見出し画像

全裸の王子様 #25


25話 『進化を経て』


蒼乃:あー、全部思い出したよ

突如暗闇となった空間に閉じ込められた蒼乃は、動揺する様子も見せず、ただそう言った。

蒼乃:《領域》と《犠牲》……

蒼乃:お前らあれだろ?六年前、月下が研究してた天能の進化技術の"実験体"だろ?

それはまだ、佐藤楓と坂口珠美が、国の勝利ために作られた"兵器"と呼ばれた頃の話だった。



月下:君達兵器に私が求める物は"勝利"、それだけだ

遠い遠い記憶の中、博士と称されていた月下満は、あの暗い部屋で確かにそう言った。

月下:ここにいる君達は皆、この国の希望なんだ

まだ幼い少年少女達を集め、語り始める。

月下:現在、我らが住むグラドビース国は、あの忌々しい戦争に敗北して以来、勝利を許された事はない

月下:数百年も前の話だが、私達の国は今とは違い、列強と呼ばれていた

月下:だが、あの戦争で生まれた"異形"により、私達の国は"底辺国"と呼ばれたのだ

月下:おかしいと思わないか?

月下:たった一度の戦争に負けただけで"底辺"?そんな言われようも無いと反駁をしたい

月下:だが、僕はあの話を聞いて納得した

月下:俺達の国は、たった一人の怪物によって全滅させられたんだっ!!

まるでその場にいたかの様に月下満は悔しそうに側においていた机を叩きつける。

月下:それが奴だ…

月下:死んでも死な無いゾンビ……《否定》と呼ばれる聖天となる"天能"の保有者なんだ…

月下:そこで僕は考えたんだ

月下:彼らに勝てないなら、勝てる天能の保有者を一から作り出せば良いんだ…

月下:だから君達には協力をしてもらうよ

そう言って歪んだ笑みを浮かべながら月下は、目の前に座った少年の肩を触った。

月下:君は"天能"が何か知ってるかい?

少年は怯えながら答えた。

少年:て、天能はっ……選ばれしっ、人間が……与えられる…人を超越した力のだ、事です……

月下:うん、偉いね、良く勉強してるよ

月下:じゃあ次、君

隣に座る少女に指を刺し、新たに指名する。

少女:は、はい……

月下:"聖天"…について説明してくれるかな?

少女:"聖天"とは……今までに誰もが手にした事のない天能を称する単語……です……

月下:デメリットは?

少女:てっ、天能に解釈制限を掛けられる事です…

月下:うん……偉い!本当に偉いっ!君達はみんなほんっとうにえらい子供達だ!

自分の出した質問にうまく答えられた子供達に喜びを感じたのか、満遍の笑みを浮かべ月下は、褒めちぎる。

そして、

月下:だから君達は"解放"だ

月下:行ってらっしゃい、あの世へ

一瞬のうちにして、数十人もいた幼い子供達に短剣を串刺しとし、屠ったのだった。

月下:さっきの話、ちゃんと聞いてたよね?楓、珠美?

血液に染められた顔をこちらに向け、月下満は怯えながら震える佐藤楓と坂口珠美に問いかけた。

楓:は、はい……

珠美:きっ、聞いて……おりました……

月下:じゃあここからが本題、君たち二人には"聖天"として天能に目覚めてもらうよ

月下:"譲渡"と"移植"の段階は終わり、次はそれらを利用し"進化"を経て、"聖天"となるんだ…



蒼乃:そして出来たのがお前ら、《領域》と《犠牲》なんだろ?

蒼乃:残念だけど、お前ら二人じゃ俺には勝てねぇよ、お前らの天能はもう俺に割れたんだよ

々と人の忌まわしい過去を掘り起こした後、蒼乃薔薇は煽る様に対峙する二人に語りかけた。

楓:ながっながとウルセェンダヨ、別に今更過去の話されても大したダメージねぇよ

珠美:楓の言う通り、今更過去の話されたってほとんどダメージないよ?

楓:それ私が同じこと言ったよね?

珠美:それに私達の天能を知った上で私たちに勝てると思ってるお前になんて…

珠美:私達は負けねぇよ

そう言って珠美は、鞘にしまっていた刀を取り出し、蒼乃薔薇へと刀を向けた。

蒼乃:ははっ!いいね、じゃあ…見せてもらおうかっ!

