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時間をかけて近づいていった飛生という地域

この土地との出会い


今井 北海道白老町で彫刻家として活動される国松希根太さんにお話を伺っています。
今活動されている白老の飛生という地区に、最初出合われたのはどういうきっかけだったんですか。

国松 元々「飛生小学校」という学校だった場所が1986年3月に閉校することになったんですけど、その時に跡地利用について白老町の方でどういう活用方法があるかっていうところで、数名の芸術家に開放して共同アトリエとして使ってはどうかっていう話があって、その時に僕の父も彫刻家なんですけども、僕の父を含めた数名の作家で1986年4月に、そこの場所を新たに「飛生アートコミュニティー」という名前で共同アトリエとして使い始めたっていうのがあって、その頃僕が小学校3年生だったんですけど、それまで暮らしていた札幌から家族で引っ越して、3年生と4年生の2年間、そこに暮らしてたっていうのがあって、なので僕にとってはその時が初めての出合いでした。

村上 何名かの作家さんたちがっておっしゃってましたけど、その方々っていうのは、飛生周辺の方なんですか。本土からとかも来たりとかなんですか

国松 札幌にいた絵描きの方たちと、あと僕の父も札幌にいたので、ほとんどが札幌の人だったんですけど。唯一うちの家族がそこに引っ越して住んで、他の方は札幌から週末ちょっと通って使う形でした。


村上 国松さんのお父さんはなぜ家族で行こうと思ったんでしょうね。話をいただいた時、どう思われたのかなと思うんですが。

国松 そうですね、ちゃんと理由を聞いたことはないんですけども。おそらく制作に没頭できる環境だったり、あと子育ての上でも、自然が多い場所で過ごすっていうことを1回してもいいと思ったんじゃないかなっていうのは思うんですけども。
 あと僕自身は札幌のいわゆる普通の小学校に通っていて、友達も結構いて、楽しい小学校の1,2年生を過ごしてたんですけど、そこから白老の環境に来た時に、通った小学校も少し都心から離れた森の中の小学校で、小中学校なので中学生もいたりとか、あとは体が不自由な方も一緒だったりとか、そこもすごく生徒数が少なかったので、給食になると全部の教室の壁がとっぱらわれて一つの空間になって、そこでみんなで給食を食べるみたいな環境だったので、札幌の小学校とは、もう全然違う場所に来て、同じ学年の男子も僕ともう1人しかいなくて、運動会も2人で走ってどっちが勝つかみたいな、そういう場所に行ったのは、最初は多分戸惑いもきっとあったとは思うんですけど、今になって考えるとすごくいろんな多様性ではないんですけど、いろんな人たちに触れることができた2年間だったのかなっていうふうに思います。

村上 子供にとってはかなり大きな環境の変化だったと思うんですけど、町の方はどんな反応だったんでしょうか?

国松 そうですね。それは廃校になった当時うちの家族が住み始めたっていう時が、やっぱり突然、札幌からある家族が自分たちが大事にしていた学校を使い始めるっていう形なので、やっぱりそこに違和感を思う人だったり、反発的なものっていうのは子供ながらに少し感じてた部分もあったり、まだそこの卒業生がその地域にいたりしていたので直接そういう子供たちからも何か言われたりとか、そういうのも少しはあった記憶はあります。

村上 なるほど。なんとなくそれが受けられていく過程にはどれぐらいの時間がかかったりとか、何かきっかけがあってなじんでいったのか、思い当たる何かありますか。

国松 そうですね、ちょっと僕の場合は小学校の時の2年間、そこに暮らしていて、その後また札幌での生活が続いて、その後大学を卒業した後に制作場を探していた時に、また飛生アートコミュニティーが家具作家の人が1人使うっていう形で続いていたので、そこに僕が2002年から加わることになったんですけど、そのあたりから実際に自分が住んで、町内の人がいてっていう生活が始まるんですけど、やっぱり最初は僕も積極的に町内の行事とかに参加したりしてたわけではなかったり、少し距離があった部分がありました。でも何年かした時に、何かこの飛生ってどういう場所なんだろうとかいろいろ気になり始めた時に、例えば何かゴミの清掃をしてる時とかに、ちょっと話を聞いてみようとか、ちょっと自分から近づき始めた部分があって、やっぱり自分が少し変わりだすと地域の人たちも見る目が少しずつ変わっていくっていうのがあって、それからなるべく行事には積極的に参加しようってなっていったり、自分が変わってきたっていうところもありますね。


地域との融合


今井 子供の頃にこの町に出合われたきっかけであったりとか、2002年に戻られたきっかけも、いずれも偶然といいますか積極的にそこを選んでいったわけではないというお話を伺いましたけれども、それでも今に至って関わり続けている。これまで長く続けてこられたのは、何か見え方とか感じられ方とかの変化があったんでしょうか?

