透明な夜の香り

最後の一文を読み終えた時、
思わず本に顔を近づけて、匂いを嗅いでしまった
刷られた紙以外の香りなんてする訳がないのに。



私はいつも穏やかな日常に些細なできごとが描かれたような本を選んで読んでいる。
「透明な夜の香り」も、いつもの様に裏表紙のあらすじを読んで、最近お香に興味を持った私は、お香のようにおだやかな気持ちになりそうという安直な考えで選んだ。

読み終えて最初の気持ちを素直に言ってしまうと
「ハッピーエンドでよかった」。
一香は朔さんに、全てを見透かされていそうで
ある種「怖い」という感情を一時抱いた。
章を進んでゆくにつれて、
私も心を揺られている感覚がした。
少し衝撃的な描写もあり、心が底に沈んでいった。いつも読んでいる本が本だけに、居心地がとても良いとは言えなかった。
それでもページをめくる手は止められなかった。

面白かった。
読み終わった私の心の底と脳裏には
不思議な世界が広がった。
まるで朔さんの言葉のように、
決して真黒ではない、紺色の世界が広がった。

そして思わず、嗅いでしまった、
私の手元にあったままの、本の香りを。



独特な"香り"のする「透明な夜の香り」、
少し非現実的で、でもリアリティのあるお話を楽しみたい方、是非読んでみて下さい。


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