見出し画像

避難者から生活者への変化 被災者から自然発生したボランティア

暮らしをつなぎ続けるヒントを考えるポッドキャスト「ラジオネイティブ」を、テキスト版でお伝えします。今回は熊本県益城町の町職員で、まちづくりの仕事をされる桑原孝太さんの2回目です。

一変した、町の風景

今井 前回は益城町の「ちょうどよさ」についてのお話でしたが、やはり欠かせないのは熊本地震についてです。桑原さんはこれまでどのように震災とかかわってこられたのでしょうか。

桑原 私は震災当時、町職員だったわけではなく、大阪に住んでたんです。本震で私は被災し、いち被災者として、震災に触れました。その後、地元の小学校に行きまして、避難所のボランティア活動という形で熊本地震に関わらせていただきました。その経験があって今、益城町の職員として熊本地震からの復興に携わっています。

村上 当時は大阪にいらっしゃったということは、益城町にご家族がいらっしゃるんですか?

桑原 実家が益城町なので、当時は大阪に住んでいて、たまたまそういうタイミングということです。

村上 なるほど。昔と比べて、風景とかいろんなものを見てきたと思うんですけど、震災で大きく変わりましたか? 風景もそうですけどそこに暮らす皆さんの気持ちだとか、大事なものだとか。

桑原 そうですね。当然風景は変わったと思います。前震の後に私は益城町に帰ってきたんですけど、街の中を歩けるだけ歩いてみたんですが、小学生や中学生の時とかに歩いた道を歩いてみたんですけど、その景色が一変していました。それはすごく衝撃的だったことが今でも焼き付いてます。

村上 それから5年ちょっとたつわけですけど、この5年はどういう5年だったんですか? 元の風景に戻ったんでしょうか。それとも元の風景ではなく、全く違う益城町に戻ったんですか?

桑原 戻るべきところは戻って、変わるべきところは変わったなという実感があります。今いろんな事業が動いてる中で、変化の途中ではあるんですけども、震災前よりより住みやすい町にはなっていくように頑張っているところです。

村上 前回、人と人とのつながりということをキーワードでおっしゃっていたかと思うんですけど、悲しい出来事ではあるものの、震災があって、近くに住んでいたんだけどあまり会話してなかった人と避難所ですごく会話する関係があったりとか、あるいは元の暮らしに戻ってきてもあの時のすごく特殊な共通体験をした方々がまた何か別の形でその関係が残っているとか、そういったことはあるんでしょうか。

桑原 そうですね、避難所に行ったとお話しましたが、私が住んでた校区とは別の、隣の校区の小学校に行きました。当然あまり関わることのない小学校の低学年の子たちとか、おじちゃんおばちゃん達も来られて、これまであまり関わることがなかった世代の方と、例えば子供達と遊んだり、おじちゃんたちとはこれまでの話とか、これからの話とかをしたりしました。今は町職員として公園の管理もやっているんですけど、区長さん達とお話をする機会がありまして、当時の区長さんから変わられてない区長さんとかもおられて、当時とは違った立場で仕事で関われるっていうのは、すごく私自身も嬉しいことですし、それに対して区長さん達も、「町職員になったんだー」っていう感じで、歓迎していただいて、すごく私も嬉しいなと思っています。

村上 益城町への思いは震災を経て、やっぱり強くなったんでしょうか?

桑原 そうですね・・・。強くなったのかなって私自身は思っています。これは数値的なデータがあるとかそういう話じゃないんですけど、周りの方なんかも、やっぱり被災しても改めて町に住みたいという人はすごくいると思います。私もそうですけど、被災するまではあんまり益城町のことを好きだと思うことってあまりなかったんですけど、震災を経て、いろんな人のつながりを見る中で、すごくなんでか分からないけど「好きだ」と感じてます。

今井 震災では当時はボランティアされていたそうですけど、ボランティアをした経験があるからこそ、今の仕事に役立っていることってありますか。

桑原 そうですね。いちばんは、やっぱり住民の方と対話することの重要性かなと思ってます。避難所にいる中で、震災当初の方がよりスピーディーにいろんな要望が出てきます。慌ただしい中で、色んな意向を持たれる方もいらっしゃっても、当然それがすべての方が思うことではないというところはあるんですが、それを極力、形にしていくことがすごく大事だと思います。
ただ、今と比べてすごく変わってるのは、避難所にいる時っていうのは町職員の方がいらっしゃって、ある程度そこで即座に判断をして、いろいろやっていくってところが多かったのかなっていうのが、ボランティアをしている中での印象でした。ただ、いま実際にまちづくりを進めていく中で、言い方としてはあれですけど一筋縄ではいきません。関わる住民の方はかなり大規模になりますし、当然それなりに意見はそれだけの量が出てきます。全ての要望を受け入れるのは難しいながらも、より多くの方に少しでも合意まではいかないけど、これだったらいいかなっていう、ちょっとでも納得していただけるように務めるという所の対話の重要性というのは、あのボランティアをしてる中で培ったところが今生きてるのかなと感じます。

被災者であり ボランティアであり

村上 ボランティアでありながら、桑原さん自身が被災者だったんですよね。今みたいに町職員の方でもなかったとしても、ボランティアとなると、一歩足を踏み入れる部分があると思うんですが、それは躊躇はありませんでしたか? あるいは被災者としても、ボランティアとしても、そこには別に線引きがないものですか?

