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物の備えと、心の備え 熊本・益城町の避難所で気づいたこと

暮らしをつなぎ続けるヒントを考えるポッドキャスト「ラジオネイティブ」を、テキスト版でお伝えします。今回は熊本県益城町の町職員で、まちづくりの仕事をされる桑原孝太さんの3回目です。


忘れるべきことは何もない

今井 熊本地震からもう5年が経って、私の住んでる街で、もし明日こういう地震が起こったらっていうことは、つい忘れがちなんですけれども、これまでの経験を振り返って普段からどういうことができると考えますか?

桑原 私自身も正直、自分が元々住んでた町に地震が来るってまったく想像してなくて、正直、備えはゼロでした。実際、地震が起こるかもしれないと思っていても、実際そうは思っていない自分がどこかにいるのかなっていうのが、多分皆さんも思うようなところかなと思います。ものの備え、例えば水を準備しておきましょうとか、食べ物を準備しましょうとか、そういのはすぐにできることなのかなと思うんですが、隣の人とのつながりというのは、1日や2日で形成できるものじゃありません。自分の家がもしかしたらなくなってしまうかもしれないなかで、隣近所の人を知らなかったら、そこに誰が住んでるとかも分からないです。災害が起きる可能性というのは当然あるので、普段から何気ない会話でもいいので繋がりを持っておくというのは、すごく災害についての備えとして大事なのかなと思ってます。

村上 つらい出来事だったと思うので、震災のことを忘れたいと思う気持ちもあると思います。震災を経験していない僕らも、今言った食料とか、防災グッズ的な所って、すごく意識してるように見えて、防災グッズを揃えたことによっていったんそれを忘れたいというか、不安を忘れたいという願望の象徴でもあったりすると思うんです。
やっぱり防災の基本は常に考え続けることが一番いいと思います。完璧な物を揃えて忘れちゃうよりかは、不完全な状態でも、意識し続けていたほうが僕は強いんじゃないかって思うんです。でもやっぱり忘れたい。特に益城町の皆さんは経験をされたので、僕らが想像するよりも、本当に忘れたいっていう気持ちだと思うんですよね。その中でもこれはやっぱり忘れちゃいけないこと、そういったものの取捨選択の中からは、どういったいうふうに感じられますか。

桑原 経験した事って、多分人によっては辛い過去で忘れたいと思うこともあると思うんですけど 、私は忘れるべきじゃないと思っています。今この瞬間にもう1回地震が来る可能性というのはありますし、その時の記憶っていうのは、忘れようとしても忘れられない経験ばかりだと思いますので、次の災害の備えというか、もちろん起こらないことが一番なんですけど、そういった時のためにも、忘れるべきことってあんまりないのかなっていう感じがしてます。

村上 同じ質問になっちゃうかもしれないですけど、これだけは心に留めておいた方が良い事ってありますか。

桑原 当たり前かもしれないですけど、いつ起きてもおかしくないというのは、わかっているつもりで、わかっていないはずなので、心の備えじゃないですけど、やっぱり起こった時に間違いなくパニックになってしまうと思います。備えをしてたからいいという訳じゃないと思うんですけど、備えをしておくことは簡単でありつつ、難しいことなのかなと思ってます。

備えは大切。でももし備えがなくても、大丈夫

村上 震災というのは、その後の避難所生活の方がずいぶん長いと思うし、そっちの方がいつ終わるか分からない時間だと思うんですけど、 やっぱり心が折れちゃうこともあると思うし、いろんなことがあると思うんですね。そういった時の心の備えと、体の備えって言うか、あるいは物の備えでも構わないですけど、そういった視点からだと、どういうふうに思っていたらいいでしょう。

桑原 そうですね私自身も備えてたわけじゃないので経験的に話せないのですが、ちょっと趣旨が変わっちゃうかもしれないんですけど、避難所に行くと生活をする上でも当然備えはもうその避難所にはしてあるはずなので、仮に備えていなかったとしても、悲観することはないです。当然、生活を再建していくにあたってはお金も必要ですし、いろんなことが必要になってくると思うんですけど、たとえゼロからのスタートになったとしても、避難所っていうところが小さな街のようなコミュニティに形成されていくことで、それで前に進んで行こうと思える人は増えてくるのかなと思います。もちろんその中でもやっぱり会話的なところはすごく重要だなって思いますが。
備えていることがいいことでもない・・・確かに備えてしまえばそれで安心してしまうっていうのもありますし、ただ備えていないと、なかなか難しいことでもあると思うので、うまく伝え方がわからないんですけど・・・、避難所にいるって事はもうその時点で新たな生活をスタートができているということだと思うので、そこはあんまり心配しなくてもいいのかなと、避難所にいた中で思います。

