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【読むラジオ】#011 宇宙管制官に聞く「離れている人とのつながり方」

村上)今回から宇宙の「管制」の現場で、宇宙飛行士の健康管理をされている山村侑平さんにご登場いただきます。山村さんは有人宇宙システム株式会社に所属し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士運用技術ユニットの現場で働いていらっしゃいます。
今、僕らもだいぶリモートでのやりとりに慣れてきたと思いますけども、宇宙ミッションではそのずっと以前から、宇宙飛行士が宇宙に行ってる時に言葉でミッションを伝えています。ですがそこでは「伝えるんだけどうまく伝わらない」とか「別のことが伝わってしまう」みたいなことがおきます。命を預け合う関係の現場で、そういったもどかしさも含めて「伝える・伝わるみ」ことについて十年以上にわたって取り込まれている山村さんに、今回からお話を伺えればなと思います。

山村)皆さん初めまして山村侑平と申します。どうぞよろしくお願いします。

今井)早速ですが、宇宙の管制の現場で飛行士の健康管理をされているということですが、そもそも宇宙では宇宙飛行士の人達ってどんなストレスがかかって、どんなことが問題になるんですか?

山村)「一番」と言われると難しいですが、ストレスには様々な細かいものが重なって、いろいろなストレスになっていくんですけど、飛行士にとってやっぱり一番大きいのは「帰れない」ということです。宇宙飛行士は宇宙ステーションにだいたい半年間滞在するんですけれども、帰りたくてもすぐ帰れない。そういう環境が一番のストレスですね。

村上)宇宙飛行士はミッションに行くまでに何年もかけて訓練してから行くじゃないですか。だから行く前までは「あとどれぐらいで行ける」っていうカウントダウンをすると思うんですけど、現場に行ったら今度は帰るカウントダウンを始める感じになるんですか?

山村)カウントダウンをする人は少ないと思います。多分、目の前の仕事をとにかくやっていく。あまり「始まった、いつが終わりだ」っていうのを意識してる人は実際には少ないんじゃないかなと思います。

村上) 山村さんご自身は、どれぐらいのフェーズから、どういう風にミッションに関わって行くんですか ?

山村)飛行士がミッションにアサインされるのが2年前くらいからですが、1年前くらいから、どういった人がその期間の担当者になるか決まっていきます。私もそこから少しずつ準備をして行きます。私はメンタルヘルスの担当もしてますので、飛行前の面談とか、飛行士との対話を始めていきます。

村上)宇宙に行ってる間は、基本的には声がメインになるんですか? 映像もありますか?

山村)カメラは至る所にあって、地上側から宇宙側の様子は見えます。ただ宇宙飛行士側は、部分的にはビデオで顔を見ながら会話をする場面もありますが、音声でのやりとりがメインになります。ボイスループといって、音声で地上側また宇宙飛行士側がつながりながら仕事をしていく、そんな世界です。

村上)音声の特殊性、強みも弱みもあると思うんですけど、音声の世界ってどんな世界ですか?

山村)「早い」ことが特徴ですね。宇宙ステーションは世界15カ国で一緒に運用しています。ですから地上側も、すでに時間の違う国々と同時につながっている状態です。そんななかで皆それぞれが意思判断や決定をしながら進めていきます。その時に、音声でつながるっているとスピード感が全然違うなと感じます。

村上)「生」ということですね?

山村)そう、「生」ってことだと思いますね。

村上)生の中だと、いろんな会話があると思いますが、NG とかも含めて、どんな感じなんですか?

山村)一応ボイスプロトコルといっていわゆるマナーと言うか、決まった形で話しましょうというルールはあるんですけども、ただそれだけじゃない感じはあります。

今井)山村さんはその中で、主に声や音を使って宇宙飛行士のメンタルを管理していくってことなんですけど、具体的にはどういうふうに音で飛行士と関わるのでしょうか。

山村)私の場合はビデオ付きの会話を使います。宇宙飛行士から私たちの顔も見えるし、私達も飛行士の顔が見える。そういった中で話をしていきます。

今井)どんな話をされるんですか?

山村)生活が上手くいってるか、仕事がうまくいってるか、疲れがたまっていないか、とかいうところですね。聞いて行きながら、何か困ることがあったら一緒に考えていこうというような感じでフォローしていきます。

村上)映像付きである理由はなぜですか?

山村)やっぱりお互いの様子を知るという意味では視覚情報があるといいんだろうなというところですね。先ほど言った「音声だけ」のやりとりは、仕事をする時はやはり音声だけでやった方がうまくいくケースはあるかなと思っています。でも「様子はどうかな」という時には、映像付きで話をすることが大事なんじゃないかなと思うんです。
ただ、映像で見るというのは、どっちかというとお互いの様子を認知し合うというところがもしかしてあるのかなと思います。

村上)僕らも普段からリモートをすごく使うようになりました。よく議論として、カメラをもうちょっと解像度高いやつにしたり、音も360度で……、などと際限なく求めれば、まるで会っているかのようにやろうと思えばできなくもない。でも僕は南極越冬をしていた時のことを考えてみると、けっしてそんなことはなくて、情報を伝える・伝わるときには適切な情報量があるんだなといつも思うんですよ。情報が荒くても、むしろ荒いからこそできるコミュニケーションもあれば、やっぱり映像が欲しいなというときもある。ケースバイケースだなって僕は思うんですけど、その辺りはいかがですか?

山村)まさにそうだなと思ってまして、私も最初の頃はよく見えた方がいいんじゃないかと思ってたんですね。でもさっき言ったように、「見る」ということは相手から「見られる」ということなんです。相手から見られているという意識も出てくるので、よく見えていないくらいの時の方が少しリラックスできるケースもあるんじゃないかなと思っています。
私たちは飛行士の声だけではない様子も知らなければいけないので、ビデオは大事です。ただそれってある意味で、飛行士を評価してるような立場になる点には、気をつけなきゃいけないなと、いつも感じているところです。

村上)山村さんは現場にいないけれども、間違いなく現場の一員ではあるわけです。そのあたり、現場にいるクルーより難しいんじゃないかと思うのですが、いかがですか。

山村)多分みなさんは「宇宙飛行士が仕事をしている」というイメージで取られるのかもしれないんですけど、やっている現場では、地上と飛行士の境目って、あまりないんですね。
宇宙ステーションの運用は地上の各局と宇宙飛行士全てで動かしていて、そこが全部ボイスループでつながっている。その中で仕事をしているので、そこの境目みたいなものはあまりないです。
ただ私達みたいな健康管理の立場というのは、すごいスピードで動いてる運用にも若干片足を突っ込んでるような立場で飛行士をフォローしてるような、ちょっと絶妙なポジションなんです。

今井)情報量が多ければそれでいいわけではない、というのはすごく新鮮でした。次回も山村さんに「伝える・伝わる」についてお話を伺います。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 山村侑平さん提供)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #012  「モードを切り替えて、力を抜こう」

管制官にとって大切なのは、緊急時の対応力だけでなく、平時の心の保ち方にある。オンとオフの境が付きにくい普段の暮らしにも役立つお話を聞きました。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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