプレーヤーはどのような人たちなのでしょうか?ここでは簡単にウルブスのオーナーのグレン・テイラーと、買収しようとしているロドリゲスとロリーを紹介します。

グレン・テイラーというオーナー

1941年生まれの82歳。ミネソタで生まれ、テイラー・コーポレーションを設立し、全米でも最大規模のグラフィック・コミュニケーション企業に成長させる。1981年から1990年までは共和党としてミネソタの上院議員を務めた。

NBAオーナーとしての評判は最悪レベルで、元クリッパーズのオーナーのドナルド・スターリンや元サンズのオーナーのロバート・サーヴァーの次に悪いと言っている人たちもいる。理由は以下に述べる。

・2000年にジョー・スミスとの契約でサラリーキャップ違反が発覚し、NBAから9ヶ月の停職処分を受けた。スターリンの前に停職処分を受けたオーナーはテイラーのみ。

なにがあったかと言うと、ウォリアーズとの$80Mの契約延長を拒否したスミスがなぜかウルブスと1年ミニマム契約で合意した。$80Mを蹴ったスミスがミニマムを選んだ理由は、ウルブスがスミスと1年契約を3回続けてバードライトを確保した後に、スミスに7年$86Mまでの契約を保証したためだった。NBAはこれを「これはチーム、選手、エージェントが犯すことができるもっとも深刻なサラリーキャップ違反だ」と呼び、当時のコミッショナーのデヴィット・スターンは「これまで見た中でもっとも広範囲にわたる詐欺のひとつ」だと言った。

これにより、ウルブスは$35Mの罰金と3つの1巡目指名権が剥奪された。

(グレン・テイラー)

・2020年にテイラーがウルブスの元GM/ヘッドコーチだったケヴィン・マケールから訴えられた。マケールは革新的な補聴器を開発していたEnvoy Medicalの創業者の義理の兄弟で、Envoyの1.5%を所有していた。

テイラーはEnvoyに億単位の金を貸すために、Envoyは知的財産を含むすべての資産を担保に入れてしまった。その後、マケールらは、テイラーが取締役会を乗っ取り、企業価値を下げようと企てたと主張。もしEnvoyがテイラーに金を返せなければ、テイラーがEnvoyのすべてを超格安で手に入れられるためだ。

両者は2023年の秋に和解。和解金額は不明。

また、この訴訟になる前に、Envoyの取締役に入ったテイラーは娘を会社に入れたが、娘は仕事ができず、ふてくされて職場放棄したため解雇された。しかし、テイラーはむりやり娘を再雇用する。

その時のローカルの記事がおもしろいので紹介する:「テイラーは会社全体ミーティングを開き、娘がEnvoyの従業員として復帰することを歓迎した。そして従業員には、『もし彼の決定が気に入らなければ辞めてもいい』と言った」

・テイラーとウルブスのレジェンドのケヴィン・ガーネット(以下KG)とのビーフ

(ケヴィン・ガーネット)

テイラーはKGがトレードされる前に故意にタンクしていたと非難。テイラーがレポーターに、「あなたは私たちは昨年タンクしていたようなものだと言っていた。私はそうは思わない。それはそれほど好きじゃなかった。私はそれは好きじゃなかった。それはどちらかと言うとKGがタンクしていたんだ。他の選手たちはまだプレーしたがっていたと思う」

KGはこれに対し、「グレン・テイラーがケヴィン・ガーネットの事をどう思うかは気にしない…なぜ彼がそれを持ち出してくるのかわからない。それはその人に分別があるかどうかを示している」と言った。

・KGはウルブスが2015年に亡くなったコーチのフリップ・サンダースにバナーを捧げなかったことに怒ったいた。KG:「グレンとはパートナーになりたくない。ミネソタでグレンとパートナーになりたくない」

・テイラーはサンダースとKGにウルブスのマイノリティー・オーナーを約束をしていたが、サンダースが死んでその約束を反故にした。手のひらを返されたKGは、「私はグレンを許さない。私は彼は正直な人だと思っていた。正直なビジネスマンだと思っていた」と話し、ミネソタは特別な場所だが「蛇(裏切り者)とはビジネスはしない」と言った。

・テイラーが2020年にウルブスを売りに出した時、KGが他の投資家たちとともに買収をしようとしたが、テイラーはバイヤーの中にはKGの名前はなかったと否定。KGはこれに対し、「たった今、私と私のグループにとってウルブス買収を試みるプロセスが終わったというニュースを見た。ありがとう、グレン、自分自身でいてくれて&私が知っているあなたでいてくれて」と皮肉で返した。

・このような事があり、KGはテイラーがいるウルブスで自分の背番号を永久欠番にするのを拒否し続けている。

ちなみにミネソタのスター・トリビューン紙はテイラーが所有しているので、そこからのテイラーに関する情報を鵜呑みにしてはならない。

ロドリゲスとロリーについて

マーク・ロリー
2024年時点の総資産は$4Bだと言われている。

2005年に赤ちゃん専門の商品を取り扱うオンライン会社のDiapers.comを立ち上げ、2010年にアマゾンに$545Mで売却。2014年にeコマースのJet.comを設立し、ウォールマートに$3.3Bで売却。2016~2021の間ウォールマートのeコマース部門を率いる。

現在、ロリーはハイエンドの食事をすぐに配達する事に特化したフード・デリバリーサービスのスタートアップのWonderを設立。最近、それを実店舗にピボットし、店舗を増やすために$700Mの資金調達を終えたばかり。本人はWonderの企業価値は数年で$1Bの価値に達すると信じている。

(マーク・ロリー)

アレックス・ロドリゲス
2023年の12月時点で総資産は$350M。

MLBで活躍し、オールスター14度選出、優勝1回、AL MVP3回を記録した野球界のスーパースター。2004年から2017の間ニューヨーク・ヤンキースでプレー。MLBのサラリーは合計で$475M。エンドースメントでは$100M~$200M稼いだと言われている。キャリアで合計$650M以上稼いだ。

(アレックス・ロドリゲス)

引退後にはマヴスのオーナーのマーク・キューバンが司会をするシャークタンクにゲストジャッジとして出演したこともある。

また2017年からジェニファー・ロペスと付き合いはじめ、2019年に婚約。しかし、ウルブスの買収が決まった後の2021年に別れる。

(ロドリゲスとジェニファー・ロペス)

球団売却合意は破棄できるのか

役者が揃ったところで、本題である今回のウルブス売却中止に移りたいと思います。

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