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全裸の王子様 #29 後編


29話 『白が芽生えた日』


蒼乃:お前を殺す!

〇〇の剥き出しとなった殺意に、蒼乃薔薇もまた、挑発するようにそう答えた。

そして戦いは異次元へと。

〇〇:ああぁぁぁぁ!!

〇〇は自身の体に《治癒》を施し、五体満足となった体を使い、蒼乃薔薇目掛け思いっきり刀を振り下ろした。

蒼乃:ははっ!お前……やっぱ"化け物"だな

刀で受け止めた蒼乃は、一瞬にして自身の体を元の状態へと戻した〇〇に感心していた。

しかしそんな蒼乃薔薇の〇〇に対する関心も、次の瞬間に肉の裂ける音と共に蒼乃薔薇は悲鳴をあげ、それどころではなくなっていた。

〇〇:"貫け…《貫通》"

史緒里のそばに落ちていた小型ナイフをこっそりくすねていた〇〇は、蒼乃薔薇の腹部にナイフを当て、いつぞやの天能、《貫通》を付与し、土手っ腹を開けた。

蒼乃:ぐっ、ぐあはっ!!

突然のダメージによろめいた時、隙を逃さぬように〇〇は次の攻撃を組み立てる。

蒼乃:あがっ!

首を正面から掴み、強く握りしめる。

〇〇:"我が所有したる《回転》の力よ、我が触れたる彼の者の脊椎に大いなる回転を"

詠唱を唱え終えると、〇〇の手が持った蒼乃の首は、まるで濡れた雑巾を絞るように捻れていた。

蒼乃:ガッ、がっ…あぁ…かっ…かか…あがっ!

締め付けられ、何も声を出せなくなった喉を捩じ切った後、〇〇はさらにか力を込め、彼の首を握り潰した。

しかし、《否定》の天能を持つ彼は、しつこくももう一度死を拒絶し、離れた頭部と脊椎部分から細胞のような物が伸び、結合を始め出した。

〇〇:"好意を抱く者に愛情を……"

蒼乃:あっ?!

どこかで聞き覚えのある詠唱のフレーズに、瀕死状態の蒼乃薔薇は反応を示す。

――この詠唱は…

〇〇:"嫌悪を抱かせる者に対峙する力を我に!!"

――ヤンデレメイドの!

――あの"王子"が使うのとヤンデレメイドがあの天能を使うのとは…格が違う……

蒼乃:く、クソ……がぁ……

〇〇:"潰れろ"

蒼乃:――っ!

声を発することさえ許さなかった。蒼乃の体には普段生活する何倍、いや、何十倍もの重力が襲った。

メリメリと骨が軋む音が響き、やがて蒼乃薔薇の体をすり潰し、跡形もなく押し潰してゆく。

蒼乃:く……〜〜ざっ、けんなや!!く…クソがぁ…

うめき声のような声が聞こえた瞬間、重力と地面の間に挟まれた体は、圧力に負け、大量の血飛沫を上げ蒼乃薔薇は圧死した。

しかし、〇〇が手を緩める事はなかった。

〇〇: "敵なる者共に等しく用意の同数を…"

またも、潰れた各部位から細胞のような物を伸ばし、破損した体を繋げ始める蒼乃薔薇に攻撃を仕掛けようと黙々と準備を進める。

〇〇: 「thirty werden」

これだけでは緩まない。

〇〇:「fourty…fifty…sixty……」

〇〇の唱える詠唱に呼応するように、《用意》によって数を増やした三十本の剣が、四十本、五十本と、姿を現し、蒼乃薔薇を取り囲むように宙を舞う。

〇〇:seven……ガハッ……

元々、彼自身の体に、天能の使用数の限界は来ていた。

それでも、彼は唱え続ける。目や鼻、口から大量の出血が起きようとも。体の限界に耐えられず、ガクガクと足が震え出しても。腕の皮が捲れ、血管が血を吹き出そうとも。岩本〇〇は止まらなかった。

〇〇:seventy…eighty…ガハッ!…あぁ…はぁ…はぁ…まだまだっ…nine…ty……

蒼乃:あがが……な、なん…だよ…これ……

人間としての原型を取り戻した蒼乃薔薇が目を覚ました時、無数の剣が目の前にあった。

〇〇:千回……死ね……

〇〇:「one…thousand…werden」

蒼乃:待っ、

珍しく命乞いをしようとしたその時、多量の出血をした〇〇は、歪な笑顔を向け、手を振り下ろした。

蒼乃:うあぁぁぁ!!痛ぇ!あ、あぁ…ああぁあ!

