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【読むラジオ】#013 大事なことは「電話」で決まる

今井)宇宙飛行士の管制をされている山村侑平さんにお話を伺っています。今回は山村さんが普段から関わっていらっしゃる「ネイティブの人」についてお話を伺いたいとおもいます。ネイティブというのは、ここでは「ベテラン」ということになると思うんですが、山村さんが感じるベテランの方々の魅力はどこだと思いますか?

山村)ベテランは、少し力が抜けていて、自然体になっていくんじゃないかなと思っています。前にもお話したと思うんですけど、管制のコミュニケーションにはボイスプロトコルというルール、マナーみたいなものがあるんですけど、それにあんまりこだわらなくなってくる。ルールの中で、なんかゆるいコミュニケーションになっていく、そんな感じがします。それでうまく円滑に仕事が進んでいく、そんな印象があります。

村上)多少なりとも無駄口みたいなのも出るということですか?

山村)そうです。コミュニケーションとしては無駄なのかもしれないけれども、なんかそれがふくまれてくる感じがしてきます。

村上)宇宙飛行士の現場の人達って、いろんな国から来てるじゃないですか。管制官も、日本の管制官もいれば他の国の管制官もいる。言葉も違うと思うのですが、無駄口とかも含めて、プロトコルの押さえるところとか、それぞれの国のベテランで違いはあるのですか?

山村)私の感覚では、そんなに他の国も違わないと思ってます。アメリカ人のベテランのフライトディレクターも、なにかいろいろしゃべってるなという印象があります。

村上)山村さんはどうですか?

山村)私はまだそのベテランの域じゃないかな(笑)。必要なことだけをしゃべろうとしてしまいます。

村上)しゃべる時は、基本的に英語ですか?日本人同士の宇宙飛行士であったとしても。

山村)管制官の場合は、宇宙飛行士と会話する時は英語なんですけど、地上間は日本語でコミュニケーションを取ってます。アメリカとかとの地上間のやりとりは英語ですけど。

村上)言語による違いについて、表現の幅も含めて、どう感じていますか?

山村)日本語って結構あいまいな表現です。よく言われるのは文脈が含まれてて、なかなか伝わりにくいような感じがします。英語の方がやっぱり直接的で、伝わりやすい部分があるので、コミュニケーションする上では英語の方がいいのかなと。また現場も英語の堪能な方が多いので、スムーズなのかなと思います。ですが、実際はなんかいろいろみんな無駄口を言ってるんです、ベテランの方は。そこは不思議だなと思いながら、その方がうまく伝わっていくんだなっていう印象はあります。

村上)これは僕の経験なんですけど、僕も模擬宇宙実験という宇宙飛行士みたいな生活を長くする時に、公用語が英語なんですよね。英語をしゃべっていると性格がすごく変わってくような気がしているんです。そもそもリスクとか人間の関係って言葉にできないものじゃないですか。だけどそれを言語化して備えて行かなきゃいけないときに、英語でしゃべっていると、確かにシンプルになってくんだけど、でもリスクってその言語化できないとこに潜んでる可能性がある。だから逆に言うと日本語でしゃべっていた方が目が効いてる気もする。でも英語でしゃべっているほうがちゃんと対処法も描けてる気がするし、一長一短みたいな感じもするんですけど、その辺どうでしょう。

山村) 確かに一長一短のところはあるのかなと思っています。実は我々のメンタルヘルスをやるところは、必ず母国語でやりなさいと、ルールとして決まっているんです。やっぱり感情を出すというところは、やはり自分の言葉で話すのが非常に大事なんです。一方で英語で話すことによってのメリットっていうのもきっとあるんだろうなと思っています。

今井)ずっと英語漬けの環境の中で、時々日本語で話せるっていうのは宇宙飛行士にとってもホッとする瞬間なんでしょうか?

