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【読むラジオ】#017 地域を愛し続ける人たちの源泉について


どう撮るかよりも、何を撮るかだ

今井)ラジオネイティブでは毎回、ネイティブな人たちを知る様々なゲストをお呼びして、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、極地建築家・村上祐資さんとともに、お話を伺っています。今回も、熊本で報道の最前線で取材をされている NHK の河村信さんにお越し頂きました。
 河村さんは特に潜水の撮影をされるということですが、潜水をされる時は各地の本物たちに密着して潜るということですが、どういう方に魅力を感じてアプローチするんですか?

河村)私の会社は転勤があるので、北は北海道から南は沖縄まで異動するのですが、その土地その土地にはすごい達人がいらっしゃいます。一番感じるのは、何十年も潜り続けて、その土地の水中の生態に関して、もう及びもつかない圧倒的な存在であるにも関わらず、皆さんが現在進行形で勉強し続けている。もっともっとそこに精通して、新たな世界を見出そうとしているんですね。映像の表現でも新しい表現を追求していらっしゃる。本当にすごい方々がいるなと思うんです。

村上)前回、いろんな技術とか、カメラなどの道具とか、あるいはテクノロジーによって、今まで手の届かなかったところにリーチできるようになっているという話も伺いました。
そうした道具や技術によってできた余白みたいな部分を、何に使うかがすごく試されるのかなと思うんですが、河村くんが思う達人の人たちは、どこのために時間を使うというか、どんなことのために勉強してるんでしょうか。

河村)我々は肺呼吸なので、いくら空気ボンベを背負っていても、いつまでもは潜れないわけです。時間が限られている中で生き物の営み、例えば産卵とか、厳しい環境をしっかりと瞬間をとらえ、そこに立ち会いたいと思うわけです。そのためには今まで知った気になっていても、もっともっと追求することによって、その一期一会のチャンスが実りのあるものになっていくと思うんです。私も20年少し潜っているんですけど、やっぱりまだまだ日々勉強だし、知れば知るほど楽しくなってくる訳です。全国各地にはそうした知りたい対象に対して、深く知ろうとする情熱がすごい方々がたくさんいらっしゃるんです。

村上)昔の海の中の映像とかを見ても、感動するものがあります。当時はそうした技術が少ない中でも、すごく感動するような映像ってやっぱりあると思うんです。それは先輩がたが、今なら技術でカバーできるものを、人間の力やセンスみたいな部分でカバーしてきたと思うし、それは逆に技術があったからといってかわるものではないと思うのですが、その辺はどうなんでしょうか 。

河村)カメラマンにとって一番大事なことっていうのは、どう撮るかも大事だと思うんですけど、何を撮るかだと思うんですよ。今自分が何に対してカメラを向けるかということが一番大事だなと思っています。そこは時代が変わっても変わらないものだと思うんでね。道具の引き出し、映像表現とかの引き出しはいくら増えても、何に対して自分が向き合うかというのは、今も昔も変わらない部分なんですよね。

村上)今も昔も変わらない所という点では、海の中は当然危険もあるわけだし、もっと先へ先へ撮りたい撮りたいと行きつけば、もうギリギリまで攻めるっていうことにもやっぱり対峙すると思うんです。ここのラインは超えないというようなことってあるんでしょうか。

河村) 潜水撮影でいえば、そこは1番勇気がいるところです。もうちょっと頑張れば、もっとクオリティーが高いものに出会えるかもしれないって思ったとしても、やっぱりほんの少しでもこれ以上ここにとどまること、あるいは深く行くことが、ひょっとしたらちょっとしたリスクにつながるかもしれない。潜水の場合で言うと、一人で潜るのではなくバディという仲間と一緒に潜るので、バディのことも考えて、本当はこれ以上行きたいけど、行ってはいけない所というか、その判断がものすごく大事になってきますね。

今井)河村さんは日本全国あるいは世界各地なのかもしれないですけれども、それぞれの地域を取材される時に、その地域を愛するネイティブの方々がいらっしゃる、そういう人たちに教えてもらうことを大切にされていると伺いましたが、その人たちを通して、その人たちからどういうことを伝えようとされているんでしょうか。

河村)熊本でいうと、2021年は熊本地震から5年の節目であったり、水俣病という公害病からの65年目の節目であったり、また去年熊本豪雨というすごく大きな災害がありましたがそれから1年であったり、いろんなの災害などを経験した場所だと感じるんですね。
ですが、例えば水俣であれば、水俣の海に1年に300日をはるかに超える日数、潜り続け、その海の魅力や生き物の営みを伝え、毎日新しいものを発見しようと模索を続けていらっしゃる方がいます。それはなぜかというと、この海の素晴らしさを知ってもらうことによって、この水俣という地元を元気づけたいという、強い思いがあるんです。そういう思いに触れさせてもらえるというところが、この仕事のやりがいでもあります。

豪雨災害の現場で知った、川への愛

村上)水俣を愛してる方や、あるいは災害の現場で言うと、愛していた場所が変わっていってしまうなかでも、でもそこに留まりたい人がいる。土地を愛する理由や、なぜそういうものが生まれてくるのでしょうか。日本じゅうの、いろんな方々を見てきたと思うんですけど、いかがですか?

河村)思いの源泉ですか…。たとえば去年の豪雨で氾濫した球磨川の取材をしていて一番印象的だったのは、十数メートル浸水して、その辺一帯が考えられないくらい水に浸かって、命を落とされた方もいらっしゃる中で、いろいろな方にお話を伺っても、驚いたことは川を悪く言う方が誰一人としていらっしゃらないんですね。やっぱり自分が生まれて存在することに対して、常にそばに川があって、川で遊んで、川に育てられたという気持ちがあるからですよね。そこにこう染み付いた思いだから、それでも川の横に家を建てるんだという方もいる。そういったものにつながっているんだろうなと思います。

村上)そんな中で河村くん自身が外から訪れて、これを伝えたいんだと思う、その思いコアみたいなものについて、改めてどんなものなんでしょうか。

河村)取材をさせていただく中で、深くお付き合いをして、完全にシンクロはできないかもしれないんですけど、現場を一緒に歩いてみて、同じ時間を共有させていただく中で、この土地に対する思いとはこういうことなのかなと、一瞬シンクロするような、思いを感じるような瞬間がやっぱりあるんです。それを少しでも自分の撮る映像だったり、自分が書く原稿だったりを通じて、ほんの少しでも感じてほしいという思いですね。

今井)メディアは情報を伝えるというだけではなく、長く付き合いを深めていく中で伝えられる事があるという点は、誰でも発信できる時代にあっても、誰にでもできることではないなと感じました。 

次回のおしらせ

村上さんと河村さんは2018年、アメリカ・ユタ州で行われた模擬火星閉鎖生活実験に参加しました。そこで気づかされた気づきや、報道の原点について、ラジオネイティブ #018  「思い通りにならない。そこでもがくのがこの仕事だった」で紹介します。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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