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目標を失って見つけた山という世界

4回にわたって、ネパールでニレカアドベンチャーズというガイド会社をされている代表のサティス・マン・パティさんにお話を伺ってきました。今回で最終回です。

これが私の次の仕事かもしれない

サティスさん、2回目だったと思うんですけれども、サティスさんご自身はネワール族という民族で、おもにネワール族は商売をする民族だとうかがいました。ネパールでは各民族ごとに決まった職業があるのでしょうか?

サティス いろんな族があって、その族の仕事があるんですよ。例えば、ネワール族は商売。グルン族だったら農業とグルカ兵っていう、昔のイギリスの傭兵の仕事をする人がいます。そういうように、いろんな民族に、自分の仕事があるんですよ。
その中でうちは首都カトマンズの人々でした。ネワール族は首都です。インドから来た人たちが物を持ってきたり、チベットからも物を持ってきて商売する人がいます。あとネワール族というとカトマンズから、いろんな田舎に移動しながら商売しながら歩いたんです。だからネワール族は商売人って言われてます。

村上 小さい頃からサーティスも自分はネワール族だから、いつか商売人になるのかなって思ってたんですか?

サティス そうではないです。昔、学校で友達たちが結構いたんですけれども、イギリスのゴルカ兵に入った友達や、軍隊に入った友達がいました。そのとき私も軍に入りたいなという気持ちがあり、軍に入るためにいろんなことをやってたんですけど、なかなか私のネワール族の心とか頭とかはあまり強くない感じがあって、できなかったんです。
次はどうしたらいいかなって、がっくりしたんですけども、そばに小さな山があったんです。その頂上に立った時、周りに白い山がバーって見えて、その時、登山者も登山のスタッフたちもみんな喜びながら歩いていたんです。
それを見て、もしかしてこれ次の私の仕事じゃないかなと思って、私は登山の仕事を始めたんです。
まず登山学校に入って、登山の免許をとりました。でも卒業したとき、免許はあるんですけれども経験がないから、あまり仕事をいただけなかったんですね。知り合いと一緒に歩いたりとか、荷物を運ぶポーターをやったりとか、そういう仕事もしました。ただ私は学校に行ってたから英語ができていたので、少し別な人からすこしずつ仕事をもらって、ゆっくり自分でステップをあげながら、36年、今もこの仕事をやってるんです。ここまできたんですね。

村上 登山学校という言葉が出てきたんですけど、サティスはまず、登山学校に入ってライセンスを取って、その後に経験を積んできたんですけどそれは普通なんですか。逆に先にポーターさんなどで経験を積んで、その後登山学校に行くのですか。そもそも登山学校って、誰しもが入るものなのですか。

サティス 先に(山の)経験する人が多かったです。昔は登山の仕事をする人ってあんまり学校に行っていなかったんですね。私はちょっと勉強ができたので、いろいろ調べて、テストを受けたんです。経験前に勉強して、その後に本当のフィールドに出ていったんです。

村上 それは珍しいんですね。

サティス 本当に珍しいですね。みんないろんな経験して登山学校に入るんですけど、私は経験がないので、下からポーターの仕事をしながら、いろんなことを勉強しながら、歩いて経験と仕事をしてきたんです。

村上 そもそもネワール族から山をなりわいにする人は出ないし ましてや学校にいきなり行って登山を始める人もいない。だいぶその他の同級生とか一緒に勉強してた人たちと比べたら、全然サティスは違う感じだったわけですよね。

サティス すごい違う感じだったんです。ネワール族にこの仕事はできないって言われて、なかなか仕事を見つけられなかったんです。私も本当を言えば最初のころ、テントやマットというものもわからなかったんです。4000とか4600メートルのところで雪が降ってるんですけれども、私は寝袋も何もなかったので、テントのカバーとかいろんなカバーを持ってきて、その中に入って寝袋みたいにして、雪の上に寝たりとかして、次の日の朝起きたら、体が動かないんですね、寒くて。まあ好きだから、無理しながら仕事をやってきたんです。
でも、大変でも大変でも、キャンプに着いたらみんなで焚き火して、皆でわいわいする。人間の繋がりっていうのは、お互いの心を混ぜて、一緒にいられる、一緒に行く。それが、いくら疲れても体を回復させてくれる。それがすごく私は大好きなので、今までこうやってきました。


