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800年間、森を歩き続けるラウテの人たち

移動生活と、迫りくる現代との摩擦

今井 ドキュメンタリーフォトグラファーとしてネパールで移動する民族「ラウテ族」を取材されている門谷JUMBO優さんにお話を伺っています。
今回もJUMBOさんには、カトマンズから登場いただきますが、前回お話を伺ったラウテ族は、森の中を移動しながら木を切って器を作って、それを売って生活をしているというお話を伺いました。JUMBOさん、コロナ禍もあって今回訪れるのは2年ぶりぐらいになるんでしょうか。

JUMBO そうですね、2年半ぶりですね。

今井 10年ぐらい通われてると伺いましたが、久々に訪てみて、彼らの何か変化とか、違いはありましたか?

JUMBO そうですね、彼らはいつも変化している民族なんで、変化が日常というか、そういう人たちではあるんですけれども、今回は特に人里と近い場所、僕がずっと取材を続けていく中でも、一番道路に近い場所にいたので、良くも悪くも他の民族や、彼らの価値観ではない定住といういわば僕らみたいな、近代的な全ての力(りき)を知ってそれを使って生きている人たちとの、摩擦がたくさん見えたと思います。

村上 なんでラウテ族の皆さんは摩擦がある場所に出向いて、その場所を選んだんですか。それもやっぱり交易のためなんでしょうか。

JUMBO そもそも彼らは、彼らの伝説に従うと、800年ぐらい同じような生活を続けている状態なんですね。そこからいうと彼らの行く先が開発されちゃったっていう。

村上 なるほど、なるほど。

JUMBO 彼らが選んでるというよりも、もうそういうところしか行く先がなくなってきている、そういうことだと思います。

村上 なるほど。ラウテ族の皆さんは800年前から、おおよそ決まったところを動いているんですか。

JUMBO そうですね。およそ東西でいうと300キロ、南北でいうと100キロぐらい。それくらいが行動範囲なのかなと推測しています。そういう円の中を、水系に沿って移動しています。ネパールの場合はヒマラヤがあるので、北側がヒマラヤで、南側がインドの大平原になっています。なので水系は基本的には北から南に流れるようになってるんですけども、その水系をたどりながらジグザグジグザグと移動してる感じですね。

村上 仮に自分たちがお気に入りの場所が開発されちゃったとしても、避けるのではなく、やっぱりリズムに従う、自分たちの動くことに従うっていう要素が強い印象があるんですけど、そうなんでしょうか?

JUMBO そうですね。彼らが行きたい場所を希望してみたところで、やっぱり順を踏んで、その場所への道のりをたどっていかなきゃいけないので、なかなか「行きたい場所」という、そういう価値観すら彼らは持っていないような気がします。
ただただ、自分たちが思う方向に進んでいく。それで、その季節その季節で一番住みやすい、暑くもなく寒くもなく、水が手に入って、なおかつ病気もない。そういう場所を都度都度探していく、そういうライフスタイルに見受けられます。

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村上 前回、「何か動物のリズムのように動いている」っていう言葉が僕はすごく印象的でした。今おっしゃったように、快適な場所を探しながら縫っていく中で、ただJUMBOさんが見てきたこの10年の中でも、開発が進んでいるとか、それこそこの800年とかもっと長い年月で快適なところを目指していたはずが、環境そのものがだんだん快適じゃないところがたくさん出てきて、そこに出会うようになってしまった。摩擦の話もおっしゃっていましたが、この摩擦というのは、ラウテ族の民族の中でも最近起きた特殊な出来事に近いですか。彼らもそこに今一生懸命アダプトしようとしてるんでしょうか。

JUMBO 摩擦っていうのは、あくまでも外から見た僕ら目線での摩擦っていう言葉なんですけれども、彼らはやっぱり周りの人たちが使ってるものとか道具とかに依存している側面もあります。なので周りの人たちが豊かな生活を送るようになれば、彼らも恩恵を受ける側面もあるんですね。
昔は彼らはどぶろくを自分たちで作って飲んでたんですけれども、最近はどこでも道路を走るようになって、トラックドライバーなんかもいろんなところに入るようになってきていて、そういう人たちが飲むような安酒、本当に下手したら命に関わるような安酒がたくさんあるんですけれども、彼らは今、そういったものをたくさん飲んでいます。それは快楽なので、一時のことかもしれないですけど、彼らにとってはそれは幸せなことかもしれないですね。ただ同時に、コミュニティの森に入るなとか、木を切るなとか、もうモノは交換しないとか、そういう問題は顕著になってきていると思います。

移動を決めるコミュニティの共通知

村上 前回から今回のお話を伺って、僕はなんとかラウテ族の皆さんと同じ感情になって、動いてる気分で出会ったものをイメージしたいと思ってたんすけど、なかなかその次から次へとJUMBOさんの話の中から出てきて、今僕がラウテ族だったら、もうめちゃめちゃ戸惑いながら右往左往してる感じなんですけど、JUMBOさんはどうですか。10年前に初めて訪れたときは今の僕みたいな感想だったのか、今になったら次はこういうふうに動くだろうなみたいなことが読めるようになってきたのか、この10年ってどうですか。

