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全身女優モエコ 第四部 第二十二回:処女喪失!

 それからすぐにリハーサルが始まった。まずスタッフがモエコと南の前でシーンを、勿論服を着たままであるが、実際に演じてみせた。しかし両方とも男なので、彼らがどんなに熱演しても乾いた笑いしか起きなかった。南は喘ぎ声なんか出して必死に演技しているスタッフを無視してイモリのように目を剥いてモエコに話しかけた。

「モエコちゃん、君って意外に大胆なんだね。ボクの知ってる女の子に君のような子はいないよ」

 だが南の声はスタッフの演技をガン見しているモエコには聞こえなかった。この時のモエコはきっとブサイクなスタッフのくんずほつれつを見ながら必死に自分に叩き込んでいたのだろう。スタッフが一通り実演をした後すぐにモエコたちがリハーサルをする事になった。

 リハーサルではとりあえずシャワーを浴びるシーンは端折って、モエコの長い過去の告白のシーンからやることになった。南とモエコはバスローブを脱いで体にタオルを巻いた姿でベッドに座り監督の号令を待っていたが、その時南の奴が秘密めかした調子でモエコの耳元でこう囁いた。

「実はボク、前貼りつけてないんだよ。だってさ、あんな不格好なものとてもじゃないけどつけられないじゃないか。モエコちゃんはどうなの?さっき脱いだときつけているように見えなかったんだけど」

 モエコは今度も南を完全に無視した。今の彼女にはバカアイドルの南など相手にしている暇はなかったのである。

 しかしいくら周りに聞こえないからってよくこんな事を言えたものだ。私が南の会話を創作したわけでない事は他ならぬ南自身が証言している。ずっと後に出版した暴露本的な自伝で南は喧嘩別れした社長との性的関係や、同じ事務所のアイドルのスキャンダルを洗いざらいぶっちゃけていたが、そのついだかかなんだか知らないが、モエコとの関係やこのベッドシーンについても詳細に、いらん事まで書きまくっているのだ。


 しばらく待った後で監督の号令がかかった。スタッフは一斉にモエコと南にカメラを向ける。もはカメラの前で杉本愛美となって過去に強姦されたことをバカアイドルの南がやっている上代達夫に向かって涙ながらに語る。ああ!モエコにリハーサルなどない。いつでも全力投球だ。シーツをかきむしり身の不幸を嘆くモエコこと杉本愛美。その演技は確実にスタジオにいる人間の心を打った。それからいよいよベッドシーンのリハーサルに入った。モエコと南はタオルを巻いたまま先程スタッフが実演していた通りの位置で寝そべった。しかしである。なんとここでモエコが急にベッドから立ち上がって監督の所に行ってしまったのだ。

 監督はじめスタジオ中の人間がこのモエコの突然の行動に驚いた。まさか今頃になってベッドシーンが怖くなったのか。さっきのあの裸の決意は何だったのか。私でさえこのモエコの行動に驚いて頭が真っ白になった。監督はモエコに向かってどういうことだと聞いた。モエコはしばらく黙った後決然とした顔で監督に言った。

「監督さん。モエコ、ベッドシーンは本番でやりたい。ベッドシーンは何回もやるものじゃないと思うの。だって初体験は一回こっきりでしょ?それなのに何回もやったら嘘になってしまうわ。だからぶっつけ本番でやりたいの。安心して、モエコは絶対に失敗しないから」


 このモエコの言葉にスタジオの中の人間は感嘆の声を上げた。そこまで真面目にベッドシーンに取り組むとは!監督はすっかり喜んでモエコちゃんの言う通りにすると言うと早速スタッフを呼んでベッドシーンは一発取りにすると指示をした。皆が本番は凄い事になりそうだと口々に叫んでいるのを聞いて私は頭を抱えて塞ぎ込んだ。モエコは明らかにこのベッドシーンで南に処女を捧げるつもりだ。処女では全くない杉本愛美になりきるために自分の体ごと捧げる気なのだ。さっきのモエコの言葉は明らかに処女喪失を覚悟しての言葉だ。そしてモエコの演技に対する思いは危険なほど周りに伝わってしまった。裸での女優宣言。そして今回の本番宣言。このモエコの言葉に煽られてスタッフは完全に興奮状態に陥ってしまった。こういう雰囲気が時としてスタッフや役者を本番行為に走らせるのだ。危険だ今の状態でモエコを本番にイカせたら本当に本番をヤッてしまう!

