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大阪でかすうどんを食べた。

 大阪。敗残者の巣窟。世のはみ出しものが落ち延びてくる街。徘徊する連中は夢破れた連中ばかり。東京には夢があるが、大阪には快楽しかない。大阪に落ち延びてきた連中は夢の代わりにその場しのぎの快楽を貪る。歓楽街を歩く男女。街中でその爛れた体を引き寄せ合う。街中に響き渡る嬌声と悲鳴。天神の森とあいりん。天国と地獄。永遠に呪われた街。ここは大阪。

 俺も堕落の果てに大阪に流れ着いた一人の風来坊だ。東京で夢破れ、関西を転々として大阪に流れ着いた。京都で爪弾きにされ、奈良で大仏の下敷きになり、神戸で牛と間違えられ、和歌山でパンダと同じ檻に入れられ、とうとう大阪に流れ着いちまった。今俺はここで絶望にくれている。俺の前を歩くのは田んぼが飛ぶ場所に行く連中。派手な色で絶望を隠し金と引き換えに一夜の快楽に誘う色街の女たち。だが俺には色を買う金はない。クレヨンしか買えない。今手元にあるのは崩したての900円。これが明日までの俺の全財産だ。

 さてこの金で腹を膨らませるにはどうすればいい。カスみたいなものしかないこの街で腹を膨らませる以上のメシなんてまず出会えない。とにかくコンビニで済まそうかと考えていた俺の目にかすうどんなる店の看板が目に入った。かすうどんだって?まさにこの街を象徴するうどんじゃねえか。俺は自虐的な笑いを浮かべて店の暖簾をくぐる。狭い店だ。おまけに臭え。行き着くとこまで来ちまったと思った。うどんのオヤジは関西弁でここ空いてますぅと俺を席に案内する。俺が座るとオヤジが注文を聞いてくる。メニュー表を見て俺は一番安いカスうどんを注文した。かすうどんなんてお前ら大阪人にはおあつらえ向きのメニューだぜ。俺はカウンターを見回して他の客どもを見る。どうしようもないカスども。さすが大阪。夢なき街にはカスみたいな人間しかいない。奴らを見ていたら早速カスなうどんがやってきた。熱いから気いつけてなとオヤジが俺に言う。

 かすうどんを食べて俺はこれが大阪のカスの象徴だと思った。天かすうどんの天国の美味と正反対の地の底の味。まさにカスな街の大阪にふさわしいうどんだ。かすうどんのカスっぷりを味わい尽くした俺はこんなカスなうどんを啜らなければ生きていけない自分が悲しくなった。

「なぁオヤジ。これよりカスな食べ物って大阪にあるのか?あったら教えてくれよ。いっそカスの海に溺れてしまいたいよ」

 オヤジは俺の質問に対して神妙な顔でひとつだけあると呟いた。そして笑顔で何故か俺を指差してこう言った。

「お前や」

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