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林業を通して出会った「自然(じねん)」という言葉

信州・松本の森には、寒い冬に耐える赤松や唐松といった木が多く植えられてきました。その木を切って、運び出し、製材所に渡す「素材生産」の仕事を続けてきたのが株式会社柳沢林業。代表取締役の原薫さんに、信州の林業の仕事と、これからの未来について聞きました。

昔を知る山の職人との出会い

今井 そもそも林業に出会ったきっかけはどういうところだったんでしょうか。

原 私は大学の専攻は化学系だったのですが、生物系の人たちが受講する「樹木学」を3年生の時に興味があって受講させていただきました。なかでも私が一番興味を惹かれたのが民俗学的というか、日本には様々な木が生えてるんですけど昔の人たちがその木の特徴を捉えて、いろんな道具や器具を使い分けてたっていう話がすごく面白くて、樹木学の実習に連れていってもらったんです。それが後々林業をすることになる静岡県・大井川の一番上流の井川というところだったんです。
私は生まれも育ちも神奈川県の川崎市で、山登りって言うと高尾山とか箱根山なんですが、小学生の時に登っても全部おしろいと思わなくて、大嫌いだったんですが、そんな私が井川という所に行き、そこの演習林の技官さんと出会いがあって、その年の秋に聖岳っていう三千メートル級の山に登ったんです。それがもう自分の人生観を一つ変えたきっかけになったんです。

今井 どんな山登りになったんですか。

原 なんかね、すごく懐かしいというか、心地いいというか。ずっとここにいたいなって思ったんです。大学は4年生になって卒業したんですけど、環境問題に興味があったのと、子供が好きだったので小学校の先生の資格でもとって環境教育を学校の世界で取り組んで行こうかなと勉強を始めたんですけど、その時に『木を読む』という1冊の本と出合ったんです。今は木の製材を機械でやっちゃうんですけど、昔はそれを大きなのこぎりで人がギコギコと丸太から材木や板にしていたんです。中の様子を外から見る・読むっていう意味で「木を読む」って言われてたんですけど、その人の聞き書きの本が、当時の私には木の文化を継承してきている職人さんがいるんだということを知れたんです。それがなんとも奥深いし、今うちの会社の理念にも言葉として残してるんですけど「山と人」、「自然と人」や「自然と木」もそうなんですが、そういうものがお互いに生かし生かされているというか、自分たちが生かしていると思っているけれども、生かされているっていう、そういう自然との関わりっていうのがあったんだなって思ったんです。
だったらそれを自分自身も継承したい。しかもそこに語られてる人の姿がめちゃめちゃかっこよかったんです。私自身が職人になりたいと思ってしまって、木の世界に何とか入りたいと思いました。それで色々探して、最初はの木工の学校のお話を伺ったんですけど、そこに入るには2年間朝から晩まで修行しなきゃいけないので、2年間の生活費だけ稼いできなさいと言われたんです。そこで仕事をしなくてはと思った時に、最初に話した聖岳に連れてってくださった演習林の技官さんが、地元の森林組合に事務員だけど欠員が一人出たという話をしてくれ就職したのが林業との出会いでした。そこで出会った70代から80代くらいのじいちゃん達との暮らし、仕事がものすごく面白くて、結局はそのまま20年以上林業の世界に身を置くことになったっていう感じですね。

村上 その本の中に出てきた人は本当にいた、そこのおじいちゃん達に惚れ込んじゃったっていうことですね。

原 そうですね。また材木の職人と山の職人っていう違いはありましたが。一緒に仕事したじいちゃん達は、機械がない時代を知っている世代だったんです。ヨキ(斧)とのこぎりで木を倒してたとか、木材をトラックで運ぶんじゃなくて、いかだを組んで暴れ川の大井川を上流から河口の島田まで運んだという経験のある人なんですよ。そんな話を直接本人から聞けたっていうのは私にとって宝物以外、何者でもありませんでした。

村上 色々しゃべってくれるよりかは、多分長く接してきたんですね。

原 そうだと思います。その時には感じなかったかもしれないですけど、やっぱいいわゆる「背中で語る」というか、その人からにじみ出てくるようなものでした。
私達って、すごく頭でっかちで、わかった気になってるけども全然も薄っぺらいっていうか。私はそのころ一所懸命動いて、体もいっぱい汚れてるんですけど、でも全然仕事できてないわけです。ある時、ワイヤーをきつく絞めるために楔(くさび)を打たなきゃいけない場面で、楔を作れと言われ、いっぱい木っ端を渡されたんです。私は一生懸命、鉈(なた)で楔を作っておじいちゃんたちに渡すんですけど、「こんなの使えるか!」って全部上から落とされるんです。何がいけないのかも分からない、言われた通りにやったつもりなんだけど、何もわかっちゃいなかったんです。

