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無知は罪ではないが不幸

「無知は罪なり、知は空虚なり、英知を持つもの英雄なり」というフレーズをご存知だろうか。
古代ギリシアの哲学者・ソクラテスの残した言葉だ。

・「知らなかった」という無知が原因で引き起こされる罪があり。
・知識だけ持っていても経験がなければ虚しいだけで。
・知識と行動力を兼ね備えてこそ真に優れた人間と言える。

意訳

ソクラテスは政治家や詩人と議論を交わしては論破するタイプの人間だったので、周囲に敵が多かった。
「世の中は馬鹿ばっかりだ!」と嘆いてこんな言葉を残したのかもしれない。

さて、世間には知識がないことを理由に誤った行動を取ってしまう人が少なからずいる。
実際に「悪いこととは知らなかった」と悪気なく罪を犯してしまう人も。

しかしだ。
無知であることは本当に罪なのだろうか。



無知の恐ろしさ

日本で「マルチ商法」が広まったのは1970年代頃。
当時多くの被害者が出たことから1976年に「訪問販売等に関する法律」が定められ、その後改定を繰り返しながら現在では「特定商取引に関する法律」と改称されている。

このマルチ商法、法律で規制されているにも関わらず何故なくならないかというと、実はマルチ商法自体は違法ではないのだ。

マルチ商法やネットワークマーケティングといった商売は、正確には「連鎖販売取引」と呼ばれる。
かなり細かい規定が多いのでここでは説明しないが、一定のルールさえ守っていれば合法なのだ。

おかげで連鎖販売取引は「ネットワークビジネス」などに名を変えて法の目を掻い潜り、今現在も無知な人から金を巻き上げ続けている。

こうした実態を知っている人は決して引っ掛からないが、知らない人は善意や好意のマントを羽織った人々にいとも簡単に騙されてしまうのだ。

知識さえあれば防げるリスクというのは他にも多数存在する。
地域の防災・防犯情報や宗教勧誘、そして人々が口にしにくい性に関する話題もそうだ。



知識量によって人生が変わる

以前こんな記事を書いた。

日本の性教育の杜撰ずさんさの実態について書いたものだが、これも「知らなかった」で済まされない話のひとつだ。

令和2年度の人工妊娠中絶件数と実施率
DNAサイエンスの新型出生前診断」のサイトより引用

令和になった今でも1万人以上の10代女子が望まない妊娠をしている
もちろん犯罪に巻き込まれてしまったケースもあるだろうが、ほとんどは知識不足で行為に及んだ結果だ。

女性にとっての妊娠は、その後の人生を大きく変えてしまう可能性もある出来事。
こんなに大変なイベントが起こり得る前段階、すなわちセックスや避妊についての正しい知識を授けない学校教育には怒りさえ覚える。

昨今「生理の貧困」が取り沙汰され、校内の女子トイレに生理用ナプキンを無償配布する学校も出てきたが。
同じようにコンドームも配れば良いと個人的には考える。

無知により人生のリスクを背負わされることが分かっているのなら、まず教育が最優先されるべきだ。
これを実行した学校があるので紹介したい。



知識で貧困の連鎖を

去年たまたま見たNHKの「逆転人生」という番組で、とある学校の取り組みが紹介されていた。

20年程前まで荒れに荒れていた高校を再生し、子供たちの未来を再構築した校長先生の物語だ。
特筆すべきはこの学校の生徒に対する姿勢

例えば、在学中に妊娠してシングルマザーとなった女子生徒。
出産を終えた後に復学し、子供と一緒に通学する。
授業中は養護教諭や手の空いている先生が子供の面倒を見るのだ。

例えば、親に捨てられてひとり取り残された男子生徒。
児童養護施設に行く予定だった彼を説得し、生活保護の手続きを手伝う。
ひとり暮らしをしながら高校で勉強ができる生活環境を整えた。

元々貧困層が多い地域なので、所謂「貧困の連鎖」が起きやすい土地。
そこに着目し、総合学習の一環として「反貧困学習」という授業を取り入れた。

生徒自身にスマホで「年金制度」「社会保障」などのワードで検索させ、生活に必要な情報を自ら取得する方法を教える。
この取り組みにより卒業生たちは自分の人生を生き抜く術を学び、自暴自棄にならずに生活しているのだ。



無知の知

冒頭で紹介したソクラテスは「無知の知」という言葉も残している。

自分が無知である、ということを自覚した者は、それをしない者よりも遥かに善き生だ。

意訳

大人になればなるほど、自分が「無知である」と認めることは難しくなるだろう。
しかし「知ったかぶり」をする人間のなんと醜いことか。

万物全てを知る人間などこの世に存在しないのだから、自分の無知を認めることは決して恥などではない。
知らないことが見つかったら知っていけば良いのだ。

ネットで検索したり本を読んだり、時には専門家に直接質問するのも良いだろう。
常に正確な情報を受け止めるアンテナを開いておけば、人生における無知のリスクは相当量回避できる。

親の貧困によって辛い目に遭わされている子供たちに言いたい。
あなたの人生は貧困から脱せる。
正しい知識を手にし、どうか幸せな人生を歩んでほしい。


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