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君がいなくなった、ある日

ところどころ端折ってます。悪しからず。



1年のうちの半年が終わり、梅雨の時期になった。
ジメジメとした湿気に、こっちの気持ちも知らずに降る雨にうんざりする。
全てがしんどいこの季節にイライラしながら目が覚め、タバコに火をつけた。
あぁ、マズイ。湿気で全く美味しくない。6月は大嫌いだ。

ふと携帯に目を移すと沢山のLINEと着信。LINEよりも着信が多いことに違和感があった。
1番沢山の着信があった電話番号にかけた。
※Aを仮名とします

「はい、もしもし、(苗字)です。」
『なつみちゃん?なつみちゃんの電話であってるよね?Aのお母さんです。』

声が震えている。嫌な胸騒ぎがした。気のせいだと信じて、次の言葉を聞いた。

『取り乱さないで、落ち着いて聞いてね、A、昨日、死んじゃって…首を吊ってて…』

泣き崩れて何言ってるのか分からなかった。
僕は数秒の沈黙の後、

「そうだったんですね、お葬式、行きますね。」

返答も待たずに電話を切った。
正直現実味が無さすぎた。
AとのLINEを見返してみる。2ヶ月前に、僕の方から、ラーメンが食べたい。幸楽苑に行こう。
と送っていた。既読はなかった。
そういえば凄い情緒不安定だったな、突発的に死んじゃう人ってホントにいるんだな。とか、幸楽苑まだ行ってないなとか、呑気なことを考えていた。きっとこの時はまだAがこの世界に居ないことを信じていなかった。


彼女は僕の2個上だった。彼女は僕とよく似ていて、自傷癖、OD癖があり、不登校だった。そして、ハイライトのタバコを吸っていた。僕と彼女は喫煙者だった。お互いに「臭いからやめなよ笑」なんて冗談を言い合う仲だった。

彼女とはよく遊びに行っていた。と言っても僕達は田舎に住んでいる。遊ぶところは大体その辺の公園だった。たまに仙台に行った。 それでも僕は楽しかった。
そういえば、1度2人で仙台に服を選びに言った時に、彼女は花柄レースのワンピースを手に取っていた。
「花柄とか凄い好きなんだけど全然似合わないんだよね笑」
そう言ってはにかんでいた。
この日はワンピースは買わずに、桜モチーフのヘアゴムを買っていた。彼女は嬉しそうに結んでいた。服もアクセサリーも全く分からなかったけど彼女が楽しそうで良かったなぁと思った。


幸せな回想は終わって、現代に戻る。
お葬式に行った。僕は、Aはどこだろう、と周りを見た。5秒後、ふと我に返る。来てるわけない、亡くなってるんだから。情けなくなって、鼻で笑ってしまった。
会場に入る。沢山の人にキツい香水の香り、Aは沢山の人も香水も嫌いなのに。
Aの母親に会った。顔を見ていけ、なんて言うので少し見た。
厚化粧の顔の中に見える苦しそうな彼女。そしてそれを囲む沢山の花
ようやく僕は、「亡くなってる」と実感できた。

6月、彼女は世界から消えた。
彼女は死んでもなお、花が似合っていなかった。

みんな口々に「可哀想」「眠っているみたいだよ」「まさかこんなねぇ」なんて言っていた。
僕は発言の全てにイライラした。
彼女を可哀想にさせたのは、こんなことにさせたのはお前らで、この世界で、全部全部彼女は悪くないのに。眠ってるみたい?だったら起こせよ。返せよ。お前らが彼女の代わりに死ねよ。

醜い感情を抱えながら葬式を終えた。
僕は誰よりも早く帰った。

帰宅して、着替えてコンビニへ行く。
いつもは買わないハイライトレギュラーを買って、彼女とよく行った公園に向かった。
彼女と僕の定位置の塀に腰掛け、タバコに火をつける。1口吸っただけで噎せた。タールは17mm、どんだけ重いタバコ吸ってたんだよ、と苦笑した。
今隣を向いたら、こっちに副流煙向けないで、なんてムッてしてる彼女がいるかもしれない。なんて淡い希望を胸に横を向いた。彼女はいなかった。僕は1人だった。
僕は嗚咽が出るほど泣いた。彼女がいない、何処にもいない、2人でタバコを吸うこともなければ、2人で幸楽苑にも行けない。
もう二度と会えない。
どうしようもない現実が波のように僕を飲み込んだ。


タバコはしょっぱくて、湿気てて、美味しくなかった。





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