村上 今は近づけました? 今はもう落とされないですか。

原 いやー、どうでしょう笑。職人の格好良さの一つとして、一つのことにずっと向き合う中で本質を見極めてく。そういうのがいいなって思ってたんですけど、私は唯一続いてるのが林業ではあるんですけど、職人として技を極めることができなかった。それは残念でもありながら、でもそこはきっと自分の役目ではないんだろうなっていうことで、今は経営とかそういうところに徹しています。 

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山に生かされているということ

今井 林業の様々な面を見て来られたんですね。これまで森に関わる様々な人と関わってこられたと思うんですけれども、これから山と共に生きる、森と共に生きる人は、どういう人たちが育っていってほしいと思われますか。

原 私は「ソマミチ」という一般社団法人を立ち上げました。東日本大震災があり、自然を人間がコントロールできるっていうのは思い上がりだ、それを見直して暮らしを変えなきゃいけないということを伝えたくて、人間基準で物事を考えるのではなく、出発点は山にあるということを伝えていこうとしています。曲がった木をまっすぐすることはできない。でも、せっかく成長してくれたその木を活かしていきましょう。山を基準として、それを最大限に活かすためにどんな町が必要なのか、どんな家づくりをしたらいいのかという発想にしてきましょうという理念があるわけなんんです。
 それを言い始めた直後に、「自然(じねん)」っていう言葉を知ったんです。そもそも自然(しぜん)というのは「ネイチャー」っていう英語を日本語に訳した時にあてられたって聞いたんですけど、それに対して自然(じねん)っていう言葉は、自然をコントロールする対象として見る欧米的なものではなくて、私たちは自分自身も自然の一部だったっていうような感覚がある。それが多分本来の日本人の自然観なんだろうなって思うんです。やっぱそれを取り戻して欲しいなって思っているんです。
  だから会社の人材育成もまずは現場に行って欲しいと思っているんです。それはすごい技術を身につけて欲しいということじゃないんです。体の感覚で自然を捉えてほしい。現場をまずは知ってほしいですね。今林業の枠を取っ払って森林全体を活かせるような仕事にしていく事業展開もしてるんですけど、まずは現場を知ってもらった上で製材がやりたいのか、木工がやりたいのか、あるいはキャンプ場の経営がしたいのか、そういうふうに人材を配置していきたいなって思います。まずは山を知ってほしいし、自然(じねん)という感覚をまずは身につけて欲しい。そういう人たちが広がってくと、きっと自然に接するように人とも接することができるんじゃないか。色んな人を受け入れることができるんじゃないか。ありのままの自然の中に身を置くことで、自分らしさって何だったっけ、自分はどうやって生きてきたいんだっけ、ということを思い出してくれたらいいなって思うんです。それは仕事であっても日常であってもです。自然の中で、山の中で、もっとみなさんに遊んで頂きたいんです。自然に触れるのがもっと当たり前な日常になってくれたらいいなって思います。

村上 遊びにしろ仕事にしろ、一人の人間ができることがこれぐらいの範囲だったとしても、その中には自然(じねん)っていうもっと大きな器があって、その中にいるんだよ、そういう感覚を育てたいし、そういう感覚を持ってる事を残して行きたいということでしょうか。

原 そうですね。一人はちっぽけかもしれないけど、色んなものと繋がっていて、実はできることは無限にあるんだよということも自然(じねん)ということかなと思います。

村上 僕らは「ネイティブ」という番組をやっていますが、ネイティブって一言で言うと原さんにとってどんな人ですか。

原 当たり前にそこに自然がある暮らしをしてるっていうことかな。今は頭で考えてる人が多いけど、当たり前に自然がそばにある人かなと思います。
(文・ネイティブ編集長今井尚)

次回のおしらせ

長野県松本市で、生産者さんと顔の見える関係を築きながら野菜を中心とした料理を出す小さな食堂「アルプスごはん」を立ち上げた金子健一にお話を聞きます。自らも野菜作りをする中で見えてきた、野菜作りと料理の関係。お客さんともコミュニケーションを楽しみながら農と暮らしをつなぐ役割も果たしています。お楽しみに!

The best is yet to be!

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