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【読むラジオ】#003 遺跡はカンボジアの「無口なお父さん?」

「遺跡生態系」に生きる遺跡と人々

今井)3回目となる今回、初めてゲストをお招きしました! 今回はカンボジアで遺跡を案内する旅行会社、ナプラワークスを運営されている吉川舞さんです。現地カンボジアからご登場いただきます。

吉川)よろしくお願いします!

今井)最初はまず、吉川さんのいらっしゃるカンボジアの目の前の世界についてお伺いします。吉川さんは遺跡を案内する時に、「遺跡生態系」という言葉でこれまでご説明されています。カンボジアの方々とどんな関わりを持ちたくてこの言葉に行きついたんでしょうか。

吉川) そうですね。すごく小さいころから遺跡が大好きだったんですよ。なんで?とか、そういう問いが生まれないくらい自然に、古代から受け継がれてきたものとか、古い文化とかが好きなんですよ。なので「遺跡を案内する」と便宜上言ってるんですけど、遺跡とかカンボジアの地域とかと出会ってもらう機会に「伴走する」というのが私の仕事の本質だなーって、最近思っています。遺跡ってなんとなく小難しかったり、古臭かったり、よくわからないみたいに捉えられがちですが、私はすごく好きで、大ファンなので、その大好きなものをもっと多くの方に接点を持ってもらえたら嬉しいなと思っています。
 今まで12年ぐらいカンボジアに住みながら「大好きです、大好きです」って言い続けているんですけど、ある時「遺跡生態系」っていう言葉がすっと出てきたんです。もともと私は遺跡の専門的な勉強してきたわけではなく、宮本常一さんとか柳田国男さんとかの民俗学がすごく好きで、人がどう暮らしてきたのかとか、かつてどんな世界が今の世界の前にあったのかみたいなことに興味があって、そういう目線で村に入ったり、遺跡をうろうろしたりしてるうちに、「遺跡って、今を生きてるんじゃないかな」と思い始めて・・・

村上)吉川さんから話を聞いてると、普通だったら遺跡っていうと「物」みたいなイメージがあるけど、伴走って言ってるし、ファンですって言ってるし、「誰々さん」みたいな「人」の話をしているようですね。

吉川)そうなんですよ。例えば、あるアイドルのものすごいファンの人とか、ある球団のものすごいファンの人とかと、主語を変えるだけで、すごく分かり合える気がするんです。その部分がお笑い芸人さんだったり、アイドルさんだったり、皆さんそれぞれあると思うんですけど、それがたまたま私は「遺跡さん」だったんです。

村上)「遺跡さん」って、例えばヨーロッパにもたくさんいますけど、カンボジアの遺跡さんはどこが魅力的なんですか?

吉川)これもう、どのアーティストが好きですか?みたいな話と一緒です。あるじゃないですか、衝撃的な出会いって。

村上)最初にビビッてきちゃったんですね。

吉川)最初はヨーロッパに行ったんです。世界遺産とか事例も多いし、何かそこで学びたいとか、人生をかけてできる仕事を探したいとか思って行ったんですけど、ヨーロッパと自分のサイズが全然合ってないことに気がついたんです。20歳ぐらいの時に、友人とバックパッカーで旅したんですけど、いつも小学校6年生ぐらいに見られて、どこに行っても小っちゃいお嬢ちゃんって言われました。「サイズ感、合ってないなぁ」みたいなことが続いたんです。
 ヨーロッパから帰ってきて、その後にカンボジアに来る機会があった時に、最初はカンボジアって全然興味なく、もう遺跡さえ見られればいいと思って降り立ったこの国で、なんかすごくフィットすると思ったんです。かつ、その圧倒的なエネルギーみたいなものにどんどんのめり込んでいって、たどり着いたのがサンボープレイクックっていう1400年前の素敵な遺跡だったんです。

村上)なんか好きな人の話をキラキラしながらする吉川さんですね。

今井)出会ってしまったんですね。

背中で語る「お父さん」

今井)「遺跡は生きている」。遺跡と、旅人と、カンボジアの人たちをつないでいくことが「遺跡生態系」という言葉なんですか?

