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行方不明のあの人

 シティポップ歌手KIYOSHI YAMAKAWAはまだ行方不明だった。こんなに探しもいないんじゃもう死んでるんじゃないかと流石にみんな思い始めていた。KIYOSHI YAMAKAWAを最初に発見した音楽ファン。それからDJ OSUGIのような同業者。そしてKIYOSHI YAMAKAWAの音楽の普及に多大な貢献をした音楽ライターの上曽根愛子。もうKIYOSHI YAMAKAWAを探すのは諦めよう。諦めましょう、諦めましょう。そんな華原智美の名曲のような気分に皆なった時だった。ニュースで日本人のシティポップ歌手KIYOSHI YAMAKAWAが南極付近で遭難したとこの報道が流れたのである。報道によるとアラスカに住んでいたKIYOSHI YAMAKAWAは南極に俺の理想があると言ってたった一人手漕ぎボートで南極に旅立ったそうだ。

 このニュースを聞いてみんなKIYOSHI YAMAKAWAに間違いないと確信した。理想の音楽を求めて日本の芸能界を捨ててアメリカに旅立ったあの男ならしかねない行動だ。もう七十近くなっても、いや人生を終盤に迎えたからこそなりふり構わず理想の音楽を求めに言ったのだろう。KIYOSHI YAMAKAWAなんて男なのと上曽根愛子は改めてKIYOSHI YAMAKAWAのそのスケールのデカさに感動した。しかし今は彼のスケールのデカさに感動している場合ではない。彼が生きるか死ぬかの問題なのだ。

 上曽根愛子はこのニュースが流れた直後からテレビやラジオやネットに頻繁に登場した。彼女はKIYOSHI YAMAKAWAを知らない視聴者にもわかるように彼の偉大さを説明し、それから涙声でKIYOSHI YAMAKAWAの無事を祈った。

 そしてとうとうKIYOSHI YAMAKAWAが見つかったのだ。彼はシロクマに追っかけられているところを南極観測隊に保護されたのだ。彼は思ったより全然健康で記者たちの質問にハッキリと答えていた。そして記者があなたはKIYOSHI YAMAKAWAさんでお間違い無いですよね!と質問すると、いきなりポケットからカセット式のウォークマンを取り出してテープをクルクルさせるとウォークマンのボタンを押した。

 もうこの時点で皆この南極観測隊に保護された男があのシティポップ歌手のKIYOSHI YAMAKAWAではなく同名の元演歌歌手だと気づいていたのでさっさとテレビを消そうとした。しかしいきなり歌い出した歌のあまりの酷さに突っ込まざるを得なかった。

「お前誰だよ!」

「ああ!アヴァンチュール・ナイトぉ〜♫熱海の夜わぁ〜♫」


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