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懐の深い道北の大河、天塩川を行く

このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。北海道の天塩川でアウトドアガイドをされる辻亮多さんに、川とともに生きる暮らしについてお話を伺います。

あまりにでっかくて、得体が知れない

今井 手塩川の生き物とか、風景が写真や動画のように伝わってくるお話をいただきました。

村上 僕なんか携帯の目覚まし音で目覚めが来るわけですけど、辻さんは魚の音だとか、空気の変化とか、そういったもので目覚める暮らし。羨ましいの一言ですよね。

今井 辻さんはいつ頃、どういうきっかけで、天塩川やこの土地と出会い、今活動されていらっしゃるんでしょうか。

辻 天塩川に僕が住み始めて今年で9年目ぐらいになるんです。それまでは北海道の中でも東の道東って言われるところの別の川でカヌーのガイドをしていたんです。

村上 今までの道東の川から、北の天塩川に来た時、その初めて川を見た時、どんな印象でしたか。

辻 そうですね、とにかく大きくて、得体の知れない感じの川だなあと思いました。

村上 得体の知れないというのはどういうことですか。

辻 あまりにも圧倒的な感じだとか、そっけない雰囲気の川と思いました。僕はもうちょっと人っ気のある四国の川で育ったので、何だこの野性味のある得体の知れない川は、みたいな第一印象でした。

村上 それまでの道東の川というのは、逆に言うと、もうちょっと人っ気があったということですか。

辻 釧路川という川だったんですけど、そこも国立公園になるような自然豊かな川ではあるんですけども、やっぱり観光地っていうこともあって、たくさんのカヌーが下っていく光景が見れたりだとか、釧路川ってこういうイメージだよねっていうような素敵な風景があったり、という感じなんですよ。
なんですけど、天塩川はあまりにも茫洋としていて、日本の最北に向かっていく260キロもあるでっかいでっかい川なので、どこからとっかかっていいんだろう、みたいな印象でした。

村上 辻さんが住んでる所は、そんな長い川のどの辺になるんですか。

辻 海から135キロぐらいの中流って考えていいかな。

村上 辻さんはその中で、どれぐらいの流域を行動範囲にしてるんですか

辻 海から遡って200キロくらいの中を行ったり来たりしてますね。

村上 この9年間の間で徐々に徐々に見えてきた部分は・・・

辻 徐々に徐々に仲良くなれてきたところもあるし、とにかく日々観察し続けて少しずつリズムがわかってきたところもあるし、やっぱりそれでも距離感みたいなのは大事かなと思います。飼いならせる感じの雰囲気では全くないです。

村上 それは怖い思いもするということですか。

辻 そうですね。例えばカヌーで川を下る時に、一回川に入っちゃうと何10キロも次に上がる場所がないようなこともあるんですね。その中で雨が降ったり雷が鳴ったり、ということもあるわけで、やっぱり水との距離感みたいな所はすごく慎重に慎重にかからないといけないなという印象です。

村上  この番組の中で、熊本県の球磨川という災害があった川の話を伺ったことがあったんですけど、その災害が過ぎた後に、かなり人々を苦しめた災害ではあったものの、その地域の人たちが誰一人として川のせいにしなかったと言うか、それでもなお川を愛してるって言うなことをおっしゃっていたの今思い出しました。辻さん自身も、怖い思いであるとか場合によっては生活の中で気をつけなきゃいけないってところもあるんですけれども、その得体の知れなさっていうところが9年経って、愛すべきものの対象になってるんですか。

辻 愛すべきものになっていると思います。でもやっぱり距離感は大事。お付き合いの仕方ってのは慎重に考えないといけないなという感じですね。おそらく球磨川とか、生活の中に川があるんだと思うんですよね。生活と川っていうのが密接につながってるんだと思うんです。天塩川の場合は、人の生活と川が、そもそもが離れた場所を、別の時間を流れているような川なので、そういう印象なんでしょうね。

