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歴史のIF:江戸開城

 慶応四年、田町薩摩邸にて明治新政府軍の総大将西郷隆盛と、旧幕府の陸軍総裁との間で江戸城明け渡しの交渉がおこなれた。三月十三日と十四日の二日間に渡って西郷と勝はそれぞれの威信をかけて相手に条件を飲ませようと必死に説得していた。

 いくら大政奉還をしていようが徳川はやはり難敵である。ここで下手に相手の条件を飲んではいかぬと西郷はその達磨のような目を剥いて勝を威圧していた。一方の勝もここで譲ったら徳川は完全に朝敵となってしまうと背水の陣を敷いて負けてなるものかと歯切れのいい江戸弁で西郷を篭絡しようとしていた。

 だが二人は共に一歩も引かなかった。西郷は勝のペラペラ喋る言葉に無言で応え、勝は西郷のギョロ目に瞬きで応えた。勝は西郷の堂々たる態度にかすかな焦りを見た。へっ、天下の西郷どんも相当焦ってなさるな。やはりアンタも戦はしたくないらしい。確かに天下は朝廷に返したが、江戸はまだ上様のものだ。江戸を攻撃したら庶民だってだまっちゃいないぜ。勝は不敵に微笑み西郷に凄んだ。

「西郷さん、アンタラがこの江戸を攻めるならあたしらは民を脱出させてそれから江戸に火をつけますよ。そして業火に包まれた江戸に入ってきたアンタラを周りから大砲や鉄砲の雨を食らわせて焼き討ちにするんだ。アンタあたしのいってること冗談だと思うでしょ。だけど違うんだな。あたしゃ本気ですよ。本気も本気超本気ですよ」

 西郷は勝がふかしているのを見抜いていた。この男ほどの頭があるなら江戸を火の海にするなんて馬鹿げた事をするはずがない。きっとおいたちから譲歩を引き出す戦略だ。だが、ここで下手に撥ねつけたら、この男は本気でやりかねない。という事はここで手打ちにするしかないという事か。と西郷が考えたところで部屋の外から突然わらわらと人が入ってきた。旧幕臣たちである。彼らは部屋に入ってくるなりいきなり西郷の首を跳ねてしまった。それからギンギンにやばいぐらいの目を瞬かせてこう言った。

「勝先生!今話した計略聞いてやっぱ勝先生半端ねえって思いました!西郷の首取ったしもう新政府なんて目じゃないですよ!殺りましょうよ!新政府軍ぼっこぼっこにしてまた幕府再興しましょうよ!」

 勝は幕臣のあまりのバカさ加減にあきれ果ててこう言った。

「自分ら何しとんねん!みんなパーになってしもたやないか!」

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