「ニレカは家族」スタッフもお客さんも、つなげていきたい

今井 山そのものの美しさだけでなく、人や心の繋がりっていうのが山の魅力だっていうすごく素敵なエピソードですね。僕たちはネイティブという名前でこの番組をずっと続けているんですけれども、36年にわたってガイドの仕事をされてきたという話を伺って、この仕事を長くここまで続けてくるにはどういうことが必要だったと考えますか。

サティス 一番は「仕事に慣れる」ことです。なんていうか、ペイシェント(忍耐力)です。この仕事は本当に忍耐力がなかったらできません。忍耐力からすごく次に繋げて、今までできたかなと思いますね。

村上 この数年、コロナで山に登れなかったとか、外から人が来なかったりとか、いろいろ考えることもあったのかなって思うんですけど、そのあたりはどうですか。

サティス そうですね私は2020年に日本のお客さんを連れて、タンザニアのキリマンジャロに登って、もどってきたときにコロナが始まったんです。ロックダウンが始まって、すごく大変でした。自分的には、コロナがここまで長く続くって思わなかったです。ネパールのロックダウンはすごく厳しいかったんです、外に出られないし、朝だけに時間決まってるとか、運動できないし。結構ストレスがすごいたまってたんです。
でもいつか変わってくるのかなあと思いながら、自分は山に逃げて、新しい登山ルートを探しながら歩いたりとか、復活したら皆さんにいいところ案内して喜んでもらえるかなと思って、そうやって生活してたんです。
うちは日本のお客さんが多いです。日本のお客さんってなかなか時間が来れないことがあって、去年から欧米人のお客さんがすごい入ってきたんです。イギリスとか、もう向こうはもう出入りが簡単なので。今年6月に日本も、ちょっと緩くなった瞬間で、私も2週間、日本に飛び出して日本のお客さんとかにいろいろ会って帰ってきたんですけど、この2年半はすごく長く感じました。
うちのお客様も、けっこうみんな年配になってるから、ニレカもスケジュールとかプログラムとか少し変えていかないと大変かなって思い、今ちょっと考え中です。今年から始めようかなと今、動いてるんですけれども、どうなるかちょっとまだわからないですね。

村上 日本もいろいろ大変だったけど、サティスが「今日はすごく山が綺麗に見えるよ」「すごく山がクリアに見えてこんなの今までなかった」って写真を送ってくれたのをすごくよく覚えています。

サティス ネパールの首都カトマンズのロックダウンはすごく厳しかったんです。誰も外へ行けないし、車も走れないし、本当に排ガスとか埃とかが少なかったんです。それでカトマンズからも山がすごく綺麗に見えてきたんです。
排気ガスとかなかったので、本当にすごい綺麗だった。

村上 これからもしかしたら良くも悪くも元に戻っていくのかもしれないけれども、いま山に恋焦がれて、多分サティスもそうだし、サティスのスタッフもみんなお客さんがたくさん訪れるのを多分ワクワクしてるときに、綺麗な山に登れるってのはすごくこの秋は、何か新しいシーズンになりそうですかね。

サティス そうですね。一応今のところ、何もなければ新しい秋、このコロナで、ゼロと言わないけどまた最初からスタートしなきゃいけないので、ちょっとワクワクしています。お客さんに来てくれるようにお願いしてるし、今日からニレカとしてスタッフたちの勉強を始めてるところです。

村上 2年ちょっとの間が空いちゃったら、やっぱりトレーニングから始めるのはサティスが一番大事なことと思ってるところですか。

サティス そうですね、もう2年半、全然仕事をしてないから、忘れることもたくさんあるし、スタッフたちもお互い、私もみんなもあまり会ってないから、また心を一つにして頑張ろうという気持ちでやりたいので、お互いに顔を見ながら始めました。

村上 あらためてサティスにとってスタッフとニレカアドベンチャーズという会社はどんな存在ですか。

サティス うちは最初にスタートしたときは2人3人でやってきたんですね。この会社はもう12年、13年経ちますけど、みんなで会社を引っ張ってきて、会社を結構大きくしたんです。だからこのままやっていきたいなっていう気持ちです。私は「ニレカは家族」っていう気持ちです。お客さんも来ますが、家族として連れて行ってるので、それをずっと繋げていきたいです。それが私の存在かなという思いを持ってます。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 サティス・マン・パティ)

次回のお知らせ


ネパールについて詳しく掘り下げてきたラジオ・ネイティブ。次回から2回は、フィールドアシスタント代表で極地建築家の村上祐資が見てきたネパールについてお話しします。出会った村や建築から、ネパールの人たちの暮らし方や姿勢が見て取れます。
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