桑原 あんまり線引きはなかったのかなと思っています。私も被災者という立場ではいるんですけど、元々積極的に何かに関わっていこうとかそういうタイプじゃないんです。でもその時はすごく自分にとってのチャンスなのかなというふとした感覚がありました。今でも覚えているんですけど、何でか分からないんですが、自然と入っていけました。そしてその中でいろんなチャレンジが出来たことは自分の中ですごく生きてると思います。それをのびのびとさせていただいた当時の避難所の住民の方だったり、町職員の方だったりとか、ボランティアの方にはすごく感謝しています。
ボランティアっていう線引きをするっていう感じじゃなくて、特に小学校でそれが顕著だったと思うんですけど、避難されている方の意識が徐々に避難者というところから、そこで生活する生活者というんですかね、意識が変化してきたような気がしています。 自分の生活がやっぱり第一っていうところが皆さんにあられた。当然私もそうでしたし、そうだなと思うんです。けれどもその中で、みんなでより良くしていこうというところで自主的に動かれる方っていうのはいらっしゃったと思いますし、そういうのもボランティアということの一つなのかなって私は思っています。

村上 今お話を伺ってると、当時いらっしゃった避難所が、ある種の第二の家というか、家族が増えこんなに親戚いっぱいいたんだ、みたいな感じかもしれないんですけど、その中でそれぞれの方が、お父さんもお母さんも子供も、おじいちゃんおばあちゃんもいる。それぞれにその役割が少しずつ違うと思うんですけど、その中で桑原さんはボランティアっていう役割になったのかもしれないですけど、皆さんがいろんな役割を少しずつやられたという印象を受けたのですがそんな感じですかね。

桑原 そうですね。それぞれができることをやる感じです。例えば仕事をされている方もいらっしゃって、日中はお仕事に行かれて、戻って来られてから手伝っていただく人もいました。中学生とか高校生も一緒にボランティアとして活動してたんですけど、日中は学校が再開して疲れて夕方部活から帰ってきてから、夜、ご飯の配膳をしようかみたいな。義務感というよりは、なんかすごくそれをみんな楽しんでたと言うか、そういう印象があって、それが自然と回ってたと言うか、そういう感じをすごく受けてます。

村上 避難所もいろんな色が出ると思うんです。他の避難所でも桑原さんがいた避難所でも、条件は多分一緒だと思うんです。ほとんど同じ地域から、多少人数の差もあると思うんですが、アトランダムに集まってきたのに、次第に日を重ねていくにつれて、団結力のある避難所もあれば、そうじゃない避難所もある。そう変わっていくのは桑原さん、何が違ったと思いますか。

桑原 そうですね・・・。なんかですね。例えば朝の時間、この時間からこの時間は段ボールベッドのカーテンをみんな開けてオープンにして生活しましょうとか、会話をする時間をより増やしていきました。当然ギスギスした瞬間とかもあるんですけど、それはやっぱりこれまでに作ってこられた周りのコミュニティだったり、そういったところも含めて解決していこう、前を向いて歩いて行こうと、私たちボランティアが入らなくても、そういう感じで生活されてる方は考えられてたのかなと、俯瞰して見た時に感じます。

今井 被災当時と、今と、状況は全然違うと思うんですけれども、いずれにしても必要なのは対話。よく町民の人たちと話をすることが基本にあるんですね。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・桑原孝太)

次回のおしらせ

熊本地震で大きな被害を受けた益城町。町の都市計画課でまちづくりの現場に立つ桑原孝太さんに現場で考えることやその気づき、復興とはなにかについても、話を聞きます。お楽しみに!
The best is yet to be!

すぐに聞く

ラジオネイティブ「避難者から生活者への変化 被災者から自然発生したボランティア」 は こちら から聞けます。

アップルポッドキャスト
https://apple.co/2PS3198
スポティファイ
https://spoti.fi/38CjWmL
グーグルポッドキャスト
https://bit.ly/3cXZ0rw
サウンドクラウド
https://bit.ly/2OwmlIT

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?