 遠くで本番まで五分休憩という監督の声が聞こえた。バスローブを羽織ったモエコが再び私の所に戻って来る。スタジオ中の視線が一斉にモエコに集まった。ああ!もうその目は完全に本番を期待している目ではないか。モエコは無言で椅子に座った。私はモエコを見て彼女と東京駅で初めて会った日のことを思い出した。駅のホームで切符がないと喚いていたドレス姿の明らかに頭のおかしい少女。それがモエコであった。だがその天真爛漫に女優を夢見る姿を見ていたらいつの間にか本気で彼女をマネージャーとして支えようと思うようになった。だからモエコが滝のようなトラブルを起こしても彼女を守ろうと思った。それがいずれ大女優になる火山モエコを支える自分の役目だと思ったからだ。だが今モエコはその大女優になるために自分のいちばん大事なものを捨てようとしている。朝、モエコは演技のためなら処女なんて捨ててもかまわないと言った。だが本当なのか?本当にお前は何もかもを捨ててもいいと思っているのか?モエコよ。お前はまだ十七なんだぞ!普通なら同級生と淡い初恋でもしている年頃だろうが。なのにたかが演技のために全てを捨てるだなんて!その時私は手に温かいものを感じて現実に返った。手を見るとなんとモエコが私の手を握っているではないか。その手からモエコの震えが伝わった。私は恐る恐る彼女を見た。モエコは不安げな顔で私を見ていた。本番への不安、全てを失うことへの恐れ、その他諸々のことが彼女の身を震わせていた。

 やがて監督の撮影再開の呼び出しがかかった。撮影スタッフは各々の所定の位置につきモエコを南を待つ。南の奴は能天気にスキップしながらベッドへと駆け込んだ。後はモエコが来るのを待つばかりとなった。皆、固唾を飲んでモエコを待っていた。私は一瞬このままモエコの手を取って逃げ出してしまおうという考えが頭をよぎった。だが、その時モエコが私を呼んだのではっとして我に返った。振り返るとモエコは今まで私に見せたことがない、まるで兄を頼るような表情で私を見ていた。そのまま私を見つめていたモエコは私の手を取って言った。

「……猪狩さん、お願いだからモエコの演じる姿を見ていて。マネージャーのあなたにはモエコが本物の女優になる瞬間を、ちゃんと、ちゃんと見守ってて欲しいの」

 モエコはそう私に言い残すと私に背中を向けセットへと向かった。私はたまらずモエコを引き戻そうと腕をあげかけた。だが、私は何もすることが出来なかった。モエコはすでに私の手の届かないステージに上がってしまったのだ。


 そしてついに本番が始まった。今度は最初に二人がそれぞれシャワーを浴びるところから撮影が行われた。シャワールーム越しの軽い会話。そのセックスを前にした男女の会話が残酷なほど生々しく耳に響く。ああ!モエコよその鼻にかかった声はなんだ。バカのくせに大人ぶって!必死に童貞の上代達夫のふりをするイモリ野郎の南。その南をからかう杉本愛美役の本物の処女であるモエコ。ああ!モエコよ!何が私が教えてあげるだ!お前は処女だろうが!

