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「ゼロを1にする」それが箱作りの醍醐味

できない理由を並べるよりは、どうしたらできるんだろうって考える

今井 前回から話を伺っているダンダンドームですが、段ボールの「建築」だと思うのですが、これまでの「包装」との違いや認識のズレみたいなことはあったでしょうか。

一丸 そうですね。村上さんがイメージされてる完成形があって、そこからパーツを切り出されたと思うんですけども、やはり段ボールという素材は、柔軟でありながら、一方で細かな折り返しであったり、継ぎ合わせといったところは、現実的に出来ない部分があったんですが、そこは、こういう方法はどうでしょうかというやり取りがありました。

村上 振り返ってみると、テストと微調整で試作をした回数が相当多いプロジェクトだったと僕は思っているんです。ただ僕が印象的なのが、「この辺でよくないですか」というのが一度もなかったことです。異業種でやっていると、それぞれの業種の中で大事にしてるディテールって普通は違うと思うんですが、よくこれだけ一致して「テストしましょう、確かめましょう」と繰り返せたというのが僕の感想としてあるんです。一丸さんはどう思ってらっしゃいましたか。

一丸 そうですね。同じような感覚の中でやり取りをさせて頂いたんじゃないかなと思っています。やはり完成させたいという思いが強かったんだなと思いますし、できない理由を並べるよりは、どうしたらできるんだろうっていう考え方の軸にやっぱりいますので、「村上さん、また無理難題を言ってきたなー」って思いながらも、「うん、よし、こういう返しをしようか」というような、そんなやり取りが楽しい時間だったなと振り返ります。

村上 一丸さんの中で、この辺はプロダクト化ができるんじゃないか、ここで行けるだろうって、どういう所で感じられてたんですか。

一丸 そうですね、ドームの部分の接合する方法っていうのは、割と早い段階で、今まであった技術の置き換えの中でできました。あとは入り口部分ですね。あの三角形ができた時など、パーツの形ができれば、それぞれのパーツを組み合わせると言ったところが、ある意味、形としての完成が見えたんじゃないのかなと思いました。

村上 なんとなく僕が思っていた、「ここ行けるかな」っていう部分のタイミングが、今改めて伺って、すごく同じところだったんだなという感じがしています。
段ボールって、設計したのが一丸欣司だということは誰もわからないと思うんです。その中で妥協せずに、ある意味で本当に見えない努力だし、表に出ない努力だと思うんですが、なぜそこまで続けられるんだろうって、ずっと思ってたんです。それはどこに矜持を保っているんですか。

一丸 一緒に開発に携わっている方、リクエストをいただいている方に、満足していただきたい。僕の中ではそこだけなのかな。やっぱり携わった以上、最後までやり遂げる、形にするっていったところが基本なのかなと思います。正解を出していく、そこがやりがいでもあるのかなっていう感じがします。

今井 私のような消費者からすると製品の方に目が行ってしまって、そもそも箱の方に目が行かないこともあります。段ボールのドームにしても、まさか入り口のところにそんな妥協のない挑戦があったことは全然気付かないわけですが、それでも妥協しない姿勢を改めて感じました。
 普段お仕事をされてるメンバーはやはり一丸さんと同じように、集中するべき所は共通してるんでしょうか。

一丸 そうですね。一つの設計を進めていくにあたっては、いろいろご要望事項がたくさんあるんですけれども、それぞれの設計者・技術者が経験値の中で形にしていくプロセスというのは、我々同じ内容で仕事しているんじゃないかなと思います。私が新入社員としてこの仕事に携わった時の上司がよく言っていた言葉なんですけども、「ゼロを1にする」。形ないものを形にしていくんだっていうことが設計者の楽しみ、やりがい、醍醐味だって常々言われていました。そんなところを私自身も経験の中で展開してきたのかなと思います。

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過去の技術に積み重ねる新技術

村上 いま世の中が変わってきていますが、設計に携わっている皆さんも変わっていったのか、それとも時代が変わっても周りが変わっても、設計者として大事な部分、守っていく部分は不変なのか、その辺りはどう今の時代を見てらっしゃいますか。

一丸 設計者はその時代の流れ、トレンドに合ったものを生み出していくことが求められてるんだろうと思います。以前までの技術を捨てるんではなくて、そこにプラスアルファしていく、そんな考えが求められてるんじゃないのかなと思います。

村上 これからも先も、いろんな技術ができてくるし、場合によって人間の仕事をロボットや機械がカバーしていって、人間は何をすればいいんだ、みたいなことがいろんな世界で言われていますけれども、段ボールの設計という部分ではどう感じていますか。

一丸 今、業界的に盛り上がってるのがEコマース(通販)の分野で、非常に段ボールの使用量も増えてますし、色々な使われ方がされてると思うんです。やはりその傾向を大量に箱を使っていただくにあたって、人海戦術的なところは当然作業としてあると思うんですけど、いかに機械化をしていくかがすごく大きな流れなのかなって思います。それに合うパッケージの形態を考えていくのが今の設計者に求められていることですし、我々の会社の技術はそのテーマに向かって今開発していってるのが現状です。

村上 僕らの世代っていったらあれなんですけど、過渡期を経験した世代と、今みたいな機械化、たとえばCADで切り出し試すのが当たり前の世代で、見ている世界が少し違ってたりする部分もあるのかなって思いますが、いかがですか。

一丸 私は入社した時、作品を一つ作るにしても、全てが手作りだったんですよね。よくよく考えて、考え抜いて、ようやくダンボールに刃を入れてカッティングをしていくのがあたりまえで、いかに頭の中で完成させるかが大事な工程だったんですけど、今はすぐCADでデータを作って試作カットできるという環境の中でいうと、形を作るそのスピード感、切りかえについては今の時代の方が、僕はいいのかなって思いますね。

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村上 段ボールの設計の肝は、早い段階でその試作につなげていくのが、いろんな設計の中でも重要な業種っていうことなんでしょうか。

一丸 そうですね、僕の感覚の中では早く試作を作ることが全ての始まりかなと思います。それを繰り返し繰り返し積み上げていくと、ようやく自分の納得のいくものもそうですし、求められてるものに近づくというような考え方かなというに思いますね。

村上 そうすると、CADで出せたり、一品一品を細かい変更を加えながら作れるというのは、天国な感じですか。

一丸 だろうと僕自身は思いますが、今の時代の技術者からするとそうでないのかもしれません。我々は手で作る時代にすごく時間を費やしたので、一つで完成させないとという思いだからだと思うんです。でも今はまず作ってお客様に見ていただく、周りに見てもらうのが当たり前。そうすることでいろんなアイデアも出てくるでしょうし、いろんな意見を頂いて、より次のきっかけになる。そんなやり方が今のスピード感、時間軸の中では必要だなと思っていますし、我々のメンバーも、そんな中で仕事をしているんじゃないかなって思います。

今井 時代によって使う道具や技術はちがえど、「ゼロを1にする」というプロセスの中での試行錯誤がよくわかりました。ありがとうございました。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 日本トーカンパッケージ)

次回のおしらせ

次回も段ボール箱や、紙で作られる容器などの開発をする日本トーカンパッケージで段ボール箱の開発をする一丸欣司さんとの最終回です。お楽しみに。

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