イベント友達 #12/24
『1224 クリスマスイブ』
12月24日、18時22分、クリスマスイブ。
〇〇:ふぅ……まだかよ美波の奴……
カップルばかりが蔓延る、喫茶店の中、1人ホットラテを片手に美波の到着を待っていた。
〇〇:明日の予定を決めるためにご飯食べようって言ったくせに遅刻かよ……相変わらずだな……
デザイン業を職業とする〇〇は、在宅ワーク中心の生活を送るため、市の行政に勤める美波とは対に、急な予定やタイミングで外に出る事は容易だった。
美波:ハァハァ……おまたせ!!
パソコンを片手に仕事を進める中、息を切らした美波が〇〇の座る席へとやって来た。
〇〇:遅い、20分遅刻……
美波:違うんだよ、どうも1人のお客さんが戸籍謄本を今日中に引っ張り出したいらしく……
美波:それでね、ぜんっぜん!帰らしてくれなくて…
美波:だから……私のせいじゃないよね?
〇〇:無理、遅刻、ここの代金は美波持ち
美波:はぁ?!あんた男なんだから払いなさいよ!!
〇〇:まだ男だ、女だとか言ってんの?今は多様性の時代だよ?
美波:ぐ、ぐぬぬっ、そうだけども……
生まれたその日から共に隣人として育ち、幼馴染として成長を経た2人は、初々しさはなく、緩い口喧嘩のようなやかましさが心地よかった。
2人の性に対する口論対決は、いつしかカフェラテとブラックコーヒーの対立論争に変わり、紆余曲折を経たうちに2人はようやく注文を行なった。
美波:ん〜、おいひ〜
エビとアボカドといった黄金コンビをオムライスと混ぜ合わせるという珍しい料理を頬張って、美波は言った。
〇〇:ん、それ美味しそう……一口ちょうだい
美波:いいけど、その代わり〇〇のチーズ卵ハンバーグも一口貰うからね?
〇〇:背に腹は返らんない…
美波:取引成立!!
そう言うと、美波は自身が使用していたスプーンを皿の中に置き、皿ごと持ち上げ、〇〇に手渡した。
〇〇:ん、ありがとう。どうぞ〜
右手には箸を持ち、利き手とは異なる左手で皿を受け取ろうとした時の事だった。
美波:ちょっと、箸置いといてよ
〇〇:え……?
美波:いや、え、じゃなくて。その箸がないと私はどうやってハンバーグを食べるの?
何の疑問も抱かず、美波は〇〇にそう言った。
〇〇:いやいや、そこに新しい箸あるじゃん
美波:洗い物増えるじゃん
〇〇:何それ、何でそんな厨房の事気にしてんの
美波:私の節約術をこの店に共有してんの!
一人暮らし歴3年目の美波は、〇〇の持つ箸を取り、勝ち誇ったかのような表情を浮かべた後、ハンバーグに視線を移し、食した。
美波:ん〜、う〜ま〜
〇〇:はぁ……俺の気も知らないで……
美波の耳には届かぬように呟いた後、〇〇は少し躊躇いながらも、オムライスのそばにある使用済みであるスプーンを手に取り、オムライスを口に運ぶ。
「やっぱり俺は、幼馴染なんだろうな」
美波が使用したはずのスプーンを〇〇が使用しても、美波は味の感想を求めるばかりで、良い意味でも悪い意味でも気にする素振りは見せなかった。
卓上の皿や料理が下げられ、食後のホットコーヒーとカフェラテが運ばれた時、美波は本題に移った。
美波:それでさ、本題なんだけど……今年なんだけど…こことかどうかな!!
嬉々とした笑顔で美波は自身のスマートフォンに表示されたテーマパークを提示した。
〇〇:おぉー、すげぇ、デカいな
美波:そう!ここは元々テーマパークが売りなんだけど、今年のクリスマスはイルミネーションに力を入れてるんだって!!
美波:それにそれに……
〇〇:うんうん……
美波は自身が良しと判断した場所を丁寧にプレゼンし、〇〇も意見を述べながら、2人は遊びに行く先を決める。
会議が開始し、およそ20分を迎えたその時、〇〇と美波の最終投票により決まったのは、最初に提示したテーマパークだった。
美波:何とか決まったね……
〇〇:あぁ、かなり僅差の戦いだったな
美波:まさか隣町に日本最大級のイルミネーションが存在してるとは思いもしなかったよ…
〇〇:しかも駅から徒歩6分!俺らの最寄りからだと15分で着けちゃうとか……破格すぎた
美波:ね、危うく隣町に魂売るとこだったよ
〇〇:そんなスケールデカい話なの?これって
美波:とか言いつつも最終決定先なんて隣の県だけどね
〇〇:ふふっ、魂もっと遠くに売っちゃったな
美波:ははは、じゃあもうここでもよかったね
長期決戦を経て、遊び場を決めた2人は、ラストオーダーを聞かれ、時刻が20時を回っていたことに気がついた。
ラストオーダーを断った2人は上着を纏い、お店から出ることにした。
〇〇:ちょっと先トイレ行ってくる
美波:早く帰ってきてね〜
普段から〇〇はこのお店を愛用していた。だからこそ、トイレとレジの行き先が一緒な事、美波と〇〇が座ってる席がレジから見えない事も把握済みだった。
〇〇:すみません、お会計お願いします
店員:お会計ご一緒でよろしかったですか?