JUMBO そうですね。一番最初はやっぱり、全く情報もない状態で彼らと接触をして、たまたま彼らの酋長が撮影を受け入れてくれたからこれまで続けてこれてるんですけれども、とはいえ、やっぱりすごく他の民族と交易はするけれども、とても排他的だっていう話をずっと聞いていたので、
こちらも怖い気持ちもありました。どういうふうに関わっていけばいいのかも、すごく戸惑いもありました。
それが、だんだん撮影をしていく中で、彼らのコミュニティの仕組みであるとか、個々の性格であるとか、そういったものが少しずつ垣間見えるようになって、彼らに対峙したときに緊張を感じるとか、怖さを感じるとかは一切なくなりました。
ただ同時にやっぱり彼らは、自分たちのことを語らないし、自分たちの言葉を教えないし、自分たちの行く先、例えば「次の移動先、いつどこでどういうふうに移動するんですか」と、そういう話をしても、「うん、明後日するかな、来週するかな、ひと月いるかな」みたいな。
どういう基準でキャンプ地を選ぶか聞いても、「水があるところかな。でもヒルがいない方がいいかな。ここにしばらくいたいな」みたいな。もう誰に何を聞いても違う答えが返ってきて全く読めないんです。そこが魅力でもあります。

村上 素朴な疑問なんですけど、今回どうやって合流したんですか。どこにいるかわからない、誰に聞いても違うことを言っていたとしたら、出会うのがそもそも偶然なのか、狙っていけるのかちょっと難しい気もするんですけど、いかがでしょうか?

JUMBO おおよそ彼らのいる場所は、西ネパールの地方紙のために活動している現地のジャーナリストに、ラウテの目撃情報を聞いて、それを頼りに行きます。

村上 なるほど、目撃情報なんですね。

JUMBO そうです。今回は目撃情報をもとにある町に向かったんですけれども、彼らは3日か4日前に移動しちゃったっていうことで、さあどうしようっていう話になり、ローカルのその辺りに住んでる人たちに聞きまくって、どっちに行ったかを割り出して、彼らの後を追いかける。そういうやり方でした。

村上 なるほど。例えば足跡をたどるとか、やっぱ人に話を聞かないと、「立つ鳥跡を濁さず」みたいなこと言いますけど、トレースするのも難しかったりするんですか。

JUMBO そうですね、暑い季節は標高の高いところに行って、寒い季節は標高の低いところに行きたがるっていう、そういう行動パターンもありますので、夏はこっちの方じゃないかなとか、冬は谷の下の川の近くにいるんじゃないかなとか、それぐらいはわかります。だけど、そこから先の行動原理はもう、ラウテのみぞ知るっていう、全く先が読めないです。ただ同時に、ネパールの地形上、自由に進めるのは、尾根筋か谷底しかないので、現在値が割り出せていれば、向こう1年ぐらいはどっちに進んだか大体予測できるかな。ただ規則通りに進んでくれるかどうかはわからないですけど。

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村上 日本人の感覚で、例えばどこかの企業や集団に所属するとなると、リーダーが今日移動するのか、1ヶ月後に移動するのか、なんとなくわからない状況だと日々がドキドキしちゃうっていうか、不安になっちゃうケースもありそうな気がするんですよね。もしこれが日本だったら。だけどそんな感じでもなく、いつ行くのかその計画を示さないでも、みんながなんとなく成立してるような印象を受けるんですけど、それはどうしてなんですか。

JUMBO なんていうんすかね、共通知とでも言ったらいいんですかね。彼らラウテ族の中では、おおよそ行きたい方向とか、次いつ行こうかとか、日々変わるんですけれども、同じ価値観でわかり合ってるところはあるはずなんです。新しい場所に行くためのキャンプ地探しとかも、僕たちとしては、彼らの口から具体的な話を聞こうと思って、いろいろ頑張って聞いてみるんですけども、よくわからない答えしか返ってこないことが多い。
でも彼らからすれば、日々森の中に入って、薪を取ったり水を探したり、そういう行動の全てが、新しいキャンプ地探しなんです。そういったものをいろんな人たちが集落から外に出て、持ち帰る。その繰り返しを続けていく中で、だんだん次の行き先とか、何をやろうかとか、そういったことが決まってくるんだなと思います。
一つの民族が150人弱の人間の塊ではあるんですけれども、でもその民族自体が一つの生き物みたいな。そんな動き方っていうんですかね。本当にあの野生動物の群れを見ているような、そんなイメージです。

村上 何か伺えば伺うほどその感覚を、もう僕が失ってると思うので、何かすごく羨ましいし、何とかを話を聞きながら、今だけでもちょっと取り戻したいっていうふうに思うんですけど、やっぱり聞けば聞くほど、もうそこにラウテ族の中に入った僕は戸惑ってる状態で、なかなか自分がいる姿がイメージできません。

今井 私も一度だけネパールに行きましたけどそれなりに皆さん、例えばスマートフォンを持っていたりとか、現代的な生活をしてる人が普通に多い中で、そういう暮らしをずっと守り続けてる人たちが未だにいるっていうのはどうしてなのかなっていうふうに思いました。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

ドキュメンタリーフォトグラファーの門谷 "JUMBO" 優さんが10年にわたり追い続ける、ネパール西部のラウテ族。移動しながら交易を続けて暮らす森の人たちを見続けてきました。今回はちょうど取材を終えたばかりのJUMBOさんに、ネパール・カトマンズとつないで最新のお話を伺いました。
The best is yet to be!

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