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【読むラジオ】#023 日常の中にこそネイティブはある

揺るがない、暮らしに安定をもたらす存在

今井)これまで「ネイティブを知る」様々なゲストをお呼びして、暮らしをつなぎ続けるヒントについて話を聞いてきたわけですが、今回と次回は、これまでの話を振り返り、あらためてネイティブって何だろうと考えてみたいと思います。
村上さんはどんな話が印象に残っていますか?

村上)いろいろなフィールドに長くいる方々に話しを聞いてきたわけなんですけど、僕らは先駆者パイオニアという言葉の対比としてネイティブという言葉でこの番組をさせていただいてるんですけど、これまで5名の方のお話を聞きながら、ネイティブという言葉はすごく深いなという気持ちになりましたし、それぞれはっとさせられる言葉がいろいろありました。今井さんどうですか、言葉の節々の印象から。

今井)ネイティブにはいろいろな形があるなと思いました。例えばカンボジアのお話が1回2回と続きましたよね。そのなかで吉川舞さんに聞いてすごく面白かったのは、村の中でドーンとずっと居座る無口なお父さん、それが実はカンボジアの遺跡なんですけれども、それがあることによって村の人たちにとって精神的な支えになっているという話がすごく心に残っています。やっぱり暮らしを続けていくと、毎日いろんな出来事が起こるけど、その中で変わらないもの、そこにあってずっと不変の物っていう、そういう「物の存在」っていうのもネイティブになり得るんだなと、すごく思いました。

村上)そうですね。僕も吉川さんの話を聞いて「どーんと」と今井さんがおっしゃったように、吉川さんの話を聞いていて、カンボジアってすごく流動的に動いていて、止まらない川の流れみたいな、くるくる動きながら、エネルギーみたいなこともおっしゃってましたけど、そういう川のようなイメージで聞いていたんですけど、ただやっぱりその川が流れが早いのには、人間って拠り所が必要なんだろうなって思っていて、動きの速いものと、何千年、何百年という単位の中で動かないでどーんとしてるものの対比があってこそ、この流れが際立つのかなと思いました。
遺跡だけではなくて、吉川さんの話で、あるお母さんが、子どもが9歳ぐらいになったらある程度、生活の煮炊きができて当たり前なんだから、みたいなことを言ってたというのも、やっぱり速い流れの中ででも、これぐらいの年齢になったらドーンとみんなここぐらいはできるのよっていうとこに行き着く。それが土台となって、ドーンとあるものの中に、さらにいろんな暮らしの流れや、臨機応変さがあるんじゃないかなあと思ったんですよね。

今井)そうですね。物にしろ、暮らしにしろ、変わらないベースとなるものがすごく大切なことなんだなって思いました。そういう、いつでも帰ってこれるような、基礎となるベースがあるからこそ、新しいことにチャレンジしたりとか、1日単位であっても今日も頑張ろうみたいな気持ちになるわけで。あるいはもし何かに失敗しても、まあ大丈夫みたいな、心の支えを持っているかどうかが大きいなと感じました。

村上)同じカンボジアでも貝塚乃梨子さんの話でいえば、貝塚さんの場合はカンボジアの中でも都市部の方にいる人達ですが、そこに集まってる人達って田舎を持ってたりして、しょっちゅう週末になると、結構距離があっても家族のもとに皆さん帰ってきて週末をすごすろいうことも言っていました。それってやっぱりある種、拠り所が家族であって、家族も吉川さんの話では、「やっぱり帰ってくる人たちがいるから私たちずっとここにいないとかわいそうでしょ」みたいな話もあったと思うんですけど、やっぱり都市部の生活はすごくいろいろ早いんだなぁとか、いろんな変化に富んでるんだなっていう話を伺いつつ、そこには根っことして、家族みたいなものがやっぱりあるんだなと思いましたね。

村上)いきなりこのシリーズ、2回続けてカンボジアから入ったんですけれど、すごくわかりやすくて面白かったなと思います。前半はカンボジアのゲストの二人の話を聞くと、やっぱそこにはその変わるものと変わらないものの対比があるんだなと思ったことを振り返りました。そして第3回目はカンボジアからテーマが宇宙へ。しかも宇宙に実際に行っている人ではなく、地上にいながら宇宙の現場に行っている人達を支えてる山村侑平さんという方をおよびしました。僕なんか宇宙について多少なりともなじみがあるんですけど、今井さんは、おそらく初めて聞く話もたくさんあったんじゃないかなと思うんですが、何か印象に残ってるとこあります?

