見出し画像

【読むラジオ】#016 私しか伝えられない「リアル」

増えたツール、新しい表現

今井)前回から熊本市内で NHKの報道の最前線で活躍されている河村信さんにお話を伺っています。河村さんは20年前に報道の現場に入ったそうですが、メディアをとりまく状況は、当時とずいぶん変わったと思うんですけれども、当時の印象はどうでしたか。

河村)20年前は今みたいに SNS とかスマホとかが普及していなかったので、皆が発信者ではありませんでした。なので「自分たちが行く環境などを、ブラウン管の向こうにいる皆さんにお届けしよう」という意識が強かったですね。

村上)撮るためのツールもそうだし、もしかして若い人はテレビが家になく、スマホだけで見る人もいます。撮る手段も増えたし、見る手段も増えた。選択肢が増えたという見方も出来ると思います。一つひとつの重要性が薄れたという言い方はちょっと違う気がしますが、変化はしているような気がするのですが、その辺どう思います?

河村)ツールはものすごく増えたなと感じています。今はすごく小さなカメラでも4Kが当たり前、スマホでも4Kが当たり前。 VR になると8Kだったり12Kだったり16Kだったりとも、すごく小さいのに高いクオリティで撮れるようになりました。私は専門分野として潜水をやっているんですけど、「水中ドローン」という水中を自在に動き回り、そこにあるものを記録できる水中ロボットカメラもどんどん普及しています。水中ドローンは我々みたいにある一定の時間が来たら空気がなくなって上がらなければいけないわけではなく、半永久的に潜り続けることができます。
さらにそうしたいろんな新しい機材を身につけたとしても、数年経てばもうかなり古いものになってしまっている。どんどん出てくる新しいものに対応しなければいけない時代になってきてますね。

村上)それっていいことなんですか? いろんなできなかったことができるのか、できるようになったからこそ、逆に撮れなくなったことがあったりするんですか? 現場の感覚としてはどうでしょう。

河村)現場の感覚としては、例えば僕らがこれまで習ってきたカメラワークって、撮りたい相手に対して自分の存在を感づかれないように近づいて、自然な表情を撮影するといったアプローチを教えられてやってきたんです。けれども、最近のVRカメラだと、現場にはカメラがそこに置いてあるだけでよくて、そのカメラワークは撮ったものを持って帰ってからパソコンの中で自由に編集します。いわば、パソコン上でカメラワークするような時代になっているんです。そういうツールが増えることで、間違いなく表現する引き出しはすごく増えていると思うんです。

村上)そういう意味ではウェイトとして、今まで現場で完結してきたものが、事後であったりとか、事前もそうなのかもしれませんが、いろんな所にウェイトが広がってきたということですか?

河村)そうですね、現場に行かなければわからないし、現場でしか見つけられないものは今も昔もあると思います。でもそれと同時に、様々なツールを使って編集したり製作したりする引き出しが確実に増えていると思うんです。今までやってきたことが、その中でウェイトが下がるわけではないんですけど、それと同時に増えた引き出しをちゃんと使いこなしていくことが求められてるということです。
 私も40代になりますけど、今の若い世代が親しんでいるような表現方法を自分に取り入れながらやっていかないと、ちょっと使い物にならないというか、現場についていけないおじさんになっちゃうなと感じてます。

あふれる情報の中で

今井) 新しい技術によって、取材の方法もどんどん変わっていくっていうことで、受け取る側としてはどんどん新しい報道が出てくるんだろうなと思って、今後が楽しみです。私は朝ニュースを見る時、まずネットから入っちゃうんですけれども、最近ニュースの受け取り方がずいぶん変わってきてるんじゃないかと思うんですけれど、その辺りはいかがですか?

河村)私もそれはすごく感じています。新型コロナウイルスでステイホームとなり、私も在宅やオンラインで仕事をしていたんですけど、時間がある中で自分もいろんな情報にアクセスしてみていました。自分が見る側に回ってみると、ニュース一つにしても、映像一つにしても、本当に膨大な量の情報があふれているなということに気付いたんです。そういう中で、自分が取材したものに触れてもらうためには、やっぱり見せ方とか、発信の方法とか、こちらもいろんなものを準備していかないと、見てもらえなくなってきている気がしています。

村上)今の情報って、本当か嘘かもわからないようなものも含めて、ものすごく身の回りにたくさん入ってきて、シャットアウトするのもすごく難しいです。ツールがたくさん増えて、いろんな人が発信できることは、隠されず、オープンなものになったので良いことだ、という見方もできますが、どうしたらいいか呆然としてしまうこともあります。河村くんの撮る側という立場から見て、その点どうでしょうか。

河村)今まではテレビで撮ったものを編集して見ていただくのが当たり前でしたが、視聴者の方からすると編集していることにすら、好都合のいいことだけを発信してるんじゃないかというような、マスコミに対する厳しい目が向けられる時代になってるな、と思います。

村上)情報の受け取り方には、情報ソースとしての受け取り方というのと、この人が編集してくれた情報を、その人のメッセージも込みで聞きたい、そういう情報もあると思うんです。河村くんにとって、その後者のことを言ってるということでしょうかね。

河村)今は SNS とかにも僕ら発信をしているんです。昔みたいな長い長尺ではなく、短い中でメッセージを込められる映像表現をしたりとかですね。少しでも訴えたいこと、伝わるような映像表現というのは考えてますね。

村上)表現が短くなったり、表現と思ったものがその視聴者から都合がいいと言われてしまったり、いろいろ制約がある中で、それでもこれを伝えるべきだと思うことって何なんですか?

河村)カメラマンはそれぞれ自分のやり方があると思うんですけど、私の場合は自分にできることにかなりこだわってます。私で言えば潜水、水中の世界でほかの人は撮ることができないことを含めて、そこに「リアルである」、「そこに行かないと撮ることができないもの」、「そこに行って初めて撮れるもの」です。もちろん編集はしますが「これが本物だ」って感じてもらえるところに強いこだわり持ってます。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 河村信さん提供)

次回のおしらせ

河村さんは日本各地で取材する中で、それぞれの地域を愛する人たちに出会い、同じ時間を共有する中で、その思いの一端を知り、発信してこられました。ラジオネイティブ #017ではそんな  「 地域を愛し続ける人たちの源泉について 」紹介します。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

すぐに聞く

ラジオネイティブ#016「私しか伝えられない「リアル」」 は こちら から聞けます。

アップルポッドキャスト
https://apple.co/2PS3198
スポティファイ
https://spoti.fi/38CjWmL
グーグルポッドキャスト
https://bit.ly/3cXZ0rw
サウンドクラウド
https://bit.ly/2OwmlIT


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?