見出し画像

せんせい…

 先生は私の小学生時代の担任だった。先生は毛深いから男子から陰で毛ジラミと呼ばれていた。だけど私は女子だったし、先生を深く尊敬していたからそんな下ネタ以下の下品な呼び名で先生を呼ぶことは出来なかった。

 そう、先生は本当に素晴らしい人だった。尊敬する人を上げろと言われたら真っ先に先生の名を上げただろう。私にとって先生は教師の中の教師だった。

 先生はダメな生徒だった私に本当に親身になってくれた。私がテストで何故か0点をとってしまった時は放課後の自習でつきっきりで教えてくれた。おかげで再テストは百点だった。テストの間0点の時と同じ答えを書いているような気がして何度も首を傾げたけど、それも先生の指導が頭に染みついたせいだと思った。体育の水泳の授業でプールに溺れた時は先生が同じように助けようとしてくれた女の教師を制して真っ先に私を助けてくれた。先生は俺がこいつの命を救ってやると人工呼吸しようとしてくれたけど、その時ちょうど私が起きたので助かって良かったなぁと大声で笑って喜んでくれた。

 小学校を卒業してからも先生は私を見守ってくれた。中学のときグレて家を飛び出したとき、何故か家の前で先生にぶつかった。先生は私に気づくと大汗かいた物凄い顔で「お前のことが心配で家に来てみりゃやっぱり家出なんかし腐りやがって!とりあえず公園に来い!俺がたっぷり説教してやる!」と叱ってくれた。それから私は公園で一時間以上に渡って先生の激しい説教を受けた。先生はダメな私を激しく叱りとうとう「こうなったら俺の部屋で朝までたっぷり叱り飛ばしてやる!」と顔をまっかにして怒鳴った。私はその先生の熱い説教に泣いてしまい、「先生、私バカだった!ちょっとの気まぐれで人生を踏み外すところだった。反省して家に帰ります」と泣いて謝った。先生はそんな私を切なそうな目で見ていた。きっと先生は元生徒の私がこんなにグレてしまったのを見て悲しくなったんだって思った。

 だけど高校に入った時に私はクラスメイトに影響されてまたグレてしまった。今度はパパ活だった。友達にお金一瞬で稼げるよとパパ活のサイトを勧めて来たので思わずサイトに登録をしてしまった。しかもバカげたことに登録の際に自分の写真をそのままアイコンしてしまった。私は自慢にも何にもなりはしないけど、それなりに顔も良かったので自撮りのアイコンを見てきたのか、金魚のフン以下のパパたちがすぐに食いついてきた。私はその中の教師だというパパに何故か先生味を感じてチャットを返して、その後何度かやり取りして会うことになった。それでホテルの前で待ち合わせをしたのだけど、来たのはなんとあの先生だった。先生は遠くから私を認めて駆け寄ってくると汗だらけの顔を真っ赤にして身を震わせながら私を怒鳴りつけた。「やっぱりお前だったのか!お前がパパ活なんかに手を染めてやしないかと心配でパパ活サイトを覗いていたらやっぱり!お前という奴は何回怒鳴りつけたらまともになるんだ!お前は金のために自分の体を犠牲にする気か!セックスは金のためじゃなくて愛のために行うんだ!今からその事を身をもってわからせてやるから俺と一緒にホテルの部屋に来い!」私は先生の熱い説教を聞いて自分が情けなくなった。先生はこんな周りに流されてパパ活なんかに手を染めようとしていたかつての教え子を見て絶望しただろう。いつまでも子供じゃないんだぞ。いつまでもこうして見守ってられないんだぞなんて思っただろう。私はこれ以上先生に迷惑はかけられないと心から反省し、体でわからせてやると腕を力づくで引っ張る先生を振り切って、号泣して「もう絶対先生に迷惑をかけることはしません!」と謝った。私はその後先生と別れたけど、その時も先生は切ない顔をしていた。私はその先生の顔を見て二度と先生を失望させたりはしないと心の中で固く誓った。

 その先生が今私の部屋の中で手錠をはめられて警官たちに組み伏せられている。警察を呼んだのは私だ。マンションの自宅の部屋に入ったら先生がタンスを漁っているのが見えたからだ。私はこの異常事態が理解できずうつ伏せで背中回しに手錠を嵌められている先生に向かってなんで家にいるんですかと尋ねた。すると先生はため息をついてからこう答えた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ない。私はあなたを小学校の頃からずっと気に入っていてストーキングしまくっていました。あなたが卒業してからは毎日ずっとです。あなたをストーキングしたいあまり教師もやめてしまいました。今ではただのストーカーです。あの、出来たら昔のことに免じて許していただけないでしょうか?一応いい事もしていますので」

 私は全身毛だらけでうつ伏せになっている元教師のストーカーを見てゾッとした。今までコイツがしてきた事は全部ストーキングだったのか!私の涙を返せ!私の思い出を返せ!私は箪笥の上にあった殺虫剤を元教師のストーカーに振りかけながら叫んだ。

「この毛ジラミ!さっさと死んでしまえっ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?