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【読むラジオ】#021 引き継いだ、小笠原を守る熱量

再拡大した野猫

今井)今回は小笠原の「ネイティブ」の人たちについてお話を伺いたいと思います。貴重なアカガシラカラスバトを守るために小笠原の人達がとった道というのは、鳥だけでなく、原因であった野猫も守る道だったということです。この辺りから伺っていきたいと思います。

有川)今小笠原で外来種として一番脅威なのは野猫です。それは鳥や昆虫などを襲うからです。島からとにかく排除しなくてはということになったのですが、島の中から「猫を守って」とい声が上がって今の動きがあるわけでは実はありません。当時はとにかく本当に危機的状況でした。アカガシラカラスバトの数は40羽。小学校一クラス分の数しかいない鳥を守るためには、殺処分もしょうがないんじゃないかと考えていたNPO小笠原自然文化研究所の人たちはその相談のために東京都獣医師会のお医者さんに電話をしたんです。殺処分の方法を教えてくださいと言ったところ、「猫も鳥も同じ命で、自分達は猫とか犬を守るために活動してるので、猫を殺す方法なんて教えられません。だったらこっちに送ってください」と言われたところから、小笠原で野猫を捕獲して、東京都獣医師会に送って、受け取ったクリニックで人間に慣れる訓練をして里子に出す、という流れが生まれたんです。
本当に偶然でした。でもやってみたら一番誰もがハッピーになる方法だったんです。

村上)不思議だなって前回も言いましたが、一刻の猶予もない状況では、合理的に目的に向かってやっていかないといけないわけです。バックキャストというか、目標から考えて今何をするべきかを逆算する考え方があると思うんですけど、でも伺っていると、そういう逆算ではなく、一個一個の石を積み上げていって最終的に積み上がった石が保護に繋がっていくという。しかもその石の積み上げも、なんか「偶然いた」とか「偶然その人がそういうこと言ってくれた」とか、そんな連続にどうしても僕は聞こえてしまってそこがすごく不思議だなと思います。バックキャストの方が目標が可視化されているので、安心できるじゃないですか。でもそうじゃないとなると、皆さんの中に、もがいてももがいても、進んでいるのか、後退しているのか実感の持てない不安みたいなものがあったんじゃないかなと思うんです。

有川)アカガシラカラスバトの活動については、1回目でも言いましたが、実はすごく昔から知られる問題でした。世界遺産への登録とも関係して、予算がついたことで、ようやく野猫を捕獲するチームが組めるようになったっていう経緯があるんです。
最初は野猫がたくさん捕獲され、どんどん東京に送り、わずか1年半ぐらいで、アカガシラカラスバトの若鳥が里に出現し、こんなに早く結果が出るのかと驚かれるくらい増えたんです。そこまでは超順調だったんです。
 一時は、あともう野猫は3,4頭しかいないんじゃないかというところまできました。ところが、ここが自然相手の一番の大変なところなんですけど、山の中で突然猫が増え始めたんです。いろんな背景があるのですが、野猫はなわばりを持つので、山の中に野猫がたくさんいると、なわばりが重なりあって、そこには当然戦いがあって、たくさんの野猫がそこに住めないわけです。でも数が減ると間が空くので、すごく広いなわばりをもち、いい状況が保てるようになったんです。餌となるネズミをとる競争相手も少なくなり、栄養状態も良くなった。だから赤ちゃんもたくさん産めるという感じで、猫が増えていったんです。なので、今も野猫と人間の戦いは続いているんです。

村上)その時に気持ちが折れちゃったりはしないんでしょうか?

