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「自然」と「ゲスト」のリズムの間にたって旅をする

このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。北海道の天塩川でアウトドアガイドをされる辻亮多さんに、川とともに生きる暮らしについてお話を伺います。


雪にあこがれ、北へ

今井 今回は辻さんが北海道・天塩川でアウトドアガイドになるまでのお話を伺いたいと思います。まず辻さんは子供のころ、どんな場所でどんな子供時代を過ごしたんでしょうか。

辻 今北の果てで住んでるんですけども、生まれ自体は徳島県なんです。温暖でこっちに比べると常夏のような場所で生まれ育ったんです。

村上 その辻少年が、どういった変遷を経て、北海道の道東を経て、どう北上してきたんですか。

本当に田舎で生まれ育って、夏休みの40日間ずっと海パンで過ごしてたような川ガキ海ガキだったんです。なので、とにかく雪がいっぱいあって寒いところに暮らしたいなって思っていました。それは競技スキーを徳島にいながらやっていたこともあったんです。子供の頃、家族旅行の一泊二日のスキーの雪が忘れられなくて、その一泊二日が終わっちゃうと残りの363日、次の雪を楽しみにしていました。それなら毎日雪の上にいられる所に行きたいなーって思って、大学生になったら絶対北の方に行ってやるんだと思っていました。そして運良く北海道の大学に入学することができたんです。

村上 スキーだと道具を使うじゃないですか。今の辻さんも、川に出て行く時にやっぱりカヌーだったりとかいろんな道具を使ってるんだと思うんですが、それは偶然ですか。それともやっぱどっかで繋がってるんですか。

辻 繋がっているような気はしますね。単純に、雪も水も、同じ水なのでその上をいかに効率よく動くかっていう操作の部分ではおそらく似たものはある。だけれども、そういうとこじゃないような気がします。今ここに暮らしている生活の道具として、自分にフィットしてるから使っているんだと思います。

村上 道具ってゼロから自分で作り始める人もいると思うんですけれども、まあ多くの場合は先人たちに使い方を教えてもらったりとか、先人たちが持ってる物を借りて使ってみたりというのがきっかけなのかなと思いますけど、辻さんの場合はそういった存在はいたんですか。

辻 そうですね、まず北海道の大学にやってきて、まずカナディアンカヌーを少しかじったんです。それがきっかけなのか、 大学を卒業する時にあるテレビ番組でカヌーのガイドをして暮らしている番組をやっていたんです。それを見て、日本でそんな暮らしができるんだというのが衝撃だったんです。これ、俺もやりたいって思っちゃったんですけど、その番組に出てたカヌーガイドというのが、この番組にも何回か前に出ていた「がってん」なんです。

村上 なるほど。がってんは3回前ですかね、登場いただいて、今は愛媛県の今治の方の自然学校で、野外との関わり方をプロデュースしている方ですが、その前には北海道でガイドをしていたとおっしゃっていました。まさにその北海道でガイドをしていた時期に、辻さんが出会ったということですね。そうすると「弟子」ということでいいんですか。

辻 そういうことですね。がってんの弟子として7、8年、経験をつませてもらいました。がってんは、ガイド会社をやってたんですけども、そこの会社員になったっていうよりは、本当に弟子ですね。
村上 そのがってんに出て頂いた時に、若い人たちにどんなことを教えているんですかと質問させてもらった時に、「まずそれぞれが持っている時間感覚みたいのを壊すことから始める」と言っていました。自然を相手にしているので、何時に集まって、何時に解散とかというものがそもそも違うと。だからまずはそういう元々持ってるものを壊すところから始めるんだって、確かおっしゃってたと思うんです。

辻 そんな感じだったと思います。そして教わったという記憶はあまりなくて、ずっとがってんについて回っていました。がってんはおそらく体で体現していたんだと思うんですけど、それを見て覚えるというか、いかに師匠なりきるか、というところから始めたように思いますね。

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暮らしもガイドも全てひとつのものだった

今井 僕たちもがってんさんから色んなお話を伺ったんですけれども、辻さんはどんなところを一番受け取ったか、あるいは自分のものにされていますか。

辻 そうですね・・・、彼がその釧路川という川のそばで実践してた暮らしとガイドという部分が離れていなかったというか、暮らしもガイドも全てひとつのものだった、みたいなところがとても印象的でしたね。

