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野外で使えるカバンをネパールで作る

カメラマンが作るアウトドアバッグ

今井 今回で69回目となるんですけれども今回から新たなゲストをお呼びします。ドキュメンタリーフォトグラファーであり、ネパールでザ サードアイ チャクラ フィールドバッグ ワークスというアウトドアバッグ作りをしている門谷”JUMBO”優さんにお話を伺います。

村上 僕は普段は門谷くんとお呼びしてるんですけど、今日はJUMBOさんと呼んでくれということなので、JUMBOさんでお呼びしたいと思いますけど、JUMBOさんはさっきドキュメンタリーフォトグラファーと今井さんからありましたけど、特に山岳であるとか、極地みたいな辺境の地を自身で歩いて、そしてそこの写真、特に人を撮っているカメラマンになります。
だからだと思うんですけれども、いろんな機材を全部持ち運ぶわけです。そういったこともあって、ずっと適したバッグを探されてて、それをネパールで生産して、日本で販売を始めています。それがサードアイチャクラというブランドのカメラバッグになるんですけど、今日はそのお話と、なぜネパールなのか、日本ではなくて、ネパールで作るというのにどういう意味があるのかとか、あるいはそのデザインのこだわりとか、そういったお話をいろいろ聞かせていただければなと思っています。

JUMBO よろしくお願いします。JUMBOです。

今井 さっそくなんですけれども、カメラバックはどんな特徴で、どんなバックを主に作っていらっしゃるんでしょうか?

JUMBO はい、ごめんなさい。まずうちのブランドでは、カメラバックっていうのは作ってなくて、登山用のバックパックを作っています。

今井 あ、失礼致しました。

JUMBO 本当はカメラバックも作りたいんですけれども、ネパールって、海がない国で、物流にハンディがあるんです。なので、材料も、作ったものも、全部飛行機で出さなきゃいけない。そうすると、カメラバックみたいに形が決まってしまっているものを作ると、運ぶのにすごくお金がかかってしまうんです。そういうものは作れないという事情があって、その代わりに、僕が僻地とか山岳でカメラをはじめ、ギアを運ぶ、それに適したバックパックを自分でデザインして、ネパールの仲間たちと作っている、そういうブランドになります。

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村上 今どんなラインナップがあるか、ざっと説明いただけますか。

JUMBO そうですね。一番最初はショルダータイプの取材用のバッグという位置づけで、カメラバックほどではないんですけれども、少しプロテクションの入ったフレキシブルな形のショルダーバッグを作っていました。その後僻地や山岳で活動する上で使うカバンというと、やっぱりバックパックの方がずっと便利なので、バックパックの開発をはじめ、今ではラインナップのうちの半分以上が山岳用のバックパックです。
すごくシンプルで頑丈で軽いっていう、そういったものを特徴としてるもの作りをしてます。

村上 さきほどカメラバッグは輸送にコストがちょっとかかってしまうという話がありましたが、一番最初の仕事用のカバンはどちらかというとカメラバックに近い印象があったんすけど、それは輸送にお金がかかったからということですか。

JUMBO いえ、一番最初に作っていたものもカメラバックという打ち出し方はしていないんです。軽いプロテクションは入ってるんですけれども、折りたたんでも形がちゃんと元に戻るようなものです。
カメラバッグというのはどうしてもクッション材をたくさん入れているので、折り畳んでしまうと、クッション材にしわがついてしまって元に戻らなくなってしまうんですけれども、そういうものではないというところですね。

村上 なるほど。いや今のカメラバックとはっていうところのキーワード一つとっても、正直ですね、僕がさっきカメラバックって言ってしまった原因なんですけど、見せてもらったものと、実際に手に取ったものが、僕の中ではカメラバックそのものだったんですよね。でも確かに言われてみれば、そうじゃない。
僕は趣味でカメラとか使いますけど、その意味でのカメラバックと、プロが使うカメラバックって、全くやっぱり違うってことですよね。

JUMBO そうですね。とはいえ、僕も仕事上でカメラバックは多く使うことあるんですけれども、カメラバックっていうものを使うデメリットも、ひしひし感じてるんです。それは何かっていうと、カクカクした、しっかりとクッションの入ったものっは機材をちゃんと守ってくれる反面、どうしても持ち運びという意味ではかさばるし、海外の治安の良くないところなんかに行くと、どう考えたってその中には高いものが入っているぞという見た目になってしまうので、そういったのを避けるというのも一つ、僕たちのブランドで物作りをする理由であるなと思います。そういう思いもあって、あえてプロテクションが入ってるものでも、カメラバックとは銘打たずに、「フィールドワークで使うカバン」ということで、ザ サードアイ チャクラ フィールドバッグ ワークスというブランド名にしています。
本当にシンプルさと機能性っていうものを、自分の経験の中で吟味しながら、足すものは足す、引くものは引く。結局、機能性をたくさんつけると、極限の状態だと、頭もボケボケになってるんで、なかなか全ての機能を使い切れない。なので、いらないものはそいで、その分軽くすることで体力をセーブして、というところですね。

村上 最近、カメラバックのブランドの中にも、フィールドでも使えますよというようなラインナップが少しずつ増えている気がしますし、逆に、登山1本でやってきたようなブランドが、カメラも入れやすいですよみたいなものの開発を始めているようなのもチラチラと見ます。二つの方からカメラっていうところに行ってるんですけど、サードアイチャクラはどういう位置づけとご自身は考えていますか。

JUMBO しいて言うなら、カメラに限らず、フィールドに出て、仕事だとかフィールドワークをする、そのためのギアとしての位置づけですね。だから中身、カメラを入れていただいても何を入れていただいても、ただの登山に使っていただいてもいいし、しっかりとした撮影に使っていただいてもいいし、あるいは撮影じゃなくて何か調査に使っていただいてもいいし、そういう汎用性を持たせたカバン。そういったところを目指して作っているところです。

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一つのカバンが生まれるまで

今井 JUMBOさんはネパールを拠点にカバンを作られているということなんですけれども、どういう流れで一つのカバンが出来上がっていくんでしょうか?

