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【読むラジオ】#002 「未来は変えられない 変えられるのは過去だ」

ポッドキャスト「ラジオネイティブ」を始めました。2回目までは自己紹介を兼ねて、僕たちが考えていることを代表の極地建築家・村上祐資と話します。タイトルの言葉は極地の暮らしを考えてきた村上が極地で至った言葉の一つです。どんな意味なのでしょうか。ポッドキャストの内容をもとに加筆修正したテキスト版でどうぞ。

「未来は変えられない、僕らが本当に変えられるのは過去だ」

今井)NPO 法人フィールドアシスタントの今井尚です。ポッドキャスト 2回目となりましたけれども、1回目はレディオ・ネイティブの、「ネイティブ」という言葉について掘り下げてみました。
 今回は僕たちのNPO のホームページのトップにも書いてある、村上さんが極地で気づかれたという、ある言葉について掘り下げて考えていきたいと思います。

「未来は変えられない、僕らが本当に変えられるのは過去だ」

この言葉、ちょっとよく意味がわかりません。普通、「未来は変えられる」けど、過去って起きてしまったことだから変えられないんじゃないかな、と思うんですけれども、どういうところからこの言葉に行き着いたんでしょうか?

村上) 確かに今、今井さんが言ってくれたように、多分聞いてる皆さんも、「過去は変えられない」って思うのが普通です。でも僕は「過去」ってなんかすごく不安定っていうか、今の僕らの生き方次第で何とでもなっちゃうものだと思ってるんですよ。

今井)過去が変わるということですか?

村上)そうですね、「過去の意味づけが変わる」っていうほうが正しいかもしれません。
たとえば過去の栄光みたいなものも、今僕らがどう生きるか次第で変わってしまう。たとえば過去にすごい栄光を持ってる人が不祥事とかを起こしてしまうと、過去の栄光がすごく叩かれるべき要素になっちゃうかもしれない。あるいは過去に起きた悲しい出来事も、今それを糧にして「あれがあったんだから(乗りこえられるはずだ)」みたいに変えられることもある。起きた出来事は変えられないけど、その意味づけはすごく変えられるものだし、変わっていってしまういうことかなって思います。

今井)そうすると、「未来が変えられない」とはどういうことですか?

村上)未来というと、例えば選挙で「未来を託してください」とか、 CM で「未来を変えよう」など、すごくいい言葉としてあると思うんです。けれどもその言葉には「今行動を起こそう」っていう言葉とちょっとリンクがあると思うんです。「行動起こして、未来をこのままじゃなくて違うものにしよう」みたいなイメージです。
 行動を起こすというのは、今までじゃダメよって言ってることでもあるじゃないですか。今までの日常はこのままではだめだから、もっと奮起して、アクションしようというような言葉とリンクしてると思うんです。
 僕らが大事にしている「ネイティブ」っていう言葉からすると、過去に見習って続けていくものじゃダメなの? 変えなきゃいけないの? っていうところにもなってくる。そういう意味では、今をしっかり生きていれば、わざわざ非日常を強いリーダーシップの言葉で変えることではなく、そもそも、「このまま日常を続けていくっていうところに未来がついてくる」っていうイメージかなと思うんです。

今井)「未来は変えなくてもいいんだ」みたいな、そういうメッセージですか?

村上)まぁ、そもそも、変えなくてもいいっていうよりかは、(未来に)影響は及ぼせるんですけど、変えようと思ってもその通りになるわけじゃないじゃないですか。例えばコロナみたいな時もそうですけど、強い言葉があっても、いろんな考え方があるわけです。自粛や経済活動とか、僕らはいろんな人たちと一緒に生きてるわけだから、「よし信じてついて行こう」「分からないけど信じよう」っていう姿勢を持たなければ、皆が好き勝手な事やってたら結局効果薄れていっちゃう。
 メッセージっていうよりも、そのメッセージに対して僕らがどうやって行くかその姿勢の先に未来があるっていうことです。

今井)何となくわかったような、でも少しわかっていないような部分もあるので、後半には極地でこの言葉に出会われたということなので、具体的なお話を聞いていきたいと思います 。

未来って変える必要、本当にあるの?

「未来は変えられない、僕らが本当に変えられるのは過去だ」

今井)この言葉、村上さんが極地で考えるに至ったということなんですけども、具体的にこの極地って、どこだったんですか?