村上 弟子だった頃は、一緒に生活もしてたんですか。

辻 一緒に生活していた時間も長かったです。がってんたちの家族が住んでいたガイドハウスのすぐそばに、仲間たちと廃材を組み立てて作った電気もガスも水道もない小屋に住んでた時期もありましたね。それで寝宿共にしたり、まさに弟子入りでしたね。

村上 普通の人って、暮らしの中にオンとオフを作ってバランスを取っていると思うんですね。でも暮らしの中にオンとオフを作らないってどういうことなのか、もう少し伺えますか。

辻 そうですね、まず僕らは本当にほぼ365日、川の上か、水の上か、雪の上かにいるような状態なので、あまり自分自身のリズムで動いてる感じは少ないのかもしれないですね。
たとえば今日は水が多いぞ、風が強いぞというときは常に自分の神経を高めて、オンの状態の時もあるし、はたまた今日はなんかもう昼間から川べりで昼寝していようみたいな、別に仕事がオフで家で休んでるってわけじゃないけども、少し川が許してくれているから、気持ちを緩めてもいいなみたいな。人の一週間、月火水木金土のリズムじゃないリズムで動く、ということのような気がします。

村上 たとえば冒険などでは、基本的に冒険をしている最中はオンだと思うんですよね。非常に過酷な場所だからこそ、その強くオンを持たなきゃいけない。というところと、その中にもアクセル的なものと、これ以上行ったらまずいという時のブレーキ的なものもある。いずれにしても強いブレーキと強いアクセルみたいな、どうしても「強さ」というものがなんとなくイメージとして僕の中にあるんですが、がってんもそうなんですけども、今回の辻さんからもお話を聞いていて、あまりその「強さ」っていうイメージを感じなかったですけど 、そのあたりはどういうふうにとらえていますか。

辻 おそらくそれは、僕もがってんも冒険者じゃなくて、ガイドだからだと思うんですよね。あくまで自然とか、水の上を舞台に、ゲストが旅をすることがガイドにとっては大事なわけで、自分自身の強弱じゃなくて、川のリズムと、そのゲストのリズムとの間に立った時の強弱だからなんじゃないかな。


村上 なるほど。多くの場合、その自分に強弱をつけていくと成長が早まるじゃないですか。だけど強弱をつけていないっていう中でその成長っていうのはどういう風に育まれていくものだと思いますか。

辻 僕らはガイドが仕事なので、ゲストとの信頼関係がすごく大事なんです。一緒にここにチャレンジしよう。できたね、できなかったね。じゃあ次はこれをやってみようか。それをやるためにガイドも成長するよ、ゲストも成長してね。そういうように、一緒に回数や経験や時間であったりを増やしていき、それを一つ一つとにかく丁寧に信頼感を持って進んでいくっていうところに成長があるような気がしますね。

今井 がってんさんにもうかがった気がするんですが、どういうガイドをした時に、一番、成功したと感じられますか。

辻 なんかこれがってんも困ってたような気がするけど、僕も何か困ってしまうな。ガイド側の成功したなっていう時と、ゲスト側の成功したなっていう時が、ずれてたりもしますね。ゲストがあの時の写真送るねと送ってくれた写真が、僕が見てた景色と全然違ったりするんですよね。そういうところが面白かったりしますね。だからガイド側の成功っていうのは、その時その時をしっかり安全に、良い旅を終えればそれで成功かなと思います。

村上 それでは最後に、その土地に根付いていく、そのなりわいに根付いていく、辻さんにとってのネイティブっていうのは一体どういうものと思われますか。

辻 はっきりとは今つかんでないような気がするんですけど、やっぱり自分がやってきたことが、後でふり返った時に、僕だったら川にまつわること、雪にまつわること、自然にまつわることが、その土地の文化のようなものになっていく、そういったものに役に立ってるといいな、そういうネイティブになっていたいなとは思います。
(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・辻亮多)

次回のおしらせ

長野県松本市の柳沢林業・代表取締役の原薫さんは、信州の山に先人たちが育ててくれたカラマツ、アカマツといった木を届ける仕事をしています。人の一生をはるかに超えた時間の中で、何を受け継ぎ、何を伝えていくのか聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

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