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NBA得点減少化現象についてのまとめ

3月1日ごろの話になりますが、NBAメディア界隈でオールスター休暇後に得点が全体的に下がっていて何かおかしいという話が出てきました。その後、3/8~12にかけてニックスが対戦相手を3試合連続で80点ゲームに抑えてから、審判が笛を吹かなくなってきていると言われ始めました。

それまではリーグ全体で史上最高のオフェンスのパフォーマンスを見せていて、去年リーグ史上最高オフェンスだったキングスの118.6よりもオフェンシブ・レイティングが高いチームは6つもありました(セルティクス、ペイサーズ、クリッパーズ、サンダー、バックス、シクサーズ)。しかもオフェンシブ・レイティングが117以上のチームは、昨シーズンの4チームに比べ、今シーズンはリーグほぼ半数の13チームでした。また、個人の得点記録も高くなる傾向にあり、1/22と2/3の間には少なくても60点とった選手が5人も出ています。

  • ジョエル・エンビード:70点

  • KAT:62点

  • ルカ・ドンチッチ:73点

  • デヴィン・ブッカー:62点

  • ステフ・カリー:60点。

このような記録的なオフェンスと選手による大量得点が続いた上に、オールスターの試合結果は211対186だったため、オールスター休暇後にリーグはオフェンスを優先し過ぎていて選手たちがディフェンスをしないと批判されていました。そのすぐ後にこの得点減少の話が出てきたため、審判が裏でコンタクトに笛を吹くなと指示されたのではないかという憶測が出てきていました。実際に2/3から3/30まで誰も50点以上取っていません。

マーク・スタインが実際にどれだけ得点減少したか調べたところによると、オールスター休暇前はリーグで1試合平均115.5点/フリースロー1試合平均22.7本で、1969-70シーズンから最多でしたが、オールスター休暇後は平均得点は111.7点/フリースロー1試合平均19.9本になっていたそうです。オールスター休暇から得点は1試合平均4点、フリースローは3本減っていることになります。

その件でスタインがNBAに確認をとったところ、NBAは審判に何も指示していないと主張。

ただ、偶然でこれほどの数字が変わる事はあり得ません。何か要因がありそうです。

それについて、元ESPNのアナリストのトム・ハバストローや元バックスのアナリストだったセス・パートナウらがオールスター休暇前後で得点減少につながった具体的な要因を数字を通して調査(?)していました。今回は彼らの調査結果をまとめて紹介します。

オールスター後の数字の変化

The Athleticのセス・パートナウの分析

ゲームの変化に最初に気づいた人たちの中にセス・パートナウがいます。まずは彼の客観的データから紹介します。(*以下の数字は3/8までのものになります)

  • フリースロー:10月から1月まで48分で平均45.6 FTAだったのに対して、2/1からは48分で40.4 FTAまで下がった

  • ポゼッション:48分で平均99.7 だったのに対して、2/1からは99.1に落ちた

  • オフェンシブ・リバウンド:24.5% から23.9%に下がった

  • トランジション:15.1%から14.8%に下がった
    (この3分野(ポゼッション、オフェンシブ・リバウンド、トランジジョン)が下がればフリースローも下がるべきだと言われている)

ファウルもエリア全体で落ちている

  • ドライブでのファウル:2/1前は7.5%だったのが、2/1からは6.5%に落ちた

  • リストリクテッド・エリア:2/1前は16.1%、2/1後は14.91%で7.4%の下落

  • ミッドレンジ:2/1前は7.48%、2/1後は6.68%で10.6%の下落

  • ペイント:2/1前は20.48%、2/1後は18.68%で8.8%の下落

  • アボーブ・ザ・ブレイクスリー:2/1前は1.05%、2/1後は1.01%で3.6%の下落

  • コーナースリー:2/1前は0.69%、2/1後は0.48%で29.6%の下落

  • シューティング・ファウル:1月まで48分で20.5だったのに対して、2/1~3/17の間では48分で18.6に落ちた。

  • ボーナスのフリースロー:48分で2.75だったのが、2/1からは2.0まで落ちた。

フリースローのポゼッションの平均はフリースローのないポゼッション平均よりも3秒短い。

結論:これらの数字は何かが変わったという証拠である。
オフェンスに対してのファウルの理解が変わったかもしれない。

トム・ハバストローの分析

3/14のキャブス対ペリカンズ戦で、キャブスは最初の3Qでフリースローが0本。試合をFT3本で終えました。これはまだドノヴァン・ミッチェルが生まれてもいない1994年から最低の数字で、キャブスが4QまでFTを撃たなかったのは2000試合ぶりだそうです。

その3分後、グリズリーズ対ホーネッツ戦で同じ事が起きました;ホーネッツが最初の3QでFTが0本を記録。

今シーズンそれまで3QまでFTがなかった事はありませんでしたが、それが5分の間に2試合も出てきました。

ハバストローやパートナウが言うように、審判がファウルを取らなくなったのは明らかです。

これまでこのシーズン途中でのルール改変(?)で最も影響を受けた選手はデミアン・リラードで、フリースローが1試合平均8本から4.8本に減っています。その次がステフ・カリーで、フリースローは5.5本から2.8本に減っています。影響を受けた選手の5位まではポイントガードで、上位10人中7人がガードになっているので、ドライブ中でのファウルが減っている事が伺えます。

(3/19までのFTAの変化)

これはカリーが笛を吹かれなかったプレーです。このような判定が1試合3プレー近く増えた事になります。その変化率は50%で、これまでよりも5割近く反則を取られなくなっていることになります。ガードにとっては厳しいルール改定になっています。

減ったのはフリースローだけではありません。

12月にはディフェンシブ・スリーセカンズで笛を吹かれた回数は、100ポゼッションで0.309回でしたが、1月にはそれが0.292に下がり、2月には0.187に落ち、3月には0.136になっています。これは笛が2倍吹かれなくなった事を意味しています。ノーシューティング・ファウル、テクニカル、トラベルも減っていて、審判は明らかにディフェンスに目をつぶっているように見えます。

シューティングファウル率が落ちたのは、エンビードとルカの70得点ゲームの後なので、NBAが判定を厳しくして対応したと考えられるようになりました。

ハバストローが話をしたGMやコーチたちは、NBAがファウルを取らなくしたのは、NBAはディフェンスをしないという話題を消そうとしているからではないかと仮説を立てていたそうです。チームのフロント・オフィスにいる人たちも、マーク・スタインがレポートしたNBAの説明を信じていなかったそうで、彼らはどちらかと言うと前触れもなしに審判が笛を吹かなくなった事に懸念を示していたそうです。あるベテランGMは「何かが起きているのは明らかだ。しかし、彼らはそれを言えない。それはゲームをいじくれるという事を意味するからだ」と話していたとの事。

このように全体的にファウルが減った結果、試合ペースが速くなり、試合が早く終わるようになりました。

2023-24シーズン(レギュレーションのみ)
・オールスター休暇前:2時間13分40秒
・オールスター休暇後:2時間11分51秒

2022-23シーズン(レギュレーションのみ)
・オールスター休暇前:2時間13分50秒
・オールスター休暇後:2時間15分1秒

2021-22シーズン(レギュレーションのみ)
・オールスター休暇前:2時間12分2秒
・オールスター休暇後:2時間14分39秒

フリースローが減ったので試合が短くなるのは当然の事ですが、現状審判が笛を吹かなくなってから2分減っています。前述したフリースローが3本だったキャブスの試合は1時間57分でした。

そのため、NBAはピッチクロックを導入して試合を速くしたベースボールのような事をやろうとしているのではないかと言う人たちもいます。フリースローがなくなれば、試合展開も早くなり、アクションの密度も高まるため、ファンも集中して観つ続ける事ができるようになります。

また、1年前や2年前はオールスター休暇後に試合時間が長くなっているため、プレーオフが近づくにつれてファウルが厳しくなっているのが見受けられます。通常判定はオールスター休暇後に厳しくなるようですが、今年は反対の傾向になっています。

テクニカルも落ちています。

ハーバストローが元審判のソースから聞いたところでは、審判はオールスター休暇前まではテクニカルを出しまくって選手をすぐに退場にしていたのですが、今はそれを止めようとしているそうです。テクニカルが減った具体的な数字は調べても出てきませんでしたが、間違いなく減っているようです。

ギャンブルへの影響

この審判が反則をとらなくなった影響は、スポーツギャンブルにまでも波及しました。審判が密かに笛を吹かなくなってからアンダーに賭けていたら、7割以上の確率で勝っていたような状態でした。大谷さんの通訳もこの期間中にNBAの試合でアンダーにクレジットマックスで賭けていれば借金が帳消しになっていたかもしれません。

イーサン・ストラウスがあるGMと話したところ、そのGMはインサイダーを懸念していたそうです。もしリーグオフィスの中に審判がファウルを少なくするという情報を知っている人がいて、密かに賭けをしたら勝ててしまいます。NBAも試合でファウルを取らなくなれば、得点やフリースローが下がることくらいはわかるはずです。このような判定に関する不透明さは大きな問題を引き起こしかねません。

元NBA審判のティム・ドナギーのような大きなスキャンダルが出てくる前に、NBAはゲームに影響する何かを変える前にきちんと世に公表するべきだと思います。

プレーオフとオリンピックに備えている!?

Spotracのキース・スミスとレイカーネーションのレヴォー・レーンは、審判がファウルを取らなくなったのは、これからあるプレーオフとオリンピックに備えているのではないかとの仮説を立てていました。

確かに金メダルを狙うチームUSA代表にとってよりフィジカルなFIBAのルールで戦う五輪に向けての良いレップになるかもしれません。

ケガが増えている要因か?

審判がファウルを取らなくなった事でケガが増えた可能性があるのではないかと考えているのが元グリズリーズのVPのジョン・ホリンジャーです

ゲームがよりフィジカルになった上に、ファウルで試合が止まらないため、以前よりも試合中に疲労度が蓄積していくのは間違いありません。

実際にオールスター休暇後はケガが多いような気もします。もちろんシーズン後半になればタンクチームはケガを理由に選手を休ませますが、プレーオフや優勝を狙うチームからの主要選手のケガ人も増えているようにも感じます。前年同月などで比較していないのでただの感想になってしまってます。主要選手がケガしているのでケガが多い印象を持ってしまったのかもしれません。

疲労が蓄積すればパフォーマンスにも影響するのは確かです。特に年齢が高い選手たちにとってはルール改変で試合環境がより厳しくなっているのかもしれません。ガードのカリーやリラードにとっては、フリースローの機会が減る一方で、走り続けなければならない状況が続きます。このような変更を「改悪」と感じているかもしれません。

NBAの見解

世間からNBAは密かに判定基準を変えて得点を抑えようとしているとの疑惑を受け、NBAがメディアを通して説明しました。

Wojを通してのNBAの見解は以下になります。

「NBAのコンペティション委員のミーティングでは、リーグオフィスはオフェンスの選手がファウルハントする事とバスケットへの方向を変えてディフェンダーに当たり行く判定を厳しくする事に注力していて、そして、どうやってこれらの強調ポイントがリーグの得点減少に影響したという概説があった。

1月と2月の強調ポイントを審判たちやチームに概説したリーグのメモがあり、そのメモでは、リーガルな守備位置とバスケットに続く道筋でのコンタクトのレベルについて、オフェンスとディフェンスのバランスの状態を評価し続けるとある。メモでは得点減少させるようにリーグオフィスから直接的な指示はなかったとあるが、リーグはそのトレンドを注視し続ける。より遅いペース、プレースタイル、競争の激しさ、判定のフォーカスなどがこれまで得点減少の貢献要因として認められている

NBAで25年審判を務め、現在は審判トレーンング&デベロップメントのシニアVPを務めているモンティー・マッカチェンがザック・ロウのポッドキャストに出演し、得点が減少したのは審判もその一旦を担っていますが、笛を吹かなくなった事が得点減少の直接的な要因ではないと釈明しました。また、得点減少はペースやポゼッションが落ちているためだと主張しています。

これでNBAと審判は、より遅いペースが得点減少の要因のひとつだったと認識している事がわかりました。

実際に、得点もオールスター休暇前の2/14の水曜には11チームが120点とっていました。3/13の水曜日にプレーした18チームで120点取ったチームはひとつもありませんでした。

ただ、これはハバストローも言うように、ちょっと苦しい言い訳です。

もし審判が笛を吹かなければ、プレーが続くので、ひとつのポゼッションの時間が長くなり、ポゼッションが減少し、結果ペースが遅くなり、結果得点が減ります。得点やポゼッションが少なくなったのはペースが遅くなったからではなく、審判が笛を吹かなくなったためにペースが遅くなったのです。

例えば、2ポイントのミスの平均時間とシューティング・ファウルを取られた時の平均時間を比べると、2ポイントをミスした方が3.4秒長いという数字が出ています。また、ボーナスでフリースローを得るポゼッションは平均9.9秒で、2ポイントのミスの平均ポゼッション時間の16.7秒よりもかなり短くなり、ペースを加速させます。

(各ポゼッションの平均時間。*グラフはハバストローのニュースレターから)

そのため、審判が笛を吹くほど、ポゼッションが増加=ペースが速い=得点上昇という事になり、審判が笛を吹かなくなれば、ポゼッションが減少=ペースが遅い=得点減少になります。審判がファウルをとらなければ、ポゼッションもペースも得点も減少するのです。

こうなると、審判側のポゼッションが落ちているため得点が減少しているという主張よりも、審判が笛を吹かなくなったため、ポゼッションが減少し、得点が減少したという事の方が正しいと思います。

これで、審判側が「直接的な関係はない」と遠回りに自分たちの責任ではないというナレティブを作り出そうとしているのがわかります。これではNBAがチームやファンたちに公開しなかった情報でゲームをコントロールしていたと疑念を持たれても仕方ありません。この議論ではごまかそうとしているとしか思えないのです。

また、マッカチェンは笛を吹かないのはコーチングが影響しているとも主張していましたが、根拠も数字も示さず、余計に疑念が募るものでした。

それに審判が反応しているのは、NBAが言うような「ファウルハントとバスケットへの方向を変えてディフェンダーに当たり行く」判定を強調するだけではなく、全体的にファウルを取らなくなっています。その辺りにはNBAもマッカチェンも全く触れていません。

しかも、NBAはチームにもメモで判定の強調ポイントを変えたと通達していますが、この映像を見る限り選手たちが新たな判定の強調ポイントに困惑しているのが見てとれます。これを見る限り、チームやコーチも判定が変わった事を知らなかった可能性が高いと言わざるを得ません。The Ringerのケヴィン・オコナーによると、GMや選手たちは「なぜ笛の吹き方を変えるのを教えてくれないのか」と怒っていたそうです。

The Ringerのケヴィン・オコナー

このような釈然としないNBAの釈明について厳しい意見を発していたのが先ほどちょっと名前が出たケヴィン・オコナーでした。

NBAのバスケットボール・オペレーションVPのジョー・デュマースが、エンビードとルカの70得点ゲームが続いた後で、「私たちはスリーのボリュームが多いペースではオフェンスが爆発するのを見る事になるが、リーグオフィスにいる私や他の誰からも(試合の得点を)ある特定の得点にしたいという事をプッシュしたことはない」と話し、NBAは大量得点のトレンドについて何もしない事を示唆した事について、オコナーは、「ジョー・デュマースの発言の後、オフェンシブ・ファウルが10%減って、ルーズボールが14%減って、チャージが32%減って、ディフェンシブ・スリーセカンズが41%減った。どのようなファウルコールであれ、ファウルの数字が落ちている。トランジション・テイクファウルも14%減っている。ジョー・デュマースやオールスター・ウィークエンドでアダム・シルヴァーが言った事とこれが起きたのは単なる偶然だとは思わない。彼らは選手たちにディフェンスをしてハードにプレーするように奨励している」と話し、デュマースの発言には懐疑的でした。

また、オコナーはスタインがレポートしたNBAの見解についても、「しかしNBAはノー、何も起きていない(得点減少などの変化)と言い続けている…これはスタッツ的な例外で、あなたの目玉で見ているものはリアルではない、と。それはブルシットだ。明らかに何かが変わっているのにも関わらず、彼らはそれを認めようとしない」と言っていて、「The Ringerではこれを『裏でこそこそルールを変えた』と呼んでいるとまで言っていました。

結論

ここまで得点減少について見てきましたが、リーグは「直接的」には審判に指示していませんが、判定や他の要因によって得点減少があった事を認めました。

NBAもディマースも、審判に得点を減らすように指示は出していませんが、全体的に判定を厳しくしろと指示していないとも言っていません。かなり解釈の幅が広くなるような説明しかしていません。

実は、オフェンスを優先しているとの批判を受けて、NBAが審判に判定をちょっと厳しくしてくれと頼んだら、予想以上の得点減少につながってしまったのが本当のところではないでしょうか。NBAもそれを知らされたチームも判定の強調ポイントが変わるだけで、これほど試合に影響が出るとは想定していなかったのかもしれません。

そう考えれば、NBAも判定が変わる事を公開せずとも問題ないと判断したのも理解できますし、良きスポンサーであるスポーツギャンブル企業に迷惑をかけるようなこともしなかったでしょう。

エグゼクティブやコーチたちが苛立っているのはルールの解釈を変えた事ではなく、シーズン途中から笛の吹き方を変えた事への透明性や説明の仕方です。このような急なルール改定はチームや選手たちに影響を与えるだけではなく、スポンサーやギャンブルをしている多くのファンたちの生活にも影響を与えてしまいます。この先、このような審判まわりの変更は事前に公表するなり透明性を持って行動して欲しいものです。

しかし、NBAの意図が何であれ、この結果はメディアやファンからは好意的に受け止められているようです。試合は短くなり、コンタクトも増えたので、エンタメ性も増しています(私個人の感想です)。やはり、人間はコンタクトスポーツに興奮するのでしょうか。

今後のポイントは、今後このトレンドが続いていくかどうかです。通常は判定強調ポイントはシーズンはじめに映像などを公開して厳しく取り締まり、およそ1ヶ月程度で平均値に落ち着つくと言われています。この笛の吹き方がこの先のプレーオフ、そして来シーズンまで続いていくのでしょうか。そして、それは戦術的にどのような影響を与え、どのようなトレンドを生み出して行くのでしょうか。これからも注目して見守っていきたいと思います。



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