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【読むラジオ】#015 もう一度見たい、あの風景を求めて

追い続ける熊本豪雨

今井)この番組は「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びして、「暮らしをつなぎ続けるためのヒント」について極地建築家・村上祐資さんとともにお話を伺っています。15回目となる今回、新たなゲストをお招きします。村上さんからご紹介お願いできますか。

村上)はい、今回は熊本から登場していただきます。NHKの報道の最前線で撮影しつつ、ドキュメンタリーや、潜水の映像を専門に撮り続けている河村信(まこと)さんです。この世界というのはカメラを持って、目の前で色んな事が起きるなかで、想定内のことも多いと思うんですけど、想定外のことも起きる。それでもカメラを下ろさずに、撮り続ける。現実から目をそらさないことを長年、現場で続けてこられた方だと思うので、今日はそんな話が聞けたらなと思っています。

河村)よろしくお願いします。 2002年にNHK に入って、鳥取、広島、福岡、北海道、東京と移り、今は熊本にいます。よろしくお願いします。

今井)いま村上さんの方から「目をそらさない」という言葉がありましたけれども、今、河村さんが目をそらすことができないことって、どんなことなんでしょうか?

河村)報道の現場が中心となっていますが、それ以外にも、番組とか、専門の潜水だったりとかそういったことをやってるんですけど、今いる熊本には去年の夏から来てるんですけど、赴任の1か月前にあったのが熊本豪雨です。球磨川という川が氾濫して、想像を絶する被害が出ました。当時は東京にいたんですけど発生の2日後から現場に入って、そこからずっと取材を続けています。東京には本当に荷物をまとめるためだけに1回帰っただけです。

村上)今、「荷物をまとめる」という言葉もありましたけど、当然、災害は突然起こるので「今日、自分が数時間後に災害の現場に立っている」ということは当初は想像していなかったわけじゃないですか。災害が起きたら瞬間的に、いろんな段取りとか、いろいろなことを考えることをこの20年間、いろんな経験をされているんだと思うんですけど、どんな感じですか?

河村)日常の中で何かが起きたらどうしよう、みたいなことはなんとなく染み付いてしまっている部分があります。例えば何かあった時に最低限の荷物をまとめて、すぐにそこに行けるような準備を会社にしてますし、家にもすぐに出られるような準備をしています。

村上)今この瞬間も頭の片隅には、ちょっとそういうものが常にあるって言うことですか?

河村)最近はツールが発達したので、スマホがあればすぐ撮れますけど、ここまでスマホが高画質になる前は小さなタイプのカメラをどんなときもカバンに忍ばせて、何かあった時に撮れるようにしていたり、映像を放送につなげるためのパソコンだったりとか、バッテリーとか、何かあったらどうしようっていうことばかり考えていたので、やたら荷物が大きかったですね。

今井)物の準備は少し想像できるかなとも思うんですけれども、気持ちの準備については、どういうことを考えてらっしゃるんですか?

河村)災害はいま、我々が子供の頃であれば教科書で知るようなことが、本当に起きるようになってしまっています。九州の場合、とくに熊本では線状降水帯というものが毎年のようにどこかで発達するようになってきてしまっているので、それは「語り継ぐ」とか「伝え続ける」というよりも、今まさにすぐそこに来ているわけです。そういう意味で、気持ちの面っていうことだと、10年、20年前に比べると、かなり「臨戦態勢」というかですね、いつも災害に対するアンテナを張り巡らせているようになってしまっている気がします。

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報じなければ知られないこと

今井)取材をする対象の人々に対しては、どういうことを考えて普段、取材をされているのですか?

河村)取材をする中で心がけてるというか、変わらずやってることは、自分がその場所に行かなければ知られることができなかったことを伝える。そこに対するこだわりは、今でも持っています。豪雨の報道についていえば、もう忘れ去られようとしているのに、豪雨のあった日からまだ一向に進んでいなくて、そのままの現場が残っていることがあります。また、その暮らしだったり、自分がそこに行って、映像を撮って、原稿を書かなければ、そのまま風化していってしまうのではないかとおもうところには、こだわりを持ってやっていますね。

村上)現場の空気感を大事にしていると聞いてふと思ったのが、河村くんがその現場に訪れられるのは災害であれば「事後」じゃないですか。起きた後にいろんな人の話を聞くというのは、もしかしたらいま河村くんが見ている事後の姿と、元には巻き戻せない事前の姿を、なんとかその現場の人の話を聞いてシンクロすることによって、過去のものを見たいということではないかと思うんです。
やっぱり河村くんはカメラマンだから、言葉というよりも、その先に常にビジュアル(風景)みたいなものがある気がしていて、言葉を通して、なんとかこうなる前の風景をもう1回見たいっていうふうにも聞こえたんですけど、どうですか?

河村)そうですね。現場に行く時にはいつも、もう変わり果てたあとで、起きてしまったところからスタートします。切迫してる事がほとんどなので、その前の状態でどうだったのかとかそういったことを知ってもらいたいっていうのは思うんですけど、その表現ってものすごく大変です。本当に息の長い取材をする中で、それが可能になってきます。その都市がどういう都市なのか、そういったものを知ることによって、少しずつわかってきたところから、時計の針をもどすような取材が可能になってくる。どれだけ深くその土地を知って、人の気持ちに寄り添うことができるかによって、何か少しずつ見えてくるような部分ですよね。

今井)知られることがなかった声とか、 またそこから伝わってくることを伝えてくれる人がいるからこそ私たちは知ることができるわけで、それってすごく大きな責任のある仕事なんだなと感じました。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 河村信さん提供)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #016  「 私しか伝えられない「リアル」 」。
スマホが進化し、SNSが拡大し、だれもが発信できる時代にメディアは何を伝えるべきか、伝えるべき真実とは何か、考察します。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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