山村)ちょっとした自分の気持ちの変化とか、そういったところに気づくためには、日本語で話すことで、そこにちょっとした気づきみたいなものがあるかもしれなくて、ひょっとしたら英語だと気づけないものが出てくるのかもしれないなと思います。

今井)ベテランの管制官は各国にいると思うんですけれども、山村さんがいちばん教わったことってどんなことでしょうか。

山村)気持ちで会話することを大事にしていることじゃないかなって思います。

村上)「気持ちで会話をする」というときに、やっぱりリモートを 前提に考えると、どうしてもその間にツールが入ってくると思います。それが音声であるのかビデオなのか、ツールの選び方には、なにかベテランならではのことはありますか。

山村)大事なときには、電話を使うんです。宇宙ステーションからも電話をかけることはできるんです。ふだんからボイスループを使って仕事をしてるんだけども、本当に何か困った時というのは、管制室に電話がかかってくるんです。

村上)電話をかけなくてもしゃべっているのに、わざわざ電話をかけてくるんですか?

山村)電話で会話をして、そこで何か問題解決ができたりとか、大事なことって電話で決まることが結構あるなと思います。これって地上と宇宙だけじゃなくて、多分地上間でも同じようなことがあるんじゃないかなと思います。

今井)ちょっと分からないのですが、ボイスループっていうのは1人対多数になるんですか?電話というのは閉ざされた会話ということですか?

山村)ボイスループというのはいろんな人が同時に聞けたり、いろんな人が同時に会話をしたり、基本的には多数対多数です。電話っていうとやっぱり一対一で、そこの大きな違いがあるのかなと思います。

村上)なるほど。いま伺っていてふと思ったのが、日本で公私というじゃないですか、パブリックとプライベートみたいな。 公と私。それにまつわることって閉鎖空間ですごく複雑に絡んでるような気がするんです。公私にも僕は2種類あると思っていて、パブリックとオフィシャル、個で言えばパーソナルとプライベートです。電話はどれに当たるんだろう。もちろん線引きできるものじゃないんだけど、もしかしたらプライベートなんだけどオフィシャルなのが電話なのかなって気がしました。

山村)村上さんはそう思う実際の経験があるんですか?

村上)僕は模擬宇宙閉鎖実験で隊長をやらせていただいたことがあるんですけど、今までの隊長は自分が前に出ていくタイプが多かったんですね。でも僕はそういうのを見ていて、何かエマージェンシーとか、大事なことがあったときに、普段からあれやこれや言っていると、大事な言葉と普段の言葉との線引きが難しいなと感じていたんです。
だから僕は普段はあまり出ないようにして、あまりしゃべらないようにしていたんです。そしてたまたまエマージェンシーに近いことが起きてしまった隊だったんですけど、そういった時にいきなり村上がメールを書き始めたぞ、ということがありました。するとリモートの先の管制の方も瞬時に反応してくれたんです。その感覚を思い返すと、その時に僕はオフィシャルなことを書き始めた。でも言葉としてはパーソナルな視点というものを持っていたような感覚あったんです。なのでちょっと強引かもしれないですけど、いろいろなツールの中で、ホットラインとか電話っていうのは、そういう意味があるのかなとふと思いました。

山村)そうですね。我々にはボイスループもあるし、設定されたビデオ会議もある中で、ジリリリンと電話が鳴るということは、そこに何かあるぞというひとつのシグナルにもなるんです。
本当に何か大事な時に、電話がかかってきて、そこでパーソナルとして話す。確かにあるなと私も思ってます。とくに健康管理で、医学的な何かとか、健康的な何かっていうような時は、お医者さん同士も電話でやり取りしているケースが多いと思います。

村上)逆にプライベートなことも電話でというケース、たとえば家族とかとは電話しないですか?

山村)家族との会話にも電話は結構多用すると思います。親しい人と長電話する、そんな感覚なんだと思います。そういう電話の使い方もあるかと思います。

村上)やっぱりそういう使い分けが自然にできてくるというのも、スイッチも含めて、ベテランなのかネイティブって言葉とだんだん近づいてくるような気がしました。改めてネイティブってどういう言葉なんだと思いますか。

山村)一言では難しいですけど、やはり全体で必要な時に、適切な切り替えが出来る、その見極めが出来ている人っていうのがネイティブなんじゃないかなって思います。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 山村侑平さん提供)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #014  「 宇宙で暮らしているという奇跡 」。山村さんとのお話もいよいよ最終回。誰もが宇宙に行ける宇宙旅行時代に、どんな管制が求められるのでしょうか。また、宇宙がどんどん身近になるなかで、人類が地球を飛び出し宇宙空間で暮らしを始めているということの意味を改めて考えさせてくれた先輩管制官の忘れられないひとことなど、山村さんの10年の経験から語っていただきます。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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