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今も昔も、新しい文化の入り口。横浜・象の鼻テラスの挑戦

暮らしをつなぎ続けるヒントを考えるポッドキャスト「ラジオネイティブ」を、テキスト版でお伝えします。今回から横浜の象の鼻テラスで、アートをつかったまちづくりをされる大越晴子さんに伺います。

開港150年でできたアートに出会う空間

村上 今回は横浜からご登場いただきます。横浜のみなとみらいという地区に、「象の鼻テラス」という公園の中の雰囲気の良いテラスがあるんですけれども、そこの運営スタッフをされている大越晴子さんです。前回まで熊本県益城町の桑原孝太さんにまちづくりをキーワードに聞きましたが、今回はまた違った角度からのまちづくりです。特にアートという仕掛けを使ったまちづくり。ハードだけでなく、ソフトの部分も含めて、人と人とをパブリックスペースでつないでいらっしゃる方です。どうぞ宜しくお願いします。

大越 よろしくお願いします。大越晴子と申します。

今井 まずは大越さん、「象の鼻テラス」とは、どういう所なんでしょうか。

大越  象の鼻テラスは開館したのがの2009年なんですけれども、その年は横浜開港150周年でした。ここのエリアはペリーが来航して貿易が始まった、国が鎖国を開いたっていう歴史的な場所なんです。それで50周年記念事業とか100周年記念事業で、いくつか横浜市内にはシンボルになるタワーが立っているんですけども、150周年の記念の時には市民のための広場を作ろうということで、この「象の鼻パーク」が整備され、その中に「象の鼻テラス」という無料休憩施設が建てられました。単なる無料休憩施設ではなく、横浜市が推進している都市ビジョンがあって「クリエイティブシティ・ヨコハマ」っていうんですけど、それを実現するためのスペースとして運営をこれまでもしてきた場所になります。

村上 150年前ということですけど、そのあたりの街に残っている息づかいみたいなものが、今のこの象の鼻テラスのコンセプトの中にどこかしら混じっていたりするんでしょうか。

大越  そうですねこの「象の鼻テラス」っていう名前がすごく不思議な名前だとよく言われます。これは船が行き来するようになって、堤防がどんどん整備されていくんですけども、形が平行の突端のものだったのが、どんどん曲がって、それが象の鼻のような形だっていうところに名前の由来があります。

村上 今はもう船着場ではないですか。今でもその象の鼻は使ってるんですか。

大越 2009年に市民のための広場にする前までは、港の機能としての倉庫が建っていて、人が来れない立ち入り禁止のエリアだったんですけども、2009年にそこを市民のために開放しようと整備されたのが、今の芝生があって海を眺められる場所です。ポンツーン(浮き桟橋)も隣接していて、そこから観光クルーズなんかが出るような公園(厳密には港湾緑地と呼ばれる場所なんですが)になったんです。

村上 市民の皆さんはいろんな楽しみ方をしてるんだろうなと思うんですけど、どんな人が多いんですか、訪れる人たちは。

大越 本当に多様な方が訪れて下さって、コロナの前は横浜港大さん橋国際客船ターミナルが近くにあるので海外からのお客さんが降り立つんですね。なので国籍も豊かにいろんな海外の方が旅行に訪れるところです。私たちはアートスペースを兼ね備えているんだけども、基本的な機能は無料休憩施設です。大さん橋と、反対側には赤レンガ倉庫もあったりしていろんな施設が立っているんですけども、その間にあるものですから、展示を目的に来る人というよりは、休憩に立ち寄る方が多くて。ただ、だんだん増えてきたなと思うのが、日常的にここを使ってくださる方が多くなっています。ランニングしている方も多いですし、犬の散歩をして毎朝そこで交流しているような姿も結構あったりします。
よく最初、我々が社内で言っていたのは、タクシーの運転手さんに象の鼻パークまでって言っても全然伝わらなかったのが、ようやく象の鼻パークだけでも連れて行ってくれるようになったねって、認知してくれるようになったねと話していました。

アートを使ったまちづくり

今井 この場所を使って、どうやってアートを使ってまちづくりにつながっているんでしょうか。

大越 先ほど話をしていた、横浜市が推進する文化芸術で街の魅力をを作ろうという方針があって、それを体現する場所の拠点の一つとして象の鼻テラスもありまして、ここの場所から文化が始まって新しいカルチャーが入ってきたっていう歴史的な背景も踏まえて、文化交易っていうコンセプトを掲げています。人と人が出会ってどんどん新しいものが生まれていったように、人とアートが出会って、いろんな新しいものに出会ったり、生み出していったりっていうのをコンセプトにしています。そのなかで都市観光とアートを融合させたダイナミックな展開をしてみたりだとか、海外からアーティストを呼んできて海外の文化に触れられるきっかけを作るような交流プログラムだったりとか、子ども向けにアートに触れられる体験型のワークショップを開いたり、アートを日常的に楽しめるようなイベントの実施とかを通して、このエリアの魅力づくりにつなげていると思っております。

村上 いわゆる美術館みたいに、しっかりこの中ですよ、順繰り回ってくださいね、みたいなところではなくて、本当にこういろんな人が、そもそも見に来ようと思ってきた人じゃなくて、ふとを訪れた人も多いと先ほど話されていたと思うんですけど、そういった意味では作品の置き方とか、見せ方とか、選び方とか、そういったところも普通の美術館とは何か違うんじゃないかなと思うんですけど、その辺いかがでしょうか。

大越  おしゃる通りで、アート体験をすることが目的に訪れる方じゃない方々が多いので、何かふらっといらした方にも気軽に体験ができるような作品を選んでいたりだとか、見て考え込むというよりは楽しんでもらうとか、何かそういったことを心がけてたりします。

村上 具体的に言うと、例えばどんなものが常設で置いてあったりするんでしょうか。

大越 象の鼻テラスはガラス貼りになっていて、窓からの海を眺めることができるんですけども、その窓に「象の鼻での24の質問」という谷川俊太郎さんの詩をカッティングシートで貼っていて、窓から外を眺める時になんかその場所に思いを馳せるような質問っていうのが並んでいるんです。あと象の鼻テラスの中には、休憩施設なので、椅子と丸テーブルを整えてるんですが、その椅子の座面には開館当初に子供達とワークショップをして絵を描いてその絵をくりぬいたものを座面に加工していたりとか。それはフィンランドのアーティストのカティア・トゥキアイネンという方が来日されