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ひっそりとこびりついたあじ

わたしの一番小さい時の写真は
居間らしき部屋の座卓で
ちょっとモダンでポップな少女人形が収められた筒状のケースに
右手を添えて照れくさそうに笑っているポートレート
おそらく3・4歳だろうか
目はまんまるで大きく坊ちゃん刈りで日に焼けたように黒く
 (まるで「ちびくろ・サンボ」のようだと言われていたような記憶がある)
ギンガムチェックの上着…
当然まだ白黒の写真だ
兄や姉たちのように赤ちゃんからの写真が
なぜか末っ子のわたしだけが無かった
そしてへその緒もわたしのだけがやはり無かった
たしか小学の高学年になった頃だろうか
母にそのことを問うと
「どこがさいったんだべな…わかんねだべ」
 (何処かに無くしてしまったんだろう、わからない)
と、うっすら笑いを浮かべ答えるだけだった
だからわたしは幼少の頃叔父の一人が
「おまえは橋の下で拾ってきたんだっけ」という言葉を少なからず信じていた
 (昔の子ども、あるある話しだが)
そして以前の独白でも書いたように
5人兄姉の末っ子のわたしだけがなぜか幼稚園に行かせてもらえなかった
だから隣近所の同年代の遊び友達が幼稚園から帰ってくるまでは
いつも独り自分の世界を楽しんだ
近くを流れる北上川流域の林や湿地帯を探検したり
物置に潜んで漫画や雑誌を眺めたり
そして絵を描いたりいろんなものを作ったり…
とにかく自分だけの空想と創造の時の中を駆け巡っていた
ただ…小遣いはわずかだったのでおやつが無いことがとても悲しく
時々台所から黒砂糖の石ころのように硬くなった塊だけを密かに持ち出し
物置や押し入れや秘密基地に隠れて食べていた
しかしある時それが大騒動の原因になったことがある
わたしの姿が夜になっても見えないことから
「何か事故でもあったのでは」と
両親や兄姉や隣の母の実家の叔父・叔母たちや
そして近所の大人たち総出で近隣や川周辺などを探し回ったのだが
結局見つからず警察に連絡…しかしそれでも見つからず…
川に流されたのかもしれないということになり
夜が開けたら川の捜索を開始しようということになったらしい
しかし一番下の姉が「まさか…」と思い一度探した客間の押し入れを再び開け
今度は布団を一枚づつ取り出して見ると…
なんと布団と壁の一番下の隅に丸まって寝ているわたしを発見
その時のわたしは胸に黒砂糖の塊を包んだ紙包をしっかり握りしめ
満足気味な笑みの顔で寝ていたらしい(笑)
当然親父には正座させられしこたま説教され
それ以後は押し入れに入ることと黒砂糖は固く禁じられてしまった
 (でもその約束は何度となく破った記憶がある。苦笑)
それともうひとつ…
このことはまだ親兄姉、当時の友達など誰も知らない禁断の秘密(笑)だが
幼稚園ではおやつの時間があり
そのお菓子が大きな缶(一斗缶)に種類ごと入っていて
先生たちの部屋にあることを友達から聞いて知っていたわたしは
ある日の陽が落ちかかった誰もいない薄暗い幼稚園に窓から忍び込み
そのお菓子の缶を探し出して
上着とズボンのポケットいっぱいにお菓子を盗んだことがある
あの日の心臓がバクバクした恐怖と喜びの不思議な感覚
そして家族が寝静まった布団の中で息を殺し
ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家を思い浮かべながら食べた
いろんな美しい色の金平糖やビスケットの味は
まだ心の奥底に…
その他の様々な秘密と共にひっそりとこびりついている…

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