まだ立ち上がれない蒼乃薔薇に千本の剣が降り注ぐ。雨のように所々に、血飛沫を上げ、肉を抉る。

しかし、彼の"殺意"はまだ消えない。

〇〇: "我が平行なる力よ、我含む数多なる物に一定なる力を……"

〇〇:はぁ、はぁ…

約八分間に渡る休憩なしの剣の雨が終わると、〇〇は美月の詠唱を唱え、剣を構えた。

蒼乃:あぁ…これでやっと…

死の苦しみから解放される。死を"苦しみ"と感じなくなっていた蒼乃薔薇は、そう思考した。

この攻撃が終われば、天能を酷使しすぎた〇〇はきっと死んでいる。そうに違いない。自身の勝利はこの攻撃を耐え忍んだら目前だ。

そう勘違いしていた。

蒼乃:あがっ……

だからこそ油断した。《平行》の力により、山下美月と同格の速さを得た〇〇は、目にも留まらぬ早業で、蒼乃薔薇の体をバラバラに切り砕いた。

蒼乃:あっ、う、うあぁぁぁぁぁ!!

何度生き返っても死んでしまう。負のループに陥った蒼乃薔薇は"痛み"を認識した。

それこそが、彼の天能の"穴"だった。

彼自身が"死を否定"する事で、永遠と不変の命を得たこのルールは、彼が死の否定を"否定"したその時、彼は一体どうなる。

それこそが、岩本〇〇の狙いだった。

蒼乃:嫌だ…もう……嫌だ……死にたく……ない…

つい先ほどまでとは一変。痛みから逃げ惑うように涙を流しながら命乞いを繰り返す。

蒼乃:もう痛いのは……はぁ…はぁ……嫌だ!どうか…助けてください!お願いしまっ、あぁああ!!

そしてまた、蒼乃薔薇は殺された。

〇〇:今更命乞いなんて知るか……お前が先に攻撃をしてきたんだ……じゃあ……責任取れよ……

蒼乃:ああぁぁぁぁ!!

無慈悲にも、岩本〇〇は、命乞いを繰り返す、"一人の少年"に、手に持った剣を、振り下ろす。



祐希:〇〇様……〇〇様ぁ!

涙を流しながら、祐希は〇〇の名前を呼び、走る。

彼女も〇〇と同様、屋敷の前に広がった悲劇と呼べる惨状を目にしていた。

大量の血を流し、目を開けない家族達。

祐希:〇〇様を…どこに…

起きてしまった悲劇という名の現実に、挫けそうになったその時、彼女に耳にとある声が届いた。

「お願い、代導者様…」

「助けて」

祐希:えっ?

それは、小さな男の子のような、どこかか細く、未だ幼い甲高い声だった。

「僕は取り返しのつかない事をした」

「それは分かっています。全部自業自得なんです」

「でも、もう止まれなかった」

「戦争の道具にされて、何回死んでも死ねなくて、死ぬことを認められなくて」

「だから僕は、もう一人の僕はあなたを殺そうとした」

「代導者様である、あなたを殺して、世界を終わらそうとした」

「そんな僕達があなたに助けを求めるのは間違ってる」

「でもお願いします」

「もう一人の僕…蒼乃薔薇と岩本〇〇さんを」

「止めてください」

祐希:何……今の?

脳内に流れた誰かの"助けて"と言う願い。その言葉を聞き入れ、祐希は戸惑う。

理解出来ない現象に悩みながらも、祐希はもう一度前を向き、立ち上がる。

祐希:今のが何だったのかは…わかんない…

祐希:でも…行かなきゃ……

祐希:〇〇様の……元へ……

そして祐希は、全てを終わらせる"代導者"として、最後の決戦へと向かう。

…to be continued

次回、最終回。

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