有川)猫事業は今、環境省の事業で、NPOは委託を受けて進めています。彼らは色々な自然保護に関わっていますけど、とにかく自分たちの目の前で何かが消えていくのはもうたまらないからやらなければいけない、という気持ちです。村上さんが1回目でおっしゃってた「見てしまったんだから仕方がない」という言葉ですが、あれは「見ちゃったんだからやろう!」という前向きな言葉ではなく、「知ってしまった以上、見て見ぬふりはできないからやろうよ」っていう自分への励ましの言葉でもあるんです。
それを持続し続けているエネルギーって何なんだろうって、私も未だに取材続けて今でも思っています。

築き上げた人間関係の中で

今井)野生動物の保護というのは非常に難しい問題なのですね。有川さんがそのなかから学んだことはどういうところにありますか。

有川)そうですね。 NPO の人たちの情熱の大元は何か、なぜここまで気持ちが折れないでやっているんだろうということを学びたいと思って、ずっと取材してるんですけど、今まだ学びの最中なんです。
例えば、小笠原を通過する台風は半端なく大きいことが多いので、農家さんが大事に育ててきた果実とかが一気になくなってしまうことがあるんです。
そういう時に、NPOの彼らは農家さんと一緒に、散らばってしまったものを片付けたり、もう1度果実を守るためのネットを張ったりする仕事をやっているんです。それはなぜかというと、小笠原ではアカガシラカラスバトのほかにもオガサワラオオコウモリという天然記念物で希少種のオオコウモリがいるんですけど、それが農家さんの果実のところに来ちゃうことがあるんです。そこでオオコウモリが絡まらないようなネットをつけさせてくれと普段から働きかけているんです。でも農家さんにとっては大変な作業なので「僕らが張りますから、やらせてください」といった交渉を常にしてるんです。だから、普段からそういった話をしている農家さんが大変な目にあったときには、こういう時に助けなきゃっていう気持ちでいるわけです。そういう関係はアカガシラカラスバトの方の行動とも繋がっているわけです。でも、どうしてそこまでできるのか。それは、いまだに取材中ですね。

村上)有川さんの話で、小笠原の島には折れちゃうような困り事があっても、「ネットを張るよ」「足りない衣装を貸すよ」「猫を何とかしよう」などと、物事が動き出す瞬間が島の中に本当にたくさんありました。それがなんでなんだろうって思ってたんですけど、なんかどうも「決めつけてない」っていうのと「構えすぎてない」っていうところと「でも心構えはしてる」って言うバランスの中で「何かが起きたら体が動いてから考える」みたいな「体で考えている感じ」がすごくするんです。ちょっとあまりにも言葉になってないですけど。

有川)その辺は、根底には何かすごい信念があるように思っています。以前、その NPO の3人のうちの一人に「なぜそこまでし続けられるのか」ってストレートに聞いたことがありました。その人は元々、東京都の職員だった人で、小笠原支庁に希望して赴任してきた人です。その当時、その支庁の先輩にミカンコミバエという、今、奄美とか九州の方まで来てしまったと問題になっている虫ですが、柑橘類とかに入って出荷できないようにしてしまう虫がいて、その根絶に昼夜を問わず取り組んだ人がいました。そういう人たちのやってる姿を見て、学んだから、自分ができるんだったらやらなきゃっていうのがあるみたいなんです。

村上)前に船がドックに入っちゃう時に備蓄するって話をされてたじゃないですか。でも、行動に関しては備蓄してない、出し惜しみをしていない感じがしますね。

有川)野猫の活動は、再々話をしている NPO だけじゃなくて、東京都や林野庁とかいろんな組織や団体や人が絡んでいるので共同作業でもあるんですけど、あのNPOの人たちについて言えばそういう「備蓄」をしているのは見たことがないですね。ただあまりに突出しているので、同じ熱の持ち方でやれる人がこの先いるのか、続いていけるのかな、次世代継承とか大丈夫なのかなって心配になるぐらいな感じです。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・有川美紀子)

次回のおしらせ

次回も貴重なアカガシラカラスバトの保全について長年取材を続けてきたライターの有川美紀子さんにご登場いただきます。ラジオネイティブ #022 「変わりゆく小笠原に通い続けて」をお楽しみに!

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

すぐに聞く

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