第3章 国家は泥棒ですからねと嗤う弁護士『未来なくして課税なし』

「国家は泥棒ですからね」
 大阪の片隅にあるごく小さな事務所で、弁護士の佐々木正義はひとりごちていた。型にハマった組織が大嫌いで、それでいて法律も大嫌いな無法者の口癖だった。佐々木総合事務所と銘打たれたその事務所では、中小企業向けのコンサルティングや税務対策など、事業の盤石化を手がけていた。

 佐々木には、国家への根深い恨みがあった。幼い頃から、家族は常に借金地獄にあえぎ、国からの高額な租税の搾取に常に困らされてきたのだ。

「こんな泥棒め国家に近々滅ぼされてしまうのか...いや、待ってろ。やがて俺が大きくなり、この国からみんなを守ってやる」

 当時の佐々木は、そう心に誓っていた。

 その後京大法学部を卒業すると同時に、佐々木は無事旧司法試験に一発合格。弁護士の道を歩むことになる。しかし単に企業の顧問業務をこなすだけでは虚しく、アンダーグラウンドで脱税指南も始めた。

「合法的に税金を合理的な水準に抑えるテクニックを広めているだけですよ」

 佐々木はよくそう言い訳をした。だが実際には、グレーゾーンの手口を巧みに活用し、徹底的な脱税を広めていったのだ。

 最初のクライアントは零細な個人経営の商店からだった。佐々木は彼らに対し、経費の粗雑な計上で給与の一部を脱税する手口を伝授した。また、現金主義会計での収支の計上操作、従業員の扶養親族を連れ子化する手法なども教えた。あらゆる手段を使って合法的に節税するテクニックを伝えていったのだ。

「お客様の血税を守らせていただいております」

 佐々木はそう豪語し、クライアントの納税者を自ら守る側に回ると標榜した。手口はマニュアル化され、口コミで次第に広がっていった。

「弁護士先生のお陰で、確実に年ウン百万円は節税できるようになりました」
「佐々木先生の手法で会社経費が大幅に落とせ、やっと景気が良くなってきました」  

 このように脱税ノウハウは、アンダーグラウンドのグループで広く共有されるようになっていった。

 しかしある時、佐々木のノウハウを求めてマフィア勢力が接近してきた。組織力を利用すれば脱税がより効率的に行えると、佐々木に手を組むよう持ちかけたのだ。

「先生ぇ、私らと手を組めば素晴らしいビジネスチャンスが舞い込むやろ?」
「さらに言えば、組織の威力で税務当局への対抗策も用意できまっせ。先生だってサツに目付けられたくはないでしょ?パイプってのは時に強い守護神になりまっせ」

 佐々木は、誘惑に釣られそうになったが、最終的にマフィアへの監理統制権を渡すことに警戒感を抱き、提携を断った。それは自由ではないからだ。国家に手綱を握られたくないが反社にも握られたくない。自分の人生の舵取りは自分でするがモットーだ。

 しかしその後、佐々木の脱税ノウハウはアンダーグラウンドで完全に模造量産されてしまった。それっぽいアレンジを加えられ、マフィアによる手口の改変版が氾濫。不正な脱税実践が横行するようになってきたのだ。

 佐々木は「あぁ、こういうことになってしまうとは...」と嘆いた。自らの伝授した合法的な手口が、マフィアによるグロテスクな拡散を生み出している実態に、ある種の罪悪感を覚えざるを得なかったと同時に、大事に育てた我が子が遠い異国の地で名を上げているような歪んだ誇らしさも抱えていた。

 そんな最中、ある男が佐々木の事務所へと訪れた。仮想通貨取引所の創業者・田中だった。
「佐々木弁護士、お待たせいたしました。貴方の脱税ノウハウを拝借したく存じます」

この出会いが、再び佐々木を新たなる思惑の渦に巻き込んでいくこととなる。

金権とマフィアに惹かれながらも、己の理念に固執する佐々木。そんな佐々木の姿勢が、今後の日本の行方を左右することになるのだった。​​​​​​​​​​​​​​​​

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