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ネパールの遊動民族ラウテから学ぶこと

自分たちらしさを持つことの功罪

今井 ドキュメンタリーフォトグラファーとして、ネパールでラウテ族という移動する民族を追う門谷JUMBO優さんにお話を伺います。JUMBOさん今回もよろしくお願いしますます。

JUMBO ナマステ。よろしくお願いします。

今井 改めてになるんですけれども、JUMBOさんはなぜネパールに通い続けて、なぜこのラウテ族を10年にわたって追い続けてこられたのでしょうか?

JUMBO 一言で言うと、彼らがめちゃくちゃ魅力的だからです。

村上 いやあもう聞くだけで魅力的でしたもん。

JUMBO 自分の持ち合わせてる価値観とは全く違う、想像のつかない価値観の持ち主で、それでいて一つの部族として社会生活を営んでいる姿を見ることで、ときに新しいものも気づきますし、ときに反面教師的に教えてくれるところもあります。今の自分の立ち位置とか、考え方を、もうワンステップ外に押し広げてくれる、そんな存在がラウテ族ですね、僕にとっては。

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村上 ラウテ族のいいところと、逆に反面教師というか悪いところっていうところ、もし一つ具体的に挙げるとしたらどんなとこですか。

JUMBO すごく難しいですね。いいところは、あくまでも定住してものすごく近代的な生活、それも世界の最先端の日本で享受できる僕目線でのいいところになってしまいますけれども、彼らは自分の持ち合わせていない価値観をしっかり確立して持ち続けているという、それがいいところです。
逆に悪いところっていうのも全く同じで、人様と相いれない価値観を貫くことで生まれる摩擦とかを目の当たりにするわけで。それっていうのは自分にとっても身につまされるところがあるっていう意味での「悪い」です。ただそれは、彼らが「いい・悪い」ではなくて、あくまでも僕の判断基準、自分が日本で生活していく中での「いい・悪い」なので、ただ彼らはそれをやりたくてずっとやり続けているっていう人たちです。

村上 たくさんの部族の周りを30年に1回ぐらいのサイクルになるので、相当な部族と接点を持ってるのかなと思うんですけど、御近所さんからはラウテ族についてどういう声が聞こえているんですか。

JUMBO 昔の話を聞くと、ご近所さんたちも恐れていたようです。得体の知れないもの、日本で言えば鬼のような感覚だったんじゃないでしょうか。ただそれが、情報伝達がいろんなデバイスによってスムーズに行くようになってる今、また車だの何だのっていう交通機関も発達してるなか、そういう恐れっていうものはだんだんだんだん変容していって、まず恐れるべきものではない、そういうものに変わって、次いで、ともするとちょっと自分たちの立場よりも下にいる人たちっていうようなものの見方っていうのが、昨今見受けられるのかなっていうような気がします。
ただ同時に、包容力や受け入れる力が、そのエリアにもそうですし、ネパール全土的にネパール人は柔軟さを持ち合わせているので、だからこそ彼らが生き続けてこられたし、だからこそネパールっていう国がすごく魅力的だし、魅力的なネパール人の気質っていうものに生かされた存在っていうのがラウテなんだろうなって思っています。

村上 最終的にはご近所さんも、セルフィッシュなラウテ族も、その気質は自分たちの中にもあると思っているんでしょうか。それともやっぱり別のものと捉えながら共存しているのでしょうか。どういう形で繋がったり離れたりというお互いの関係性というものを、JUMBOさんは訪問者としてどういうふうに見ていますか。

JUMBO そうですね。包容力とか懐の深さは、実際のところ、双方が持ち合わせてうまくいってきたものだと僕は思います。ただその方向性の違いというか、それぞれに価値観が全く違うので、発揮するところが違うっていうところはあります。
 例えば今回、ラウテ族の取材をする中で、約50年近く前にラウテの人たちと関わったっていう方の息子さんの話を聞けたんです。その方は昔のそのエリアにあった大きな集落の酋長だった人で、ラウテの人たちがそのエリアを訪れたときに、木で作った器を送るのでその森を使わせてくれという話が来たときに、そんなものはいらないからどうぞ住んでくださいと、そういう扱いをしたそうです。当時はネパールで政治的なゴタゴタがあって、警察が強権を振るっていた時代だったんですけども、あるトラブルが起きてある日その酋長が投獄されてしまったんです。すると投獄されたことを知ったラウテの人たちが、わざわざ留置所のあるところまで行って、彼を釈放するように懇願してくれたっていうことがあったそうです。
なので彼らは彼らなりの、義理とか人情とか、仁義とか、そういったものを持ち合わせながら、タブーで縛りながらですけれども生きてるというのが垣間見れたのがすごく面白かったです。

