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【小説】 雪

「2月になると風邪を引く」
というのが、いつの間にか私の慣習となり始めていた。
ゴホゴホと席をしながら熱が出て動けない身体を無理矢理にでも引っ張って携帯を見る。時刻は午後6時だった。
日もだいぶ伸びたなと思っていたらいつの間にか暗くなっていた外。
時間は確かに進んでいるのに、寝ても寝ても進みが遅い気がする。
ゆっくりと上体を起こすと、脳も起き始めたのか喉の痛みを自覚した。ポカリをそっと口に含んで流し込むと落ち着く身体は満身創痍のようだ。
風邪になると、気持ちが心細くなっていかん。
東京で雪がちらついているとの話をSNSでチラリと見た光で、薄暗い部屋の中にぽうっと顔周りだけ明るくなる。
冬の終わりを告げているかのように降る雪は、きっとどこも美しいんだろうな。
明日には治して、外の雪景色を眺めたい。
そう思うと、また少しだけ眠れそうな気がした。
浅い眠りではなく深い眠りに潜りたくて、首まで布団を持ってくる。
一人暮らしの寂しさはとうにわかっているはずなのに、なぜかより一層増してしまうのは自分が弱っている時に限る。
寂しいって思っているのに、いつの間にか言えなくなった。
素直になることを教えてくれていたのかな、なんてぼんやりと考えながらうとうとと眠りの入り口へ向かう。
しん、と音のない部屋の外では真っ白な雪が降り積もっていた。

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