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エンジニアが8割の会社でデザイナーがPMをやってみた! エンジニアと一緒に1年を振り返る

こんにちは、
デザイナーのイノコーです。

ナビタイムジャパンで、地図アプリ『ここ地図』のプロジェクトマネージャー(PM)兼デザイナーをしています。

ナビタイムジャパンは社員全体の80%をエンジニアが占めており、デザイナーは全体の5%ほどです。そのような環境の中、私は2020年4月にPMを拝命し、1年間チームを牽引してきました。

今回は、先輩社員のメタル先輩をファシリテーターとして招き、エンジニアが中心の会社でデザイナーがPMをやってきたこの1年を、『ここ地図』エンジニアのネッシーさんと一緒に振り返ってみます!


登場人物

登場人物

イノコー
新卒5年目のデザイナー。MaaS事業部に所属。入社1年目で『ここ地図』の立ち上げから携わる。緊急事態宣言でフルリモートワークが始まった2020年度からPMに。UIを担当したり、3DCGを作ったりと、なんでも手を出しちゃうタイプ。

ネッシー
新卒4年目のエンジニア。MaaS事業部に所属。入社2年目の途中から『ここ地図』iOS版の新規開発に携わる。大学では研究のためRubyでスクリプトばかり書いていたが、仕事ではサービス側に携わりたくてアプリ開発を始めた。

メタルは全てを解決する
新卒でいうと15年目の中途13年目。経路探索エンジンやプローブ交通情報システムの研究開発に従事してきた。自分が作ってきたものをベースに様々なサービスが形作られることに喜びを感じている。
最終的な野望は全社員にメタルを聞いてもらうこと。


デザイナーPMが生まれた経緯

メタル:そもそもどういった経緯で『ここ地図』のPMに?

イノコー:『ここ地図』の立ち上げ当初からデザイナーとして携わっていました。アプリの市場価値を皆さんに知ってもらうため、リリースから2年ほどはユーザーへのPRや、定着させるための施策を行っていました。
ある程度ユーザーのみなさんに知ってもらえるようになった2020年度、事業責任者から「『ここ地図』を先進的なアプリにしてほしい」とお話をいただき、いちデザイナーからPMになりました。

メタル:どうしてデザイナーのイノコーさんにPMの指名が来たと思いますか?

イノコー:私はアイデア出しや、突飛なことを考えるのが好きなので、先進的なアイデアが必要なアプリに向いていると思われたのかもしれません。ただ、自分では「なんでもやる姿勢が買われたのでは?」とも思っています。


サービスに対する思想の共有

メタル:イノコーさんがPMになってから何件ぐらい『ここ地図』の新機能アイデアを出したんですか?

イノコー:小さなアイデアを含めたらキリがありませんが、少なくとも月1ペースで何かしら大きなアイデアを提案していたと思います。
私が出したアイデアのひとつは、AR周辺検索機能。カメラをかざすだけで周辺をカテゴリに分けて検索できる機能で、検索後は地図に戻ってルートを教えます。
結局、この機能は安全面などを鑑みてリリースには至りませんでした。でも実はカメラを起動したまま、AR上でルートを案内するところまでデザインは作ってありました。この機能はユーザーに安心して使ってもらえるよう改善を加えるか、潔く落とす必要がありますね。

メタル:考えて手を動かしたアイデアをやめるということは、作った人間にとってなかなか難しいことだと思います。リリースするしないは、どのような基準で決めていますか?

イノコー:ユーザーのみなさんにより使っていただける機能を最優先に考え前に出すことで、使われないであろう機能の優先度を段々下げています。
現在のところあまり使っていただけていない機能を落とすまでには至っていませんが、それよりも重要な機能にフォーカスしています。

メタル:ネッシーさんが開発した機能を、イノコーPMが徐々にユーザーの目につくところから落として行っていることに気づいていました?

ネッシー:そうですね。気づいていました笑。ただユーザーのみなさんに使われるものを作ろうと思っていたので、使われていないものを下げていくのは嫌ではありませんでした。

メタル:エンジニアは作った機能に愛着を持ちがちですが、目標がチーム内で共有されてるようで素晴らしいですね。

イノコー:PMになってすぐに『先進』とは何か?を噛み砕く会を行い、その後『ここ地図PJのチーム像』というものを作りました。早くからチーム内でサービスに対する思想を共有できていたので、同じ方向を向いて意思決定ができたのではないかと思います。

「先進」とは?

先進のためのチーム像

メンバー全員で考えて、最後にPMが確定させたチームビジョン


デザイナーにエンジニアの言語が通じるの?

メタル:エンジニア中心の企業なのに、デザイナーの自分がPMを任されてどうでした?

イノコー:不安はめちゃめちゃありました。緊急事態宣言下で出社もできない中での拝命だったので。私のメンターの先輩に、マネージメントとは?というところからオンラインで勉強を始めました。

メタル:それ以前に自分がPMになることを想像したことはありましたか?