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ときには溶け込み、ときには俯瞰的に自分を保つ

村上 聞けば聞くほどJUMBOさんが言った面白い魅力的っていうその言葉を肌で感じたいなって思います。まあ多分僕はタブー視されて、たぶん受け入れてもらえないから触れられないんだろうなとは思うんですけども・笑。
ラウテの人たちに僕は関わる機会はなかなかないのかもしれないですけど、その御近所さんである定住してる彼らからしたら、ラウテの人たちだけでなく、外国人である僕らやいろんな国からネパールを訪れています。そういう意味では包容力みたいなところを僕らも多分享受してるんだと思うんです。ネパールってすごくいろんな国の人たちが訪れる国だと思うし、それはもしかしたらなかにはセルフィッシュな国の文化の人たちも入ってきているんだと思うんですけど、それは多分ネパールの人たちの包容力を気に入っちゃって訪れちゃうのかなみたいな、そそういうところまで話が広がっていくような気もするんですけど、どうですか。日本人としてのJUMBOさんはネパールっていう国に対してどういうふうに感じますか。

JUMBO そうですね、ネパールという国と関わりを持ち始めて長いですけれども、やっぱり僕はネパールの人たちに助けられたし、生かされているし、本当にネパールという国にお世話になって、これまで生きてきたところがありますので、お世話になったからこそ、これからもこの人たちと関わりを持ち続けたいなっていう気持ちも湧いてくる。
自分の人生の中で、このネパールっていう国がすごく大事な存在になってくる。そういったところもありますね。

今井 僕らはネイティブという名前をこの番組につけて話を聞いてるんですけれども、ラウテの人たちも文字通り暮らしを繋ぎ続けてると思うんですけれども、ネイティブになる上で一番大切なことってどういうことだと思われますか?

JUMBO そうですね。「溶け込む」っていうのは一つのキーワードじゃないかなと思います。そういう自分勝手、セルフィッシュな人たちや、それから包容力の強い人たち、いろんな人たちがいるけれども、そこに自分は自我という個を持ちながらも、彼らのスタイルに合うように柔軟な気持ちを持って溶け込んでいく。そうすることで向こうも受け入れてくれるし、それが高じると、もしかしたらネイティブっていう世界軸になるのかなというふうに思います。

村上 前のシリーズでお話を伺ったJUMBOさんがネパールで続けているもう一つの活動「The 3rd Eye Chakra Field Bag Works」の活動を、今のそのネイティブっていう点から聞きしたいんですけれども、ただ単にカバンを作っているわけではなく、ジャンボさん自身がネパールの人たちと溶け込んでお仕事をされている、そういうコミュニティを作ってるっていうふうに改めてそういうふうに思ったんですけれども。そういった意味では、JUMBOさん自身が溶け込んでいくために大事だなって思ってるところ、最後に伺えますでしょうか?

JUMBO さっきお話したことと矛盾してしまうかもしれないですけれども、ネイティブになろうって意識しないことっていうのは一つあるかもしれないです。
というのは、やっぱりこちらの人に溶け込もうとしても、やっぱりどれだけ時間をおいても、よそ者はよそ者ですし、それはもう言葉も違う、肌の色も違う、考え方も違う、育ってきた環境が違うので、どうしようもないギャップっていうのはあるんですね。
ただ、どういう環境でネイティブにありたいかっていうのを、アジア圏でのネイティブだったらどうだろう。この地球規模でのネイティブだったらどうだろうっていうふうに、俯瞰的に考えると、その場所に無理やりネイティブになろうとしてネイティブ然と振舞うんではなくて、自然にそのままの自分でふるまう。そういう行動をおのずと取るようになると思うんですね。多分そういったところが重要なんじゃないかなと僕は今思っています。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

続いてネパールから新たなゲストに登場いただきます。ヒマラヤをはじめとするネパールの様々な山登りをサポートするガイド会社「ニレカ・アドベンチャーズ」の代表、サティス・マン・パティさんにお話を伺います。30年の経験の中で、ネパール全土を歩きつくしてきたサティスさん。ネパールの暮らしや文化など、楽しいお話をたっぷり聞きました。
The best is yet to be!


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