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[ボツ稿]突然の余りチケットのお誘いは、音楽に青春を賭けたあの頃へのタイムマシンだった ~2018.12.05頃~

(2018年の夏~冬、
 天狼院書店「ライティング・ゼミ」で書いたものを
 再掲載します。

 15作目は、
 日常からの過去話。
 
 過去のことに触れ始めると
 まとまらなくなる
 という力量の無さが出たもので、
 読み返してもひどかったので
 少し手を入れました。)





ある出来ごとが引き金になって、昔のことが一気に鮮明に思い出される、そういう経験は誰しもあるかもしれない。
今日は、先日体験した、そういう話を書いてみたい。

  

「急募
 明日の「自衛隊音楽まつり」のチケットが1枚余りました。
 欲しい方がいらっしゃいましたら差し上げますので、コメント下さい」

 スマホの画面にポップアップされた通知に、私は目が釘付けになった。
大急ぎでロックを解除しFacebookを開く。

自衛隊音楽まつり。聞いたことはある。
中学・高校の6年間をほぼ吹奏楽に捧げた私にとって、自衛隊の舞台は一度、生で見たいものの一つだ。

詳細を調べると、チケットはもともとお金をとっていないようだった。
抽選で配布、昨年の当選倍率は6.6倍。なかなか入手できないチケットだとわかった。
転売禁止だが、チケット転売サイトに出品されているのも見かけた。お値段、6000円。

 

明日? その音楽まつりに? 私、行けるかもしれないってこと? チケット、余り1枚?
突然の展開に、ドキドキした。
私は急いで翌日とそれ以降の予定を見た。仕事は大丈夫か、行っている場合なのか、慎重に確認した。
幸い、なんとかなりそうだった。

 私は興奮でしどろもどろになりながら、明日、行きたいです!! と返事のコメントを書き込んだ。
知人からはすぐに、OKの旨と、待ち合わせ場所のコメントが届いた。

あっという間のできごとで、私は突然、翌日の「自衛隊音楽まつり」を見られることになった。

 

翌日の夕方、仕事を半ば強制的に切り上げ、私は会場へ急いだ。外で知人と待ち合わせ、入場口へ進む。
さすが自衛隊、空港のような厳重なセキュリティチェックを経て、会場へ入った。
手渡されたパンフレットにはこれでもかというほどたくさんの曲目がならび、演奏・演技を行うバンドやフラッグ隊などの紹介があって、期待が膨らんだ。

開始1分前から間もなく場内が暗くなりますとカウントダウンがあり、開演時刻ぴったりに、自衛隊音楽まつりはスタートした。

 

ここのところ、街中のイベントでのちょっとした演奏はあるが、本格的な吹奏楽の演奏は長く聴きに行っていなかった。
弦が主体の交響楽も好きだが、やはり体に染み付いているのは、6年続けた吹奏楽の楽器の響き。
高校ではマーチングに打ち込んだ経験がある。
そして、自衛隊の音楽隊は、中学高校で私が吹いた楽器(ユーフォニウムという)で、高校当時「日本で一番すごい」と言われた奏者さんがいた楽団でもあり、レベルの高さはよく知られている。
私にとって、自衛隊音楽まつりのマーチング演奏は垂涎モノなのだ。


プログラムの前半、陸上自衛隊東北方面音楽隊のマーチングショーが始まった時だ。
私は、心を鷲掴みにされた。
2つの要素が、私の心を捉えて離さなかった。

一つは曲。「たなばた」という名曲で、これは中学の頃からの思い出の曲だ。私が中学1年生のとき、3年生の先輩方が、音楽も上手で人間的にも尊敬できる、すごい人たちだった。たった2年の人生経験の差なのに、雲の上の人に思えた。そんあ先輩方の引退が当時の私たちは悲しくて寂しくて心細くて仕方なかった。その3年生の引退の舞台となる定期演奏会で、「たなばた」を一緒に演奏した。
次々と美しいメロディが展開し、切なさも一緒にこみ上げてくる、でもとても明るい、その頃からずっとずっと、大好きなナンバーだ。

それを今、自衛隊が、広く親しまれている「きらきら星」「たなばたさま」とミックスしたオリジナルアレンジで演奏している。

アレンジの新鮮さも手伝って、心が震えた。

 

もう一つの要素。それは、どこか素朴さの残る、フラッグ隊の演技だった。
それは自分の高校時代を鮮明に思い出させた。

マーチングは、きらびやかな軍隊風衣装を着たバンドが、楽器を吹きながら隊列を組んで歩くものだ。
その時、周りで楽器は持たずに旗を持って踊る部隊がある。それを「カラーガード」という。自衛隊では「フラッグ隊」と言われていた。私は高校時代、それをやっていた。

