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自分も作ってみて分かる、野菜農家さんの想い

信州・松本で6席の小さな食堂「アルプスごはん」店主の金子健一さん。顔の見える関係を築いて仕入れる野菜だけでなく、器や調理道具にいたるまで、お客さんとのふれあいや、その日の気分にあわせてチョイスしています。自らも野菜を育てるからこそわかるベストなものやタイミングで食事を出しています。

畑の様子を知って調理をする

今井 前回までたくさんの生産者さんとのつながりのお話を伺いましたが、金子さんの義理のお父様も野菜を作ってらっしゃるんですか。

金子  自分たちの家で食べる分の野菜とお米を作ってます。

村上 どんなお野菜ですか

金子 冬は大根、野沢菜、ほうれん草など。春から夏はレタス類、じゃがいも、なす、ピーマン、トマトなどなど。秋はさつまいも‥‥、いろいろ作ってますね。松本の伝統野菜「松本一本ねぎ」という太い曲がりねぎがあるんですけど、これはお義父さんがずっと作り続けている野菜です。お義父さんの手伝いをとおして、すごくいい背中を見させてもらってます。

村上 どんな手伝いをしているんですか。

金子 畑仕事が忙しくなる春から秋は、お店が休みの日に手伝ってます。義理の父は92歳なんですよ。92歳なんですけど、もしかしたら僕より元気かもしれないですね(笑)でも、年々農作業、例えば耕耘機や種蒔き、苗植え、一本ねぎの植え替え、収穫全般は自分に任されることがだんだん増えてきているので、お義父さんに教えてもらいながらやったり、分からないことはいつもお世話になってる農家さんに聞いたりしています。そういう面でも恵まれた環境だなぁ、と思います。

村上 力仕事という意味では金子さんの方が出来るのかもしれないですけど、それでもやっぱり長く土を見続けてる人は違うなあって思わされる時ってどんな時ですか。

金子 お義父さんは長年の勘があるので、だいたい今の時期はこういうことをしたほうがいいとか、虫が出てきた時はこういう対処をした方がいいと知っています。それでも毎年、気になる点などはメモをしていますね。記憶と記録を積み重ねて、更新していくことで土と友達になっていくのかなと思います。畑に行くタイミングが難しい時は、自分がスマホで畑の写真とか野菜の写真を撮って、「今こういう状況なんですけど、どうしたらいいですかね」と聞くコンビネーションがだんだんできるようになっています。少しずつ進歩と言うか、お義父さんのことも考えつつできているかなって思います。

義父の畑でこどもたちと。これは夏に松本一本ねぎの2回目の植え替えをしています。

村上 食材を調理する過程で、その食材がどう育ってきたかを見て調理するのと、そこにある食材だけを見て調理するのと、視点が変わってきたりしますか。

金子 変わりますね。僕はなるべく行ける時は、農家さんの畑に行かせてもらっています。畑の風景や、働いてる人たちの表情とか、農家さんとの会話、土から生えてる状態の野菜を見ることで、ただただ感動したり、作りたいメニューが思いついたりするからです。そういう風景を見た上で料理をして、お客様に食べてもらった時に、「今週、畑に行かせてもらったんですけど、先ほど召し上がっていただいた人参は今こういう状態で、昨年よりも調子がいいそうですよ」とお伝えすることで、お客様もそういう野菜を食べてるんだなって思ってもらえるのがいいですね。

村上 食べる側の感想として、味付けが変わるのかなって思うんです。畑でどうやって野菜が育つかや、その風景とかを見ていると、なんかもうそのまま切り取って出して、あんまり味をつけないでもいいのかなという気持ちに、もしかしたらなるのかなって、お話を伺いながら思ったんですけど、そんな気持ちになるものでしょうか。

金子 村上さんが言うこと、すごく分かります。自分もやっぱり野菜そのものをできれば食べてもらいたいので、味を濃くするとかそういうことではなくて、例えば野菜の切り方、厚さによっても味が変わったり食感が変わったりするので、手間はかけてるんだけど、手をかけ過ぎないのも大事だなって思います。たまに農家さんも食べに来てくれるんですけど、農家さんにとって発見があったり、人に教えたくなるような料理を心がけています。

広がる野菜を中心としたネットワーク

今井 野菜ができるところから関わっているからおいしいごはんにつながっているんですね。ちょっと視点を変えて、生産者さんの抱えていらっしゃる課題とか、たとえば天候がすごく変化してきているとか、色々な問題があると思うんですけど、そういうことを感じることってありますか。