JUMBO そうですね。まず僕がどういったカバンを作りたいかというデザインを考えます。自分の頭の中で考えたものをちゃんと布のカバンとして立体的に作れるかどうかっていうのはまた別の問題なので、自分のアイディアっていうのは、まずスケッチだとか、自分でミシンを踏んで縫ってみたりだとかして、機能性の部分だとか、パーツだとかっていうものを少しずつ作っていきます。そしてその作り上がったものをネパールに持っていって、職人と相談しながら、量産できるかどうかを吟味して、試作ができたらまたヒマラヤに持って行ってテストしてみたり、日本に持ち帰って雪山で使ってみたり、また僕が仕事の中で行くいろんなロケ地で使ってみたりっていう、そういったことを繰り返しながらブラッシュアップしていく。それで一つの製品が出来上がるっていうプロセスですね。
なので一つ出来上がるまでに、えらい時間がかかる。

村上 時間がかかるだけでなく、きっとその過程にはものすごい試作量もしてると思うんですけど、ちなみに見合うんですか? コストは。

JUMBO 見合うように頑張ってますけれども、なかなか自分のこだわりが捨てきれないので、1回作ってみたものを、また販売できるかなっていって、計画したものを一度オジャンにして、また作り直してみたりとか、結構非効率なことをやってるなって自分でも思います。

村上 笑。そんな雰囲気をプンプン感じますけど、でも、商品化されたものに関しては、自信があるということですね。

JUMBO そうですね、はい。自信を持って人に使っていただけるものを作っていると思ってますし、またそういうこだわりがあるからこそ、人の手に取ってもらえる部分も大いにあると思っているので、それが自分たちのブランドのカラーなんだなと、頑張っているところです。

村上 前半ちょっと気になったのが、僕はJUMBOさんが、ドキュメンタリーフォトグラファーという印象なので、あのカメラマンだからカメラバックという言い方をどうしてもしてしまってたんですけど、逆にJUMBOさんからは「仕事」というキーワードで返されてたなっていう印象が何度かあったんです。だからその仕事っていうのは、ご自身はカメラマンではあるけれども、別にそうじゃない人だったら別のその仕事があるよね、でもフィールドで仕事をするっていうところは一緒なんじゃないかみたいな、そんな感じですか。

JUMBO そうですね。仕事っていう言葉の中には、僕が撮影するように自分が生きるための糧を得るための仕事っていう、そのままの意味もありますし、もう一つ多分ライフワークもあります。多分山に登っている人たちって、多くは、山に登ることが、収入には繋がってないかもしれないけれども、自分の人生を豊かにしたりとか、人生の中で思っていることを探求したりとか、そういうライフワークという目的があってやっていると思うんです。そういったライフワークも含めた「仕事」という意味で、フィールドワークっていう言葉を使ってます。

村上 なるほど。山岳で仕事をするのには、カメラに限らず他にもいろんな装備を使う。その一つひとつに、別にカメラに限らず全部どうすればもっと良くなるだろうっていうことを考えていて、その中で特に自分が作れるかもしれないという可能性の中で、一つを作ってる。そんなイメージですか。

JUMBO そうですね、はい、まさにその通りです。自分自身がデザインとか、アパレルを扱う専門的な知識を勉強してスタートしたブランドではないですし、ネパールにはミシンとか、裁断の道具が潤沢にあるわけでもないので、基本的にはすごくベーシックなことしかできないんです。
そうすると最近流行りの、ものすごく高機能な材料を使って防水性もすごく担保されてるようなジャケットとか、服飾、そういったものを、テクニックを使って作ったりとか、そういったことっていうのは、とてもじゃないけど望みようがない。
ただカバンに関しては、そういうベーシックな技術とか機械とか知識とをなんとかやりくりしてブラッシュアップしていくことで、一つのものを完成させられる余地が残っている世界だったので、ネパールのポテンシャルと、自分自身がデザインできる部分の限界点だったんです。
あとカバンはどうしてもカメラマンっていう仕事の関係上、自分の身一つで何かできるわけではないわけです。カメラっていう機械にすごく依存する仕事で、その機械を必ず運ばなきゃいけない。そういう仕事をしてるからこそ、カバンっていうのが、常にすごく大事で、いつも身に付けてるものなので、だからカバンっていうものが一番自分にとってもとっつきやすいところだったんです。それでカバンを作ることを選びました。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

次回も引き続き、山岳を専門とするドキュメンタリーフォトグラファーでありながら、ネパールでアウトドア用のバッグなどをつくるブランドを立ち上げた門谷 "JUMBO" 優さんにお話を伺います。なぜネパールでアウトドアバッグをつくるのかというお話を通して、ネパールの抱える問題や、門谷さんの向き合い方を聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

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