蒼乃:お前らの"天能"っ!

蒼乃薔薇の興奮した様な声を発された瞬間、二つの刀はぶつかり合い、大きく火花を散らした。

珠美と蒼乃とは異なり、まだ動き出さなかった楓の目には、二人の死闘が映っていた。

互いが互いに、相手の首を切り落とさんと手に持った獲物を振り回す。

先に仕掛けたのは蒼乃薔薇だった。

寸前まで、珠美の猛攻を刀を利用し上手くいなしていた蒼乃だったが、珠美が大きく剣を振り上げた瞬間、背中に仕込んでいた短剣を取り出した。

蒼乃: "汝の力の根源となる天能よ、我が叡智により聖なる時代の兵器と成れ"

蒼乃:《色炎》

詠唱を唱え終えた瞬間、蒼乃薔薇の手に持った短剣は、刀身が形成され、刀のような形へと成った。

そして、赤い炎を纏った。

珠美:っ?!炎?!

蒼乃:さぁ!これは躱せるかなぁ!?

珠美は刀を振り下ろす前に足を引き、回避した。

上手く刀の間合いから逃れた珠美は、大きく横に刀を振るった蒼乃薔薇の隙を見逃さぬよう体勢を立て直し、刀で頭を貫くため、刀を突き出した。

蒼乃:甘ぇよ!

危なげなく珠美の突きを躱すと、蒼乃薔薇は上手く体を捻り、刀を振り上げた。

珠美:ちっ!くねくねと……鬱陶しい!

まるで演舞の様に攻撃を交わし、カウンターを狙う蒼乃薔薇の攻撃に珠美は紙一重で交わしながら鋭く追い詰めるように攻め立てる。

首を目掛け一閃、しゃがみ込まれた瞬間に先を見据えた様に体を捻り回し蹴りを見舞う。しかしその攻撃も腕によりガード。

二人の異次元とも呼ばれるほどの戦闘は、何十回もの間火花を散らし、繰り返される。

蒼乃:なんだ……天能使わねぇじゃん…

鍔迫り合いの中、蒼乃薔薇は挑発する様に語りかける。

珠美:まだ準備の最中なんだよ、せっかち野郎

蒼乃:その準備とやら、戦争中ならどうなっていたのかなぁ!!

言葉の勢いと共に蒼乃薔薇の剛力は、珠美の体を数十メートルも吹っ飛ばした。

珠美:あいたたたた…

楓:珠美!大丈夫?!

二人の戦闘に参加せず、両の手を合わせながら何かを祈る楓の真横に、珠美は吹っ飛ばされた。

珠美:うん、私は大丈夫だから、楓は早く"設定”の方、終わらせちゃってね!

楓:了解、後三分で終わらせるね

珠美:はいよぅっ!!

刀を杖のように地面に突き刺し、支えのように利用しフラフラと立ち上がった後、珠美は刀を持ち上げ、構えた。

そしてまた、地面を大きく蹴り上げ、間合いを詰める。

蒼乃:仲良しごっこは終わりか?

蒼乃:じゃあ……死ねっ!!

遺骸器を片手に迎え撃とうとする蒼乃薔薇の視界の中で、弾け飛ぶように珠美は加速する。

――さっきより速い!

明らかに先程の撃ち合いよりも早くなった珠美の動き。

燃え盛る遺骸器の一撃で、いつの間にか目の前へと距離を詰めた珠美を叩き潰そうと、蒼乃薔薇は大きく刀を振り上げた。

しかし珠美は、脇をすり抜けるようにして、蒼乃薔薇の背後へと回り込む。

完全に死角を取った。そう思い、珠美は自身の刀に力を込め振おうとした時だった。

蒼乃:残念だったな……

珠美:っ?!

蒼乃薔薇の声が聞こえた瞬間、珠美の視界に映っていた景色は明らかに違うものへと変わっていた。

珠美の瞳映ったのは、寸前まで背中を捉えたはずの人間の顔だった。

珠美:どうして……私が……ここに……

完全に回り込んでいたはずが、なぜか今、珠美は刀を大きく振り上げた蒼乃薔薇の目前に立っていたのだった。

蒼乃:ははっ、初めて使ったけど上手くいったな…

蒼乃:《入替》

タネを明かした時、蒼乃薔薇の脇腹から一つの短剣が地面に転がり落ちた。

――なるほど、私とこいつ位置が……って!今はそんな事よりこの攻撃を交わさなきゃ!