イノコー:漠然とですがPMをやってみたいと思っていたことはありました。初期のユーザー定着のための施策を考えている中、自分がハンドリングすればもっとユーザーに喜んでもらえる施策が打てるかもしれない、と思うこともあったので。

メタル:ネッシーさんはデザイナーがPMになると聞いてどう思いましたか?

ネッシー:意外でした。でも、事業責任者の方針に納得していたので、その方針に沿って前向きにやろうと思いました。ただ、不安もありました。

メタル:何が不安でしたか?

ネッシー:デザイナーがPMになることで、エンジニアの時間軸や考え方、言語が通じないんじゃないかと不安に思っていました。エンジニアがPMだったときのような、阿吽の呼吸というか、ある程度察してもらえる部分がなくなるのだろうなと。


エンジニアとのコミュニケーション施策

メタル:イノコーさんがPMになり、実際の業務が始まってみてどうでした?

イノコー:そもそもPM業に慣れる必要もありました。ただ、前任のPMのベテランエンジニアがPJ内にいてくださり、エンジニアとの橋渡しを積極的にしてくださったおかげで助かっていました。
また、僕に対する不安からだと思いますが、ネッシーさんも率先してコミュニケーション施策を打ってくれたので、不安はどんどん減っていきました。

ネッシー:私は最初、どうやってデザイナーのPMとのコミュニケーションを取っていこうか試行錯誤してました。JIRAで定期的にアイテムを確認したり、リリーストレイン方式を提案したり、開発スケジュールの管理方法を提案したりしました。

イノコー:その節はめっちゃ助かりました。ありがとう。

メタル:全PJにPMがいるのは当社では当たり前のことですが、年次に関係なく、PMがフラットに変更されるのでそのあたりがいいのかもしれませんね。前任のPMがチームに残っている話はなかなか聞いたことはありませんが、とても良いチーム環境だと思います。
年齢や職種に対する障壁はありませんでしたか?

イノコー:わからないのが当たり前なので、いろいろな方々が積極的にフォローしてくださった気がします。年齢を重ねてからPMになるより、むしろよかったのかもしれません。当社では新入社員研修で、デザイナーにも3ヶ月間のエンジニア研修があります。ですのでデザイナーの私でも、触り程度はエンジニア業務が理解できていました。エンジニアに説明さえしてもらえれば、理解できるレベルまで新入社員研修で育てていただいたので、この研修制度には感謝しています。


デザイナーがPMになる苦労と成長

メタル:デザイナーがPMをやる上でどんな苦労がありましたか?

イノコー:デザイナーとPMの兼務には苦労しました。
デザイナーの仕事には明確な答えがありません。デザイナーが決済権を持つことで、理想論から抜け出せなくなってしまうのでは?と不安に思うことが多かったです。

1,PMが開発アイテムを共有する
2,デザイナーが理想を作る
3,エンジニアが落とし所を探す
4,PMが第三者的な目で判断する
5,デザイン修正
6,開発

がナビタイムジャパンがサービスを作る際の通常の流れですが、デザイナーの私がPMになったことで、

1,デザイナー兼PMが理想を作る
2,エンジニアが落とし所を探す
3,デザインを作ったPMが判断する
4,デザイン修正
5,開発

となりましたので、デザイナーとしての意見を強めすぎず、萎縮しすぎずのバランスを取る必要がありました。

メタル:どのように解決しましたか?

イノコー:理想と現実のどっちつかずになったときに、開発者から見てどこまでだったらチャレンジするべきか?を一緒に考えてもらえるよう、チームの目指す方向性をできるだけすり合わせました。
コンセプトや目標を一緒に見直して考え、ひとつの文章にすることで、同じ方向を向いているチームづくりをしました。

ここ地図アプリコンセプト

メタル:考え方の向き先を同じにすることで、イノコーさんの限界がPJの限界にならないようにしたわけですね。
ネッシーさんはエンジニアとしてどう対処しましたか?

ネッシー:デザイナーの要望があったときに、「やれるけど工数かかるパターン」「工数それなりだけどここまでなら実現できるパターン」など、いくつか提案するようにしていました。

イノコー:デザイナー的にも、費用対効果までちゃんと考えて作るようになりました。もちろん最大限いいものを世に出せればいいんですが、はたしてこれを作ってどんな成果があるのか、を考えられるようになりました。
結果的に、

1,デザイナーが理想を作る
2,エンジニアの落とし所を聴きながらデザインを修正する
3,開発

みたいな流れになって、スピード感が出ましたね。

メタル:理想論と現実論、両方から見て、互いにすり合わせるようになったのはいいことですね!


エンジニア側から見た、デザイナーPMと仕事する苦労と成長

メタル:デザイナーのPMと仕事する上でどんな苦労がありましたか?

ネッシー:エンジニアのPMと違い、正確に伝えなきゃいけないところですね。察してもらえないので。

メタル:察してもらえないとは?