私の母校は、公立校。カラーガードはマーチングのときだけ結成される部隊で、経験者もおらず、正直、技術力は高くない。資金がないので旗は手作り。カラーガードで一番見栄えのする大技は高さの出る「投げ技」だが、手作りの旗では個体差が大きく、同時に同じように投げても旗の飛び方が揃わないため、多用できない。
対するマーチング強豪の私立校は、専門のカラーガード隊がいて、年間通して活動されていた。全員が新体操選手かバレリーナのように身体能力が高く、技術力もあり、旗も規格の揃った市販品で、種類も多かった。

条件面で劣勢の私達の武器は、とにかく「しっかり顔を上げて」「笑顔で」演技をすること。校庭でのマーチング練習中、旗の技で失敗しても、顧問の先生やマーチング指導の先生からはあまり怒られなかったが、笑顔が消えると途端に「ガード!!笑え!!」と怒号が飛んだ。叱られて笑わなければいけない、なかなかの要求だった。

マーチングの主体はあくまでバンド。カラーガードはない学校も多く「基本的に加点要素はなく、失敗すれば減点」という存在。なまじ演奏がうまい学校だったので、カラーガードは「足を引っ張らない」ことに必死だった。

夏のコンクール後から秋の期間、来る日も来る日もグラウンドで練習に明け暮れる毎日。そんな努力が実を結んだのか、高校1年生のときに、全日本マーチング大会に出場し、そしてなんと、日本一になることができた。
自分たちで後から映像を見ても、全日本大会での演技は何か「神がかって」いて、揃う揃わない以上の迫力があった。素人のカラーガード隊でも、バンドの邪魔をせずしっかりと華を添えられたことが、とても嬉しかった。

 

目の前の世界に戻る。
陸上自衛隊東北方面音楽隊のフラッグ隊は、もちろん旗も技もキラキラだったが、プロっぽい余裕の笑顔というよりは、素朴で、懸命に笑って必死に演技していた。
その姿は、あの頃の自分たちに重なって見えた。

大好きな「たなばた」の曲をバックに踊る、陸上自衛隊東北音楽隊のフラッグ隊の笑顔。

見ているうちにこみ上げてくるものがあって、私は必死に涙をこらえた。

 

演奏が終わり、場内は大きな拍手。目頭が熱くなるのを感じながら、私も力を込めて拍手をした。

その後も、「自衛隊音楽まつり」は次から次へとすごい演奏・演技が続き、私は2時間、ずっと夢の世界にいるようだった。

 

終わって、数日、数週間が経っても、ふとした時に、頭の中で、「たなばた」が流れ出す。

これまでも大好きだったその曲は、自衛隊のマーチングの風景と合わさって、力強さも併せ持つようになった。

そうだ、自分には、何かに打ち込む力がある。そんなことが思い出されて、力をもらえる。


突然の余りチケットのお誘いは、まるでタイムマシンのように、私を音楽に燃えていた日々に連れて行ってくれた。
そして質の良い音楽にたっぷりと満たされ、あの頃の瑞々しい気持ちを思い出させてくれた。 

私は、もう一度、あの頃と同じような感動を味わいたい。同じような必死さを、同じようなやり甲斐を、同じような、突き抜けた体験を。

日常に、力が戻ってくる気がした。
目の前の仕事、任されたこと、やりたいと思っていること、新しいチャレンジ。やってみよう。丁寧に、必死に、真剣に、全力で。

やったことが、毎回、全日本のような、明確な結果に届くわけでは、ないだろう。
それでも、本当に必死になってやった時に、人にどんな力が宿るかを、理屈ではなく、私は知っている。

自分の知るすべての力を出し切ってなにかに向かう時、それはきっとどんな形であれ、誰かに届くと、信じている。信じられる。

 

さあ、どんなときも笑顔で、しっかりと顔を上げて、全力で、進んでいこう。

あなたは、今、全力で打ち込めること、打ち込みたいこと、届けたい思いは、ありますか?





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この記事は、2018年12月に書いたものです。

最後が弱いな~~と思って書き足すものの。
どうでしょうね。

自衛隊の音楽祭り、実際、ほんとに、すごかったです。
「夢見心地」とはこのことで。

チケットをFacebookで呼びかけてくれた知人には今でも感謝です。



そして、また聞きたいな~と調べたら、

なんと……ありました……!!

その、当日の、動画!!!!

15:17~ が、まさに記事に書いた演目です。

■陸上自衛隊東北方面隊
きらきら星★ / たなばたさま / Seventh Night of July


編曲が加わる前の、「たなばた Seventh Night of July」
東京佼成ウインドオーケストラさんの動画はこちら。


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