今井) そうですね。ニュースの見方が変わりました。今すごく民間の宇宙旅行とかが始まっていると思うんですが、山村さんの話を聞いて、ああそうか、この地上側でそれを管制してる人がいるんだということに、まず気づいたということがありました。宇宙っていうのが管制と飛行士とのコミュニケーションによって成り立ってるんだというところです。管制の仕事は裏方というか、なかなか表には出てこないわけで、そういう人の気持ちとか思いを聞く機会がないので、すごく面白い話が聞けたなと思いました。

村上)そうなんですよね。山村さんに限らず、ゲストの皆さんに共通してるのが、僕らって、ともするとメディアとかいろんなものを見て、表に立ってる人たちを介してしか見ることができない。あるいは最後にアクションしてる部分しか見られない。でも共通してるのは、そこに至るまで、あるいは行っている間に、そのバックグラウンドで行っているものみたいなものに、ものすごく準備と労力と思いと、いろんなものが重ねられているんだなーって改めて感じました。それがあるから前面がこうなってるんだという視点を、改めて教えてもらったなという感じがすごくするんです。
特に宇宙の場合だと、行く人とバックグラウンドにいる人が、実際に人として別の人だったりするので、よりその部分が顕著に見えるのかなと思いました。

長い時間をつなぎ続けるために必要な姿勢

今井)めちゃくちゃ集中してやらなければいけない仕事だし、責任も重いんだけれども、あまり頑張りすぎてやってしまっては、これは長期にわたる仕事なので、ダメだと。むしろ優れた管制官というのは「力が抜けているんだ」という言葉が、僕はすごく印象に残っています。完全にオフではないんだけれども、いざとなったらすぐ始動みたいな、この絶妙な感覚をキープし続けるというのは、なかなか出来ない能力だなと思います。一方で、在宅の仕事が今増えてる中で、なかなか直接出会ってコミュニケーションができないようなときに、どういう風に気持ちをつなげ続けていけるか、みたいなところにも、すぐに参考になりました。宇宙っていう遠い世界の話をしてるような気がするんですけれども、身近なところで参考になる話がすごく多かったなと思いました。

村上)僕はベテランと呼ばれる人たちが、軽口を叩いてるみたいなこともおっしゃってたと思います。あまり型通りじゃなくて、いろんなことを、ちょっと無駄な会話なのかもしれないけどやってると。その話って、オフの時の事を言ってたと思うんですよね。で、そこがやっぱり絶妙だなと思っていて、どちらかというと僕らは、オンの時にどうするかということにフォーカスしがちなんですけど、その軽口というのが、僕はなんかすごくそれこそめちゃめちゃオンの状態のようにベテラン達は僕は思っていて、本場の時の方がオフに近いというか。もう頭を使わずに決められたこと作業としてもやるぞ、みたいなとこのオフというか、フロー状態に陥っているようなのがその本番であって、むしろオフと僕らが呼んでるような所こそ、めちゃめちゃ頭を使って、いろんなことを探りながら情報収集してるなというイメージがあって。ともするとオフの時って会話が止まるじゃないですか。コミュニケーション。でもそこであえて軽口を叩くとか、冗談をいうことで、今通信の向こう側にいる管制の人達って、こういう状態なのかなとかまた逆も然りなんですけども、そういったそのアンテナを張り巡らせてるというか、巧妙というか、そういうことをすごく感じました。
僕らがなんとなくステレオタイプといったらおかしいんですけど、オンとオフって思ってるものが、逆転していたりとかして、前面に立つというところよりも、それまでのバックグランドでやることが、どういう風に準備しているのか、そういうところがキーだったりするので、その部分かなと思いますね。

今井)逆に村上さんに聞きたいんですけど、ミッションにおいて、オフと言われる時間の方が圧倒的に長いわけじゃないですか。ある一定の集中力を保ちつづけるコツみたいなのってあるんですか?

村上)その時間は苦しいとしか思えないんですよね。だから僕で言うと閉鎖隔離の生活って、これまで1000日ぐらいトータルでやってきてるんですよ。その手前でそのオフという意味では、5000日間準備をしているんですね。セレクションされる時間というのはそこに含まれるんですけど。よく、これから南極や北極といった現場に立つときに、ワクワクしますよね、みたいなことをインタビューで聞いていただいたりするんですけど、もうその時点で僕はもう行きたくない気持ちモード全開なんです。
なんでかというと、その準備の段階、オフの段階で、ありとあらゆるケースを頭の中でシュミレーションするんですね。行ってから考えるんじゃなくて、僕自身がそんなに決断力があると思っていないので、やっぱりパニックになるのが怖いんです。なのでそのオフの状態でも自分なりに期待値を下げるというか、腹をくくるっていうような作業になるんですけども、ありとあらゆる一番起きてはいけない嫌なこと、自分にとって嫌なことはこれだっていうのを頭の中で考えて、少なくても現場ではそれだけは避けるぞみたいなプロセスを経るので、やっぱりしんどいんです。でもそれがコツではないんですけど、結局やっぱりそのオンというものがすごく怖いんだなーっていう実感の中で、オフの間がコツではなくて、やらざるをえないっていうぐらい、そうなった時に狭間に立たされた時の逃げ出したくなる気持ちっていうのは今まで体験もしているので、それと比べればっていうとこでなんとか繋ぎ止めてるっていう・・・。ほかのネイティブの方とちょっと違うのかもしれないですけど。

今井)いや、まさにネイティブっていうものを考えていく上で、際立った特徴的な動きとかではなく、長く続く日常の方にやっぱり注目していくことが、これからもゲストの方々をお呼びする時に、なぜそういうことを続けてこられたのか、みたいなところに注目して、お話を伺ってきたいなと思いました。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・貝塚乃梨子)

次回のおしらせ

これまで5人のネイティブを知る人にお話を聞いてきたラジオネイティブ。次回も極地建築家・村上祐資と今井尚がこれまでの話を振り返ります。#024をお楽しみに!
The best is yet to be!


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