金子 やっぱり天候ですね。対応するのがすごく難しいなあって、思います。今年の夏のトマトもそうなんですけど、毎年何かしら災害ですとか、雨が降らなかったり、雨が降りすぎてしまったりして野菜が駄目になってしまいます。またモグラに根を食べられてしまって野菜が育たなくなってしまったりとか、年々変わってきている感じがします。対策はしているものの、やっぱりそれを乗り越えて被害にあってしまいますね。
 農家さんがピンチになったときに心強い八百屋さんが、安曇野の穂高神社の一角にあるんです。「よろづやいっかく」さんといいます。いっかくの崎元夫妻は、安曇野周辺のいくつかの農家さんとつながりがあって、例えばちょっと人参がとれすぎてすぐ売りたい、販路がなくて困っているというようなSOSでいっかくさんに声がかかると、いっかくさんは僕ら松本や安曇野の繋がりのある店主の人たちにその情報をシェアしてくれるんです。それでB品で出荷はできないんだけど、味はもちろん美味しいし、安心安全な無農薬で作ってくれているものなので、そういう野菜が少し安く販売してくれる仕組みを作ってくれています。そういうのがすごくありがたくて、利用させてもらっています。

村上 僕らも感じるくらいなので、日々自然と対峙されている農家さんは特に何だろうと思います。大変なことなんだろうけども、そこに踏みとどまっていくためには、よりその周辺の同業者の皆さんや、あるいは調理される側とか、ずっとその先に繋がっている人たちとのネットワークを結成して、みんなで頑張ろうよという部分が強くなってるということなんでしょうか。

金子 そうですね。それをすごく感じます。今まで販路が少なかった農家さんが、町のカフェや飲食店の店頭でお野菜を並べ、そこで食べたお客様が、帰りにそのお野菜を買ってお家に帰ってその無農薬のお野菜だったり、固定種の種採りのお野菜を家族にシェアできる環境ができていたりしています。あとアルプスごはんで食べたお客様に、あそこのお店でもこの農家さん、あの農家さんのお野菜が食べることができますよ、とか、売っていますよ、とお伝えしたり。週末にマルシェをやってるところがあったら、お客様にお知らせしたり。マルシェに参加している農家さんがアルプスごはんをおすすめしてくれて、そのままごはんを食べに来てくれることもあります。そういう横の繋がりのようなものがどんどん街の中で広がってます。

村上 あと、僕もよく聞く話だと、後継者問題とかその辺はいかがですか。

金子 あると思いますが、自分が今お付き合いのある農家さんは、同年代の人たちが多いので、そこまで問題に直面してる人たちは少ないかなぁ、と思います。

村上 それは珍しいんじゃないですか? その方々っていうのは、もともと農業をされていたんですか。それとも全然違った業種から農業に参入されたんですか。

金子 元々農業をやっている方もいらっしゃいますし、会社を辞めて新規就農で、しかも種採りで自然栽培、農薬も肥料もあげないで育てるというかなりストイックな野菜の作り方をしている農家さんもいますね。

長野県松本市にある「アルプスごはん」

村上 それはなかなか大変だと思うんですけど。農業って特に待つ時間がすごく長いと思うんです。1年のうち一瞬になるのかな、収穫の時間っていう、覚悟じゃなくて、それが報われる時間というのが多分あって、今度また耐えられるのかなって思ったりするんですけど、そういった農家さんにとっての時間ってあるんでしょうか。

金子 それはあると思います。実際、お店にも食べに来てくれるんですよね。その農家さんのお野菜を使ってるお店に農家さんが行って、ごはんを食べてお酒飲んでっていう時間を、自分の店でもしてくれるし、ほかの店でもしてるのを聞くと、自分たちが苦労して作ったものが調理されて、周りを見ると、他のご家族ですとか、カップルの人たちが、すごく楽しい時間を過ごしてるのを見るわけです。多分それがモチベーションになってると思うんですよね。

村上 そうすると、金子さんの仕事ってものすごく責任重大ですね。

金子 重大ですね・・・

村上  生産者さんの方に調理してお出しするっていうのはどんな気持ちですか

金子 いやもう本当に緊張するんですけど、でもその時間を楽しんでもらいたいと思って料理しています。また次の日から過酷な仕事が待ってると思うので、この時だけはすごくリラックスしてほしいなと思います。ちょっとメニューを変えてみたり、今までとちょっと違うものを出してみたりとか、そういうところでも楽しんでもらえたらなと思ってやってます。

今井 食べる側としては、なかなか生産者さんの気持ちを知る機会は少ないですが、スーパーや直売所だけでなく、食堂の料理を通して、その思いを知ることもできるんだなと思いました。また次回もお願いします。

(文・ネイティブ編集長今井尚)

次回のおしらせ

長野県松本市で、生産者さんと顔の見える関係を築きながら野菜を中心とした料理を出す小さな食堂「アルプスごはん」を立ち上げた金子健一さんにお話を聞きます。最終回は金子さんが食堂を開くに至った経緯や、どんなきっかけでこの食堂ができたのか、また金子さんが考えるネイティブとは? お楽しみに!

The best is yet to be!

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