猛暑と少雨で、異常な水温上昇

今井 今年も全国的にはたくさん異常気象と言うか、自然の変化があったかと思うんですけれども、天塩川ではどうでしょうか。

辻 天塩川でもやっぱり気温が高い状態が続いちゃったんですよね。それプラス雨がすごく少なかった。川の水がね極端に少なくなっちゃった。得体の知れない偉大さがあったはずの天塩川がなんだかすごく頼りないような姿になっちゃって。それプラス、暑さによって異常なぐらい川の水温が上がっちゃいました。魚たちにはとっても辛いような状況になっちゃったんですよね。

村上 その変化というのは今年、急だったんですか。それとも予兆みたいなのは数年前からあったんでしょうか。

辻 私の知ってる範囲というのは10年とかそれくらいの中での変化だとは思うんですけど、ここ2,3年っていうのはそういう傾向にありました。その中で今年はもうとにかく際立って暑い、雨が少ない、そういう状況でした。

村上 自然って元々は懐が深くて吸収していける部分もあると思うんですけど、その異常気象って言われるものは、自然が吸収しきれない範囲まで及んでいる言葉かなと思うんですけど、どういう影響が今現時点ではあるんですか。

辻  そうですね。僕が見てる中では、天塩川は海から160キロ地点までダムも堰堤もないんです。北に位置する川なので、サケやマスがいっぱい上がってくるんです。冷たい水が大好きなマスが上がってきた時に、川が暑すぎて身動きが取れなかったりとか、中には死んじゃう魚がいたというのは、今年の夏に見かけた光景です。かと思うと、秋になると雨がいっぱい降った瞬間に、川はやっぱり力強さを取り戻して、いつもと変わらず魚がいっぱい釣れるそのたくましさみたいなところも垣間見たりしました。

村上 一見すると、そのことさえ知らなければ今日の朝、辻さんが見てきた川はいつもと変わらない力強さを持ってた川だったということですか。

辻 そうですね。

村上 その川の持つ懐の深さ、それがもしかしたら得たいの知れない魅力の一つかもしれないですけど、どういう奥深さがあるんですか。

辻 やっぱりさっき言ったように、海とのつながりの深さが160キロ、山まで入れると200 キロ以上つながってるような、自然の奥行の深さですかね。本州で言う自然の深さっていうのはおそらく標高差の中にあって、高い山に行けば行くほど、上に行けば行くほど深い自然があるんですけど、北海道北部に関しては、奥に進んで行けば行くほど、良い自然がある。そういうような懐の深さの中に、海と山と、マスとかサケが自由に行き来してるような、そういう環境の奥行ですかね。

村上 ゲストの方がいらしてガイドするんだと思うんですけど、どういったことを伝えているんですか。

辻 やっぱり日本の中ではちょっと特種で、厳しいところもある自然だと思うんですよね。だからその自然のリズムだったりとか、土地の空気感みたいなところに、いかにゲストのチャンネルをうまく合わせていけるか、普段の自分本位のリズムというか、そういったところを、いかに天塩川の時間、天塩川のリズムに一緒に合わせていけるか、というところが大事なような気がします。

村上 いろんなゲストがいるなかで、スッと合わせられる人もいれば、全然合わせられない人も、いろんな人がいると思うんですけど、辻さんから見て、どんな人が合わせやすいとか、どんな人はちょっと時間かかるなあとか、どういったところを見るんですか。

辻 決まった答えはないような気がしてて、川の状況も日々変わっていくし、例えばカヌーで川を下る時のそのゲストの気持ちの部分だったり、技術の部分もどんどん変わっていくし、そういう変化みたいなところをいかに楽しめるかっていう所はあるような気がします。丁寧さや謙虚さみたいなところだったり、変化にいかにフィットさせていけるかは大切な要素のような気がします。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・辻亮多)

次回のおしらせ

北海道美深町で、アウトドアガイドをされている辻亮多さんに、北海道の人と自然のかかわりや、天塩川を中心とした自然の中での暮らしについて聞きます。お楽しみに!

The best is yet to be!

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