今井 これまで関われて来られた中で、忘れられない人ですとか、忘れられないエピソードみたいなことがあれば教えてください。

桑原 そうですね、私が学生のボランティア的な立場の方とより多く関わっていた時に、リーダー的存在だった当時高校生だった人がいました。今でも彼とは付き合いがあるぐらいの仲になってるんですが、すごく発想が面白かったんです。あまり器用じゃないんですけど、やってみたことが当たるって言ったら失礼ですけど、すごく住民の方に評判が良かったことをやってたんです。ボランティア団体の方とかも入っていて、一緒に企画をしてたんですけど、ちょうど避難所が開いている間に、七夕があったので、お祭りをしようという話になって、彼は組織委員長みたいなことをやっていたんです。彼自身もすごい被災をしていて、ダメージを受けている中で、学生もやりながらボランティアも経験して、二刀流じゃないですけども、そういった中ですごくいろんな話をする機会が彼とあったんです。より人を楽しませようと言うか、今自分にできることをやってみようっていう意識をすごく感じました。彼は今、もう就職してるんですけども、その中でもすごくそういうチャレンジ精神と言うか、そういったのすごく今も感じています。震災当初の彼と、避難所が閉鎖する時の4ヶ月後ぐらいの彼はものすごく変わっていて、学生の成長を見れたっていうのはすごくは自分の中で印象に残ってます。

村上 多分彼に同じ質問をしたら、たぶん似たようなこと言うんじゃないかなって。4か月間の中で桑原さんの成長を見てきてそれは良かったという話が出るのかなって気がします。その彼もそうですし、ご自身もそうだと思うんですけれども、その4ヶ月間を経て、自分の中でどういうところが変わったと思いますか。

桑原 4ヶ月の中で、町のことを知る機会が増えて、単純に町が好きだなと純粋に感じられるようになったのが自分の中ですごく今に生きてる感じです。

村上 避難所の運営って、例えば食べ物もそうですが、途切れることないと思うんです。土日も多分あると思うし、いろんな人が活動してる中で、結果的には4か月で終わったけれど、もしかしてもっと長かったかもしれない。渦中にいた時はそう思ってたかもしれないですけど、長く続けていくっていうところは特に意識することなかったんですか? それともいつ終わるとか意識しながらなのでしょうか。

桑原 正直意識する余裕はなかったですね。今思うと、日々新しい事が来て、がむしゃらにやるしかなかった。気づいたら1ヶ月、2ヶ月経ってた感じですね。

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村上 その時に先ほどはあげていた高校生、あるいはそれ以外にも何人もいらっしゃると思うけど、年齢がそれなりに近くて、同じ境遇で、同じ立場でという人が、そばにいる人が1人だったらとか、2人3人4人だったらっていうところには何か違いがありますか。

桑原 私も多分1人でボランティアをしていたら4ヶ月も頑張ってないでしょうし、関われていないでしょう。私よりも年下の高校生や中学生がすぐそばで、大人に文句を言われながらも頑張ってる姿っていうのは、すごく私の中で刺激になりました。その中学生や高校生がそこで活動しやすいように努めるのが自分の役目なんだろうなと思い、たまに馬鹿をやって場を和ませるとか、そういうことが自然とできていたのかなって思います。

今井 ボランティアを通して町の事を知れたって繰り返していらっしゃいましたけれども、どう意識が変わったんでしょうか。

桑原 それまでは町のごく一部の、自分の周りの友達だったりとか、そういう環境しか知らず、隣の校区のことは全然知らないぐらいの感じでしたが、避難所はひとつの小さな町という話をしましたけど、それを知ることができて、すごく今に生きています。
町のことが好きじゃないと町の職員ってなれないのかなって個人的に思ってるので、すごく自分の良いきっかけになったなって思ってます。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・桑原孝太)


次回のおしらせ

熊本地震で大きな被害を受けた益城町。町の都市計画課でまちづくりの現場に立つ桑原孝太さんに現場で考えることやその気づき、復興とはなにかについても、話を聞きます。お楽しみに!
The best is yet to be!

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