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イベント友達 #12/31

『1231 大晦日』

12月31日、14時40分、大晦日。

〇〇:つぁあー……終わっ……たぁ〜……

タバコの吸い殻を灰皿に擦り付けた後、自身のノートパソコンのエンターキーを強く叩きつけた〇〇は年内最後の大仕事を終えた。

〇〇:あー!頑張ったー!!

デザインを生業に在宅ワークで休みなどの都合がつけやすい〇〇でも、毎年年末年始は大忙しだった。

〇〇:マジ……今年は多忙すぎるだろ……

美波と遊んだ25日以降、毎晩3時間睡眠を行なってきた〇〇は今日の美波との予定のために全神経を注ぎ、見事約束していた4時間前に仕事を納めた。

〇〇:美波との約束まで後4時間、とりあえず…少し寝てから迎えにいくか

そして4時間という時間が流れ、午後19時32分、〇〇宅から車でおよそ40分、美波宅から徒歩10分の市役所から、3人の女性社員が出てきた。

美月:はぁ…なんで私達公務員なのに大晦日まで残業しなきゃならないわけ??

美波:まぁまぁ、去年は飛鳥先輩達が担ってくれたんだし、仕方ないよ…

史緒里:ま、どうせ家に帰っても……って何あの車?

3人が敷地内から抜け、帰宅しようとした瞬間、目の前に停車する黒いSUVに興味を示した。

美波:あっ、実はあれ……〇〇なんだ

史緒里:えっ?〇〇さん?!

美月:うそ!やばい!挨拶しなきゃ!!

美波:い、いいよ!そんなのしなくてもいいよ!

美月:いやいや!しなきゃ!!

そう言って、山下美月は美波の抑止を振り切り、〇〇の元へと走り出す。

美月:〇〇さん!今行きます!!

美波:あ、ちょ!美月!!

史緒里:本当あの子は……〇〇さんが好きだねぇ

まるで達観したような物言いをしながらも、久保史緒里は早歩きで〇〇の元へと向かう。

美波:なんであのバカがこんなにモテるのよ…

車を走らせおよそ20分が経った時、ようやく〇〇と美波は2人きりになった。

美波:もう!〇〇のバカ!せっかく2人でご飯食べに行けると思ってたのに!あのバカ2人送ったせいでもう21時前になっちゃったじゃん!

〇〇:見栄張って「〇〇、2人送ってあげなよ」って言ったのは美波の方じゃん!!

美波:そうは言ったけども…

美波:断ってほしかったんだもん…

〇〇:えっ?

美波の珍しい乙女のようなわがままは、慣れない事を言ったためか、〇〇の耳には届かなかった。

美波:もう!なにもない!こうなったらやけ食いだ!!

美波:今日の夜ご飯代は私が出すからね!そしてすごくいっぱい食べる!だから〇〇も遠慮なしだよ?

〇〇:ふふっ、ありがとう、ご馳走様です

美波:よしゃー!じゃあ…いつもの喫茶店に〜レッツゴー

掛け声と共に〇〇によりハンドルを握られた車は、いつも通りの店へと加速した。

そして美波からのお返しという名目でご飯を食べた2人は、あまりに会話が弾みすぎたため、閉店ギリギリまで店でコーヒーを飲んでいた。

美波:ヤバイヤバイ!もう23時半だよ!!

〇〇:なんで俺たち、この前会ったばっかりなのにこんなに話盛り上がるの?!

毎年、歳を越す瞬間は2人の思い入れのある神社で鐘を鳴らす。そのため、今年もそこがいいと2人で決めた。

その神社までおよそ20分、現在23時41分。

2人は焦りながら、勢いよく車に乗り込み、シートベルトを閉め終えた後、エンジンをかけた。

美波:いそげー!〇〇ー!!

〇〇:もう最悪事故っても!

美波:ふざけんな!安全運転!最悪私だけでも守りなさいよ?わかった?

〇〇:……

美波:このタイミングで無言になるなよ…

23時53分、小越神社前駐車場。

美波:ま、マジで……間に合った??

〇〇:うん……まさかの10分でついた……俺どっか擦ったり信号無視してないよね?

美波:うん……多分……

何度マップで調べても目的地まで最短17分と呼ばれていた場所に、奇跡的な近道により2人は10分弱で到着していた。

美波:ま、間に合って本当よかった!!

余裕そうな言葉と態度で美波はそう言った。

〇〇:って、間に合ったんだし早く行かなきゃ!!

美波:本当だ!もう54分だよ!急いで!!

いつもの行きつけが、年末に限り23時半のラストオーダーをしていた。そのため2人は油断していた。

そして2人のその1年を無駄にしかけた焦りは、ラストオーダーから始まり、神社までの道中、駐車場にも及んでいた。

〇〇:ハァハァ……急げ!美波!

美波:わ、わかっ……てるよ!

体力の少ない美波は、〇〇の2歩後ろで息を切らしながら背中を追う。

美波:もう……ハァハァ……こうなったら……

美波:えぇいっ!!

最後の力を振り絞り、勢いよく飛び乗った。

〇〇:えっ、ちょ、美波?!

美波:えへへ、これで後は〇〇次第だね!さぁ〇〇号、私を背に乗せて……いざ!神社へー!

〇〇:鬼畜かよぉ……くそぉ……!!

文句を言いながらも、美波という存在を側で感じながら、〇〇は走り抜ける。

そして見事に人1人を抱えながら、〇〇は23時57分に神社へと到着していた。

美波:3分も余裕あるじゃん…

〇〇:ハァハァ……ハァハァ……ふざけんな……ハァハァ…俺が……めちゃくちゃ……ハァハァ……

美波:あはは、〇〇が死にそう!

〇〇:笑い事じゃ……ハァハァ……ない……

普段ならば、もっと強いツッコミを入れるはずの〇〇だったが、今は体力の限界だった。

美波:〇〇

〇〇:ハァハァ……ん?

膝に手を置き、中腰になりながら呼吸を整える〇〇の方に振り返り美波は〇〇の名前を呼んだ。

美波:最近はさ、私たちも就職とかして今年なんかはGWとハロウィンとクリスマスくらいしか会えなかったじゃん?

美波:でも、いつも通り年末にまた会えた

美波:だからきっと、来年は沢山会えるよね

〇〇:……あぁ、もちろん

〇〇:今年は、行事の日はもちろん、それ以外でも、何かあればすぐに会おう

〇〇:だから、今年も1年ありがとうございました

美波:あっ!先に言われた!しかも私の話途中なのにいきなりまとめに入ったし!

〇〇:へへーん、取ってやったよ!

美波:ぐぬぬだ、このやろう!!

年末最後まで、やかましくふざけ合う2人の並んだ列の最前列が10秒間のカウントダウンを始めた。

美波:ふふっ、今日が〇〇とでよかった

美波:〇〇、私こそ!今年も1年ありがとうございました

そしてもう1つ、美波が何かを言いかけ用とした瞬間、大きな鐘の音が鳴った。

…to be continued

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