吉川)そうですね、遺跡の中に身を置いていると、遺跡さんって私たちとちょっと寿命のスパンが違うだけなんです。建てた時にはそれなりの役割があって、その後、紆余曲折の人生を経て現代の私たちの前にこうしていてくれている。つまり遺跡の空気って、都度都度変わるんですよ。その一瞬で切り取れない物がある。その空気っていうのは、訪れる人だったり、そこの近くにいる人だったり、そこを守っている人だったり、周辺の自然だったり、いろんなものに影響を受けて形成されていくんです。そういうことを感じた時に、これはすべてを含めた関わり合いの中にいるんだなと思ったんです。その関わり合いが、まるで発酵食品が発酵するようにだんだん温度を上げていければ、遺跡がこの先もずっとその場で生きていくことに繋がっていくんじゃないかな。さらには、その生態系の中にいるそれぞれの人達にも素敵な暖かさをもたらしてくるんじゃないかな、と思ったんです。それ以来ずっと「遺跡生態系」って言っています。

村上)「遺跡さん」がいて、その周りに住んでる地域の人たちがいて、その人にもまた、子供だったり奥さんだったり家族がいる。ある人を見る時に、その両親や子供とかに会うと、その人のことをより深く気づけることもあると思いますが、そんなお宅訪問のような形でずっとカンボジアに行っているということですか。

吉川) 村に関しては本当にもう「お宅訪問」ですね。遺跡を大きく支えてきたその地域、大きなどんぶりの中に入って、どんどん出会っていく感じです。遺跡はある意味、自分で語る言葉を持たないじゃないですか。今の例えでいうと「すごい無口なお父さん」です。「背中でしゃべります」「空気でしゃべります」みたいなタイプ。仮にお父さんだったとすると、1000年以上前から生きてる人なので、言葉が違うわけです。現代を生きる私たちにはちょっとキャッチしきれないような。例えば私達も源氏物語をさらさらと読めないじゃないですか。その文化圏に入っても、時代の隔たりで分かり合えないこととかってあるじゃないですか、隠されていたり、言葉が違っていたり、記号が違っていたり。それでも、遺跡を見ながら、前後関係を少しずつ知りながら、「この人何考えてるんだろうな」というふうに、その間を考えています。研究者ではないんです、どっちかっていうと妄想家ですね。「この遺跡、どういう人なんだろう」とずっと考えてると、その過程で分かってくることや、なんとなくこうなんじゃないかなぁみたいなことがすごく面白いんです。

村上)妄想の結果、たまには一言、無口なお父さんはしゃべってくれたりしました?

吉川)何でこの建物こういう感じなんだろう、こういう雰囲気なんだろうということをずっと考えて、問いを持ちながら遺跡をうろうろしてると、ある瞬間に突然、もしかしてこんなことなのじゃないかな、みたいな瞬間が訪れる時があるんです。自分の頭では理解しきれない空気感とかです。あるいはヒンドゥーの遺跡なので、その神様について本を読んで、その神様はこうなのかなとか思いながら遺跡をうろうろしていると、その神様に関連する小さな彫刻が突然目に飛び込んでくるとか。「あ、ここにいらっしゃった!」みたいな「チラ見せ」をしてくれる瞬間があります。

今井)そういうお父さん的な存在が、街の中にずっといてくれるってすごい暮らしの中で安心させてくれる存在ですね。

村上)そうですね、その場でずっと変わらずにいてくれるいい「お父さん」は、実は僕らのそばにもいっぱいいるし、紛れて見えなくなっちゃったりしてる。
 きっとカンボジアに吉川さんが来て「あなたのうちのお父さん、すごい素敵なのよ」って言っているなかで、カンボジアの人たちが「うちのお父さん、素敵なんだぁ」って言いながらやってる風景が頭に浮かびました。

今井)それでは今回はこの辺で。吉川さんには次回もお付き合いいただきます。

吉川さんが「出会ってしまった」遺跡とは、カンボジア中部にあるサンボ―プレイクック遺跡といいます。 アンコールワットよりも古い、6世紀から8世紀にかけて建てられた遺跡で、2017年にカンボジアで3番目の世界文化遺産に登録されたそうです。吉川さんは、この遺跡を見つめ続けるとともに、長くこの地に暮らし続ける人々と深くかかわり、カンボジアの人たちの生き方に心を奪われ、ここを訪れる旅行者にその暮らしを紹介しています。人間の一生よりもはるかに長い遺跡と、そこに関わり生きてきた人たちのこれまでを想う吉川さんの視点が素敵だなと感じました。次回もお楽しみに。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真・Kimura Ayako)


次回のおしらせ

ラジオネイティブ #4 「当たり前の一瞬に、いかにお邪魔させてもらうか」
引き続き、カンボジア中部のサンボ―・プレイ・クック遺跡を中心に現地で旅行会社を運営してきた吉川舞さんにお話を聞きます。吉川さんが村で感じたのは、サンダルの裏から地球の核と繋がっているようなエネルギーでした。

The best is yet to be, お楽しみに!

すぐに聞く

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