ネッシー:緊急度合いや、スケジュールとのズレ具合とか。エンジニアのPMであれば、匂わせたらよしなに判断してもらえていました。デザイナーPMのイノコーさんだとそうはいかないので。

メタル:察してもらえることはエンジニアとしてはありがたいけど、察して!ベースが健全かと言われると気がかりですね。言語化が必要になったのはいいことなのでは?

ネッシー:そうですね!むしろ伝え方の部分で成長できました。

イノコー:自分がPMなせいで周囲は大変だったかもしれませんが、周りの成長をひしひしと感じていたので、とても感謝しています。


デザイナーvsエンジニア...?

メタル:いわゆる、デザイナーvsエンジニア(二項対立)はありましたか?

イノコー:日頃から会話のなかですり合わせて行くこと多かったので、バチバチ!みたいなのはなかったような。
特に開発に関しては、背中は任せた!状態でしたので。

ネッシー:そこまで自分がイノコーさんに信頼されてるとは知らなかったですが、たしかにのびのびと実装に集中できていたと思います。なるべくデザイナーの理想を形にすることを考えつつ、落とし所を提案して採用されていたと思います。理想より低くなっちゃうかもしれないけど、それでも良いアプリを提供できていたと思います。

イノコー:『ここ地図』はスピード感も重視していたので、ベストな選択はできていたと思います。

メタル:これまでのお話を聞いていて尊敬し合っていることが伝わってきました。
ネッシーさんはPMに責任を持たされる(任される)ことをどう思いましたか?

ネッシー:正直、そこまで責任を感じたことはないです。
「感じてた」と言いたかったですが笑

イノコー:できるだけ開発に専念できるよう、開発以外のことは渡さないようにしていました。ただ、他社や他事業が関わるアイテムに関しては、ミーティングにエンジニアの方に同行してもらったり、自分だけで決断できないことは持ち帰ったりするなどして、エンジニアに無理なものを押し付けないよう注意していました。

メタル:「開発に専念」という言葉があったのでちょっと心配したのですが、なぜそれをやるのか、は共有できてたということですね。

ネッシー:やりたくないことはやった覚えがないですね。

イノコー:やりたいことができる場所を作りたかったので!

メタル:プロダクトを良いものにしていくときに大事なのが、『みんなのやりたいことをつなげていくこと』だと思うのですが、自分がやるべきことを、どうやりたいことに紐付けていったのですか?

イノコー:先進性を求められていたので、先入観に縛られず、自由にいろんなことを検討し、素早く取り入れていく必要がありました。
そのためにはメンバーのモチベーションが必要不可欠。みんなの興味のあることを言い出しやすい空気づくり、それを取り入れていく姿勢を心がけていました。また、やらなければいけないことも、かなり早い段階から共有し、よりやりたいことに寄せていく努力もしました。

ネッシー:本当にそう。「やりたい」といったらすぐ「やろう!」になってました。

イノコー:コンセプトやミッションからブレてなければ、やったらいいと思っていましたので。
20秒ぐらいで話が進んでアイテムが決まったこともありました笑

メタル:ミッションが明瞭だからこそ安心してできた、ということですか?

イノコー:「先進」というミッションが明瞭かつ、程よく柔軟だったのでチャレンジすることができました。
きちんとみんなで噛み砕いた経験も安心してチャレンジできた要因だと思います。


デザイナーがPMでよかったこと

メタル:イノコーさんがPMでよかったな、と思ったことはありましたか?

ネッシー:イノコーさんは人への伝え方が上手で、プロジェクトの方向性を決めたり、社内外の調整をしてくれたので、自分は開発に専念することができました。「何でもやっていい」という雰囲気を作ってくれたのもよかったです。これは自分への自戒ですが、人への伝え方は学ばなければなりませんね。

メタル:自分への自戒が生まれたのがすごいですね!イノコーさんはどうでしたか?

イノコー:PMになることで責任が全て自分のものになり、かえって動きやすくなりました。チームの意思決定のスピードも格段に早くなり、どんどんアウトプットを出せました。
ただ自分が動きやすかったのは、開発に関して何もできない中、エンジニアとしてのチーム開発をネッシーさんが引っ張ってくれたおかげだと思います。ネッシーさんはただ作るだけのエンジニアではなかったので、安心して任せることができました。

メタル:インタビューの中で「信頼」「尊敬」「任せる」という言葉が何回も出てきましたね。
本当に信頼しあっていたんだな、ということがわかりました。


今後の『ここ地図』

メタル:今後ここ地図をどうしていきたいですか?

ネッシー:今までの姿勢やコンセプトは崩さずに進化させていきたいです。

イノコー:2020年度『ここ地図』のチャレンジの一つに、お台場を中心としたMaaS実証実験がありました。緊急事態宣言の影響もあり、かなり縮小したリリースとなってしまいましたが、何事もなくリリースできていれば、ここ地図のポテンシャルを最大限に発揮して実験を成功させることができたという自負があります。この知見を生かし、どんな地域の特性にも合わせられるもの、どんな場所の「ここ」にも合うものを作って行きたいです。

メタル:本日はありがとうございました。

イノコー・ネッシー:ありがとうございました!