村上)どこか、というよりかは「極地にいる人」ですかね。いろんな極地で「この人たちの暮らしって、どうしてこう美しいっていうのかな」「無駄もなく、無理もなく続いていくのかな」といろいろ考えてみると、例えば先週はネパールの人の話をしましたが、あるいは僕が行っていた南極でも、どの人にも共通するところがあるんです。まあ色々あるっていうのが答えになっちゃうんですけど、僕は日本の南極観測隊員だったので、いろんな世界の人たちの話も聞く中で、日本の南極観測隊ってちょっと変わってる部分があるんです。

今井)どういうところですか?

村上)海外の観測隊だと、例えば3年とか5年とかで集中的な予算をつけて世界に勝つ観測をやるケースが多いんです。日本の南極観測隊の観測も、今でこそそういう外国と似たようなことをやりはじめてますけど、「50年、ただただ続けてます」みたいな観測を結構やってるんですよ。

今井)どんなことやってるんですか

村上)例えば、南極に向かう途中の、毎年同じポイントで海水をサンプリングして分析するんですけど、実際これ何のためにやってるのか、あんまりはっきりとわかんない。もちろん仮説はあるんですよ。ただそれよりも、「前の隊の人たちが続けてたから我々も続けるんだ」「この観測は来年、再来年と、次の人達も続けていくんだから、今僕らがタスキを繋げないとそこで途切れちゃう、仮に続いたとしてもそこに穴を開けちゃう」という部分に、すごく誇りを感じてやってるところがすごくあるんです。
今井さんは、西洋と、日本のどっちがいい?というか効率的?と思います?

今井)なんとなく、日本的なものを感じますね。「しきたり」じゃないですけども、お祭りなんか昔からこの地域でやっていたから、どういう意味があるのかもはや分からなくなっていても、こういうもんだからといって続いてるものって、日本に多いような気がします。

村上)確かにそうですよね。子供の頃は、ただただ楽しいとか、みんながやってるからっていうのがあるけども、大人になってみると、続いていたことが嬉しいし、続いていたから今こういう気持ちになれる、未来になってみて初めて過去がこういうことだったのかと思ってくる。
 確かにね、日本にすごく多いような気もするし、そういう感覚に南極観測隊もすごく近いのかなって思うんですよね。
 南極観測隊でいうと、オゾンホールの世界的な発見があったんですが、それもやっぱり続けてきたものからわかったんです。ずっと空の観測をしてきて、1年、2年じゃ「穴」って認識できないんですね。1年、2年では、ゆらぎぐらいなものでも、何十年も続けてくると、これは穴なんだとわかってくる。自然科学の研究は地球を相手にしてるわけです。3か年、5か年の研究で分かる事って、限られます。50年、60年でも短いぐらいなんですけど、オゾンホールも続けてきた土台がちゃんとなければ、穴だとはわからなかった。
 チームプレーってよく言いますけど、発見したのはその隊かもしれないけど、過去の人達を含めたチームプレイができるということに、僕はすごく感動したんです。

今井)そこにいる人だけじゃなく、同じ所で同じことをしてきた人たちと、一緒に未来に歩んで行く、みたいな感覚なんですかね。

村上)そうですね。昔の人も同じ苦労をしたのかなと、自分たちも思うことができる。
  ちょっとこれ余談ですけど、南極観測隊の観測の機械って、最先端のイメージを持つかもしれないですが、もう何十年も使っている古い機械も使われています。換えてしまうと過去の人たちとのつながりがなくなっちゃう。もしかしたら今の機械の方がすごく精度は高くできるかもしれない。でもそれよりも「信頼を取る」っていう考え方があります。
 今南極でやってる観測って、きっとこれから50年先も続いている。50年後の隊員の人たちから見たとき、50年前の僕らの世代の隊員が途切れさせないでやってくれていたから今があるんだなって思ってくれるはずだっていう感覚は、何かすごく「ネイティブ」だなっていう風に思いますね。

今井)そういう風に考えると、あたりまえの日常も、すごく意味のあることの繰り返しなんだなと思いますね。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)

(写真・村上祐資)

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ラジオネイティブ #2「未来は変えられない 変えられるのは過去だ」 は こちら から聞けます。

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次回のおしらせ

ラジオネイティブ #3
3回目からはゲストをお呼びして、それぞれの「ネイティブ」についてお話を伺っていこうと思います。最初にお招きするのはカンボジア中部のサンボ―・プレイ・クック遺跡を中心に現地で旅行会社を運営してきた吉川舞さん。遺跡とカンボジアの人たちとの出会いや、旅を通して何を伝えてきたのか、カンボジアの人たちを通じて感じてきたネイティブの知恵とは何か、詳しくお聞きしたいと思います。

The best is yet to be, お楽しみに!


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