硬直した思考の中、自身に起きた異変に整理がついた時、珠美は自身の状況に気がついた。

蒼乃:おせぇ!!

どうにか蒼乃薔薇の一撃を躱そうと体勢を立て直すが、一瞬の硬直が裏目に出たのか、珠美が後方へと飛び込んだとしても間合いの外に出るには時間が足りなかった。

蒼乃:まずはお前からだ

勝ち誇った表情とセリフを吐き、蒼乃薔薇の炎に包み込まれた剣は、珠美目掛けて振り下ろされた。

珠美:ちっ、しゃーない

珠美:使うっきゃないか…

蒼乃:あ?

死を目前としているはずの珠美が呟いたセリフに蒼乃薔薇は違和感を抱く。
 
珠美:"汝が望む依代、我が生命を賭けて成し得る"

珠美:"我が左脚を持ってして、力を授けよ"

珠美:《犠牲》!!

威勢よく珠美がそう呟くと、蒼乃薔薇は焦りと呼ばれる感情に狩られ、早急に刀を振り下ろす。

そして、振り上げられた刀が珠美の脳天に振り翳される瞬間、珠美の後方へと蹴り上げた左脚が絞った雑巾の様に捻れる。

するとその瞬間、彼女の足元に大きな衝撃が走り、彼女の体ごと後方へと吹き飛んだ。

蒼乃薔薇の大きく振るわれた一撃は、珠美の機転の効いた回避により空振りに終わった。

そう、思われた時だった。

蒼乃:はっ?!天才かよお前…

蒼乃:でも、一手足りなかったな

蒼乃:"追い詰めろ「黄炎」!"

珠美:っ?!

空振りかと思われた刀の切っ先は、黄色い炎を纏い、地面を強く叩きつける。

その瞬間、黄色く灯った炎は強く着火し、炎の柱となり、後方にのけぞった珠美目掛け、電車の様に追い詰めてきたのだった。

蒼乃:油断したなぁ?!

壊れた左脚のせいで上手く受け身を取れなかった珠美はあっけなくも炎の渦に巻き込まれた。

蒼乃:ははは!お前もなかなか楽しかったけど、やっぱ初見殺しにゃ勝てねぇよなぁ!!

火災と呼ばれてもおかしくないほどの出量の炎が珠美を燃やし尽くす。

今頃灰になったであろう珠美を眺め、蒼乃薔薇は勝ち誇った表情を見せ、称賛を称えた。

蒼乃:じゃあ次はお前だな?《領域》さんよぉ…

楓:残念、あなたの敵はまだ私じゃない…"私たち二人"のままだよ?

蒼乃:あ?

??:油断してんじゃねぇよ

蒼乃:っ?!

確実に殺したはずだった。いや、生きているはずがないと確信していた。

しかし、生きていた。

珠美:まずは"ワンゲージ目"だ

蒼乃:お前?!どうして生きっ…あがっ…

炎の渦から無傷で抜け出した珠美に疑問を持った瞬間、蒼乃薔薇の頭部は吹き飛んだ。

珠美:今度は頭部討ち取ったり〜

蒼乃:お前らさぁ!!さっきからいちいち俺の頭ばっか攻撃してくんじゃねぇ!!

本日何度目かも覚えきれない頭部切断に珍しく蒼乃薔薇は怒りを露わにする。

珠美:時間かかりすぎだよ、楓

無事生還を果たした珠美は、捻れたはずの足や燃えたはずの皮膚が何事もなく、五体満足な状態だった。

楓:ごめんって、命の"ゲージ化"なんて初めて"設定"したから時間かかっちゃった

頬に垂れた汗を手の甲で拭った後、自身の天能である《領域》の最大解釈の詳細を語る。

珠美:まぁいいよ。これでやっとあいつを殺すことが出来るからね

蒼乃:あぁ?俺を殺す?

切断された頭部を完全に治癒しきった蒼乃薔薇は聞こえてきた発言に過敏に反応を示す。

蒼乃:やれるもんなら…やってみろよ!!

珠美:やってあげるよ

珠美:さぁ、ゾンビ野郎、あんたに残された残機二ゲージ、全部落としてあげる

楓:さぁ!第二ゲーム、開始!!

…to be continued

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?