〇〇:はい……
毎月25日が給料である〇〇、つまり給料日前日の〇〇にとって2人分で3057円と言うのは、割とありがたい値段だった。
〇〇:ご馳走様でした、またきます
店員:はい、ご来店お待ちしております!!
ネームプレートに賀喜と書かれた少女は、優しくくしゃっとした笑顔でそう言った。
〇〇:大食い美波〜、帰るぞ〜
人差し指と中指の間に挟んだレシートをひらひらと靡かせながら〇〇は席にて携帯を触る美波を呼んだ。
美波:えっ、あれ!お会計したの?!
〇〇:今月は余裕あったからしゃーなしね
美波:そんなのダメだよ!私の分返す!てか遅刻したんだから私が全額出すよ!!
律儀と言う言葉を体現した美波は、財布を早急に取り出し、お金を取り出す。
だが、幼馴染である〇〇は、そんなの予測済みだった。
〇〇:じゃあ美波、これはガソリン代として受け取ってよ
美波:……え
〇〇:今日美波車でしょ?あいにく俺は電車で来たから帰り乗っけてよ。ガソリン代にしては充分でしょ?
美波:別に構わないし、むしろこんな距離でこんな高額なガソリン代貰えないよ……
電車といっても立地により電車1本、徒歩で言うと、およそ20分程度。散歩が趣味な〇〇にとってはむしろご褒美のような場所だった。
〇〇:まぁ、今日俺の顔立ててよ
美波:うん、わかった。でも次のご飯会は私が出すからね!そして〇〇が車出して!分かった?!
〇〇:わかったわかった
そう言い合いながら、2人は車に乗り込んだ。
美波:ありがとう、ご馳走様……
〇〇:どういたしまして。こちらこそ運転お願いします
美波の納得を貰うため、少し強引に車に乗る事になった〇〇は、散歩できない悔しさと美波のそばに入れる時間が増えた喜びが対立していた。
そして車が走り始め10分が経過した頃。
〇〇:あれ、これ反対方向じゃない?
いつもと違う街並み、時たま活用する3駅分離れた町にあるスーパーとパン屋を見つけ〇〇は気がついた。
美波:え?今気づいたの?やばくない?店出たタイミングで普通気づかない?やばくない??
〇〇:おい、バカ扱いすんな、やばいならお互い様だ
〇〇:てかこれどこっ……うわ、すげぇ……
拉致同様の事をされながらも、〇〇の視界に映り込んだのは、夜の街をも煌びやかに灯すイルミネーションが輝く街の光景だった。
美波:へへん!すごいでしょ!!
〇〇:うわ!すげぇ!綺麗!!
大通りの道路をゆっくりと進み、〇〇と美波は生い茂った木とイルミネーションを眺める。
美波:今年はテーマパークがメインだし、イルミネーションを見るには今しかないかな……って思ってね
〇〇:まぁイルミネーションも兼ねてのテーマパークなんだけどな
美波:まぁ、でもいいじゃん
美波:こうやって2人で、特に意味もなく、ゆっくりと車でイルミネーションもさ…
〇〇:だな
煌びやかに光り輝く世界のなか、2人は心を通わせ、見える星々を堪能した。
美波:じゃあ〇〇、明日は5時に駅前だからね!絶対始発で行くからね!ちゃんと起きてよ?!
〇〇:わかってるよ、ちゃんと起きるよ
美波:絶対だよ?!ちゃんと起きてよね!!
〇〇:わかったって!ちゃんと起きるから!
最寄り駅から徒歩8分、〇〇の住むアパートの前で美波は車を止め、窓から自宅に戻ろうとする〇〇にしつこく忠告する。
美波:そっか。じゃあ私そろそろ行くね
〇〇:うん、家まで送ってくれてありがとう。気をつけて帰れよ
幼い頃から縁のある2人だからか、淡白であっけない別れの2人だった。
美波:じゃあね、また明日
〇〇:あぁ……また明日……
視線を落とし、車の鍵を捻りエンジンをかけ、その場から美波が帰宅しようとした瞬間。
〇〇:美波、明日……2人で遊ぶの楽しみにしてる……だから、明日……楽しもうな……
〇〇:じゃあな
顔を赤く染め、そう言った後〇〇は、恥ずかしさを隠すように早急な背を向ける自室へと向かった。
美波:私も楽しみだよ!また明日ね!〇〇!!
背を向け合っているはずの2人は、明日のイベントに期待し、笑い合っていた。
…to be continued
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