国松 そうですね。やっぱり最初はそこのアトリエの使いやすさとか広さとかそういう利点で使っていたんですけども、それこそ周りの風景が気になり始めたり、土地の力みたいなことを、それは自分で感じてきたっていうよりも、そこを訪れてきた友達とか、そういう人たちが、気持ちを解放して帰っていったりとか、ちょくちょく感じる瞬間があって、そうしてる時にそこの小学校が白老町から借りている場所なので、何かしら地域に自分たちがやってることを還元しようっていうことで、僕の前の世代から定期的に公民館とかを使った展覧会を開いたりしてたんですけど、僕が加わった時も一度そういう公民館で展覧会をしたことがあったんですけど、ただちょっとその時の自分としては、自分の作品が公民館のロビーみたいなところで展示するっていうよりも、ギャラリーみたいなところで展示したいとかそういう思いがありました。そんな時に飛生を訪れる人が「いい場所だ」って言って帰っていくのを見て、「この場所で作品を見せた方がいいんじゃないか」って思ったんです。実は僕の前の世代でも展覧会ではないんですけどジャズのコンサートを1年に一度開いていた時期があって、その頃僕は小学生で、いまだに記憶にあるんですけど、普段は全然人が来ないような静かな場所なんですけど、その時に当時は150人ぐらいだったと思うんですけど、北海道のいろんなとこからお客さんが来て、音楽を楽しんでいくっていうのを覚えていて、何かこう自分の世代でもそういうことができないかなっていうのを思い始めて、2007年にアイヌの音楽をされているOKIさんというトンコリ奏者の方に来ていただいてイベントをやったのが初めて人を呼ぶことを自分たちがやったことでした。その辺りから土地だったり校舎だったりを生かしたことをやっていこうと意識が変わってきたところがあって、その辺が住み始めたり、昔思っていた印象と変わってきたのがあります。


村上 作品を作ったりとか、何かを感じる時のインスピレーションって、非日常から来ることが多かったりすると思うんですけど、そうすると、アトリエと住んでる場所が近いと日常の延長線になっちゃわないか、あるいはさっきギャラリーで展示をって考えてたのも何か自分としてはある種の非日常のステージとしてギャラリーがあったとしたら、公民館でこういうふうに置くっていうのは、それこそお客さんも含めて生活の中で待ってる人がお客さんになるわけで、生活の場と仕事の場と展示の場の境目がどんどんなくなっていくようなイメージでお話を伺っていたんですけど、どういうふうにバランスをとってこられたんでしょうか?

国松 飛生の場合は、仕事場というか、そのためにそこに住んでるっていうのがあるので、それが段々と日常になってきて、制作が中心にあって、ちょっと息抜きに散歩する時にふとインスピレーションを受けたりとかっていうことがあって、あんまり切り分けっていうのがないような生活だったのかなって思います。

村上 その節々でも、一瞬ドアの外を見上げれば「何だろうあの山は」とか思うものが必ず入ってくるということですかね、飛生という場所は。

国松 いやそういうこともなくて、そういう良い瞬間が来るのはきっと自分の心理状態にもよると思うので、ひらめきが全然ない時期もあります。ただやっぱり自然は厳しい部分も含めて付き合っていかなきゃ生きていけない場所なので、訪れる人はよく「いやー、癒やされる場所、いいね」とかってなるんですけど、自分は住み始めてから草に覆われるような恐ろしいような気持ちになったこともありますし、雪の降り方も驚異的に感じることもあったりします。やっぱり密接な分、そういう体験が作品にも表れてくるっていうのは何かあるような気はしています。

今井 国松さんの作品世界と国松さんの暮らしが、どんどん時代を経ることに近づいていって一緒になってきているのかなっていう印象を私はお話の中を通しては感じました。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 国松希根太、リョウイチ・カワジリ)

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次回のお知らせ

北海道白老町の飛生(とびう)という地区にある使われなくなった小学校をアトリエとして彫刻をつくり続ける国松希根太さんにお話を伺います。この土地との出会いや、そこから始まった地域との関係、作品が生まれる瞬間や使う素材の変化などについても聞きました。

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