 シャワーシーンを取り終えると今度は先程も演じられた告白シーンの撮影に入った。モエコの演技は先程より遥かに素晴らしかった。役者の中にはテイクを重ねるごとにドンドン演技がダメになるものがいる。だがモエコに限ってはそんな事はなかった。生前彼女はよく「今の私こそ最高の火山モエコなのよ!」と言っていた。その通りモエコの演技はテイクを重ねるごとに素晴らしくなっていった。この本番の演技もリハーサルの演技など児戯に類するものにしてしまう迫真の演技であった。その演技を見ていて私はだんだんモエコと杉本愛美が重なって見分けがつかなくなるような錯覚を覚えた。愛美のように両親に愛されなかったモエコ。愛美のように身一つで東京まで出てきたモエコ。そして愛美の人生を演じるために数々の屈辱を受けたモエコ。南の性的嫌がらせ。チンピラ達の暴行。救いのない絶望の中での絶叫。恐らくドラマのフラッシュバックで流れるであろう愛美の過去が、今、私の前を走馬灯のように駆け巡る。モエコは必死に愛美の苦悩をその身を持って演じているこの十七歳で世間をろくに知らない少女は、あれ程の傷と屈辱を味わわされても、今ここで、彼女に手酷い屈辱を味わわせた一人である南に向かって、昨夜チンピラたちに強姦された事を泣きながら告白している。何故なんだモエコ、何故そんな奴に自分の過去を打ち明けるんだ。そいつは上代達夫じゃなくてただのバカアイドルなんだぞ!いつお前を襲ってもおかしくない奴なんだぞ!どうして逃げない。そいつは今お前の処女を奪おうとしているんだぞ!

 シーツを掻きむしり、感情を露わにしながらセリフを喋り続けるモエコを見ているうちに、私はとうとうモエコがだんだん自分から離れていくような錯覚を覚え始めた。モエコは限りなく背景に退いていき、代わりに杉本愛美が舞台の中央に現れた。おい、お前がなぜ出てくるんだ。モエコを出せ!あのバカでわがままでどうしようもないモエコを出せ!モエコなんでそんな所に隠れているのだ!お前は杉本愛美じゃなくてモエコなんだぞ!現実に目覚めろ!だが、そんな私の心の叫びはモエコには届かなかった。長い告白を終えた愛美は号泣して床に崩れ落ちる。その愛美をバカアイドルの南がバカ面にインチキな涙を垂らながら後ろから抱きしめる。南の熱い抱擁を受けた愛美は顔をクシャクシャにしてその胸に飛び込んだ。ああ!モエコはどこに行ってしまったのだ。目の前にいる女はモエコではなく彼女そっくりの杉本愛美でしかなかった。モエコよ、お前はそのまま杉本愛美として進むのか!何もかも捨てて女優の道をひた走るのか!

 ここで監督のカットの声がかかった。それと同時にスタジオ内から緊張から解き放たれた安堵のため息が漏れた。スタジオ内の人間は一言も喋らずただモエコと南を一心に見つめている。モエコは演技が終わった途端南から体を離して背を向けた。私はそのモエコを見てまだ理性が残っていたのかと思ってホッとした。今の彼女は間違いなく私の知っているモエコであった。まもなくメイク係がやってきて慌ただしくモエコと南の顔や髪の色直しを始めた。その間モエコは目をつぶってひたすら撮影の再開待ち、バカアイドルの南はそのモエコを、まるでキャンディの袋を開ける前のガキみたいに、イモリみたいに舌なめずりしながらガン見していた。監督が告白のシーンにOKを出せばすぐにベッドシーンの撮影に入る。そうなったらもう私が入る余地はない。まもなく監督のOKのサインが出た。その途端スタジオ内が一斉にざわつき出した。ああ!とうとうこの時が来てしまった。今からベッドシーンの撮影が始まるのだ。

 スタッフがモエコと南にベッドで横になるよう指示を出し、二人は言われた通りに横になる。モエコは緊張しているのかバスタオル一枚の体をピンと張りそのまま仰向けで待つ。一方南のやつ平気の平左で緊張しているモエコを気遣うフリで声をかけたり、メイク係と雑談なんかしたりしている。さて撮影スタッフ同士の軽い打ち合わせが終わり、カメラが所定の位置についてさぁ撮影開始となった時、監督が突然声をあげてモエコと南の前に現れた。監督はモエコたちとスタッフに向かってシーンを追加したいと言い出した。

「なぁ、台本通りだと愛美が達夫に向かって「じっとしてて」とか言ってから愛美が達夫の上に乗っかるだろ?だけどそれじゃあんまり普通だし盛り上がらねえじゃねえか。だから俺は考えたんだ。愛美がじっとしててって言ってから布団の中にすっぽり隠れるシーンを追加した方がいいんじゃねえかってな!」

 この監督の発言にスタジオ中が異様にざわついた。監督の話を聞いていたスタッフも驚きのあまり目を剥いて監督を見た。ああ!このロマンポルノ野郎!とんでもない事考えやがって!モエコは処女なんだぞ!貴様は処女の人間にそんなトルコ嬢の真似事をさせる気か!ロマンポルノ野郎はさらに自慢げに喋り続けた。

「で、カメラはそのまま恍惚となった達夫の顔をクローズアップで撮るんだ。どうだすげえだろ!ここまですげえ濡れ場はテレビじゃ誰も撮ってねえはずだ!」

 この監督の説明を聞いて南のあのものすごい顔をしたマネージャーがさらにものすごい顔をして飛び出して監督を怒鳴りつけた。私も抗議するためにロマンポルノ野郎の元に駆け寄った。

「あなたふざけんじゃないわよ!キョウちゃんをなんだと思ってるの?キョウちゃんはあなたたちのおもちゃじゃないのよ!キョウちゃん今すぐ帰りましょ!こんなドラマ即刻降りてやるわ!」

 このものすごい顔をした女の子マネージャーの真っ当過ぎる批判に、ロマンポルノ野郎は興奮状態で立ちはだかってこれは愛美と達夫の燃え上がる愛を描くには絶対に必要なシーンなんだと激しく捲し立て、それから急に口調を和らげて南くんはちょっと気持ちよさそうな顔をするだけだし、モエコちゃんはただ布団に入るだけだけでなにもさせないよと言ってマネージャーを宥め出した。だがものすごい顔をした女マネージャーは一層ものすごい顔で監督を罵倒し、私もマネージャーに同調して演出を取り下げるよう監督に頼み込んだ。これ以上モエコを傷物にされてたまるか。私も女マネージャーと一緒になって監督を激しく責めた。だがその時、今までずっと黙っていたモエコが突然起き上がって決然とした表情で私たちこう言い放ったのであった。

「モエコ、そのシーンやるわ!なんだかわかんないけど愛美ちゃんがそう望んでいる気がするの。彼女がモエコに必死でモエコに懇願しているような気がするの。だからモエコはやる!本気でやるわ!」

 このモエコの言葉を聞いて誰もが沈黙してしまった。私も、あのものすごい顔した女マネージャーさえも黙ってしまった。皆覚悟を決めたモエコの圧倒的な態度に言葉を発する事さえ出来なかったのである。しばらくして監督が南に承諾をとった。南はモエコの態度に完全に我を忘れていたが、ハッと我に返って「モ、モエコちゃんがやると言うならボクだってやりますよ」と声を震わせて答えた。

 これで完全に退路は絶たれた。モエコは死刑台の殉教者のようにベッドに横たわって撮影再開を待つ。南も何故か先程の余裕を無くして無言でモエコと同じように横たわって待つ。そのモエコたちに向かってスタッフが追加のシーンの段取りを説明し始めた。スタジオはベッドシーンの撮影を前にして異様に興奮していた。皆明らかに何かを期待してざわめいていた。そんな熱気に当てられながら、私は胸が掻きむしられる思いでモエコを見つめていた。その時モエコも私を見つめた。その顔はさっき私の手を握った時と同じ表情であった。そして彼女は私ににっこりと微笑みかけた。

 私はモエコの悲しいほど純真な笑顔を見て、彼女がさっき私に言った言葉を思い出した。

「……猪狩さん、お願いだからモエコの演じる姿を見ていて。マネージャーのあなたにはモエコが本物の女優になる瞬間を、ちゃんと、ちゃんと見守ってて欲しいの」

 モエコの言う通り、私に出来るのは真の女優になってゆくモエコを見守ることだけだった。もうこの目に今の彼女と女優となった彼女を同時に焼き付けて記憶に刻んでおくことしか出来なかった。沈黙が辺りを包む。いよいよベッドシーンの撮影が始まろうとしていた。

 監督がスタートと号令をかけ、カメラが一斉にモエコと南を撮りはじめた。モエコ扮する愛美は震えて落ち着かない南扮する達夫に「じっとしていて……」と囁き先程の監督の指示通りに布団の中にすっぽりと入った。そしてカメラは布団から顔を出している南を撮り始めた。その瞬間だった。南の奴が急に目を剥いてキョロキョロし始めたのである。この場にいた者たちは一瞬にして何が起こっているのかを察した。モエコが潜っている布団がゆっくりと上下しており、その布団の動きに呼応するかのように南が喘いでいたからである。私はもう愕然とするしかなかった。この時真理子の昨晩の夜通しのレッスンの事を知らなかった私は、モエコはどこでそんな事を覚えたのかと激しい憤りを感じた。ああ!モエコそんなトルコ嬢のような真似をなんでするんだ!このあり得ない事態にスタジオにいた人間は互いに顔を見合わせて信じられぬといった表情をした。あの南のものすごい顔をしたマネージャーに至ってはものすごい顔をさらにものすごくして泡を吹いて倒れてしまっていた。南がまた思いっきり目を剥いた。そして歯を食いしばりはじめた。ああ!こいつまさか!

 ……だがそれでもカメラは延々と回り続ける。監督たちはこのありえない事態に興奮して歓喜の表情で目を剥いてモエコを凝視している。

 ……第一便を発車した南は完全に目が泳いでいた。彼も自分がどういう状況に陥っているのか全くわからないようだった。そこにモエコが布団から再び上半身を露にして現れた。モエコは完全に杉本愛美となり、南演じる童貞の上代達夫に向かって乳房を突き出し濡れた唇で微笑んだ。南はいまだこの事態が全く飲み込めずただ震えていた。なんてことだ!モエコはこのヤリチンバカアイドルを一瞬で童貞に戻してしまったのだ!モエコは動揺する南に向かって大丈夫よと囁いた。その時私は一瞬再びモエコがこちらを向いたような気がした。

「……猪狩さん、お願いだからモエコの演じる姿を見ていて。マネージャーのあなたにはモエコが本物の女優になる瞬間を、ちゃんと、ちゃんと見守ってて欲しいの」

 だがそれは勿論錯覚以外の何物でもなかった。目の前のモエコはすでに南にまたがっていたからだ。ああ!モエコは今少女を卒業して女優への階段を登り始めようとしていた。私は子供など持っていないので子供の親として卒業式に参加したことはない。だから私の参加した卒業式はモエコのこの女優への旅立ちの卒業式だけだ。しかしそれはなんて悲しい卒業式だっただろう。一人の少女がこうして女優になるために全てを捨ててゆくさまを見せつけられるなんて!

 そしてモエコは南の上にまたがった。今、モエコは杉本愛美として上代達夫の南とセックスしようとしていた。彼女は今潤んだ目で南を見つめ、濡れた唇を突き出してキスをした。そしてその体の中に南のものを迎え入れた。モエコの顔が一瞬にして苦痛に歪んだ。だがその顔はすぐに快楽の表情へと変わり喘ぎ声まで飛び出した。ああ!モエコよそれは演技なのだろう?そうと言ってくれ!南はモエコの責めに首を左右に振って思いっきり悶える。ベッドは激しく揺れ、肉体と肉体の激しくぶつかり合う音がスタジオ中に鳴り響いた。

「やってるぞ、おいホントにやってるぞ」

 私の近くにいたスタッフが小声でつぶやいた。ああ!その下世話な視線を浴びてモエコは今女優への階段を登ってゆく。モエコよ、今お前は何を思っているのだ。この苦痛と快楽の果にお前は何を見ているのだ。

「……猪狩さん、お願いだからモエコの演じる姿を見ていて。マネージャーのあなたにはモエコが本物の女優になる瞬間を、ちゃんと、ちゃんと見守ってて欲しいの」

 ちゃんと見守っているよモエコ。そしてこれからもずっと見守り続けるよ。未来永劫お前の全てを!


 予想もしなかった事態に動揺し、モエコにされるがままになっていた南はようやく我を取り戻した。彼は主導権をどうにか取り戻そうとモエコを無理矢理下にひっくり返しモエコの乳房をむしゃぶるように舐め回して上からがむしゃらにモエコを責めた。そして間もなく南は短い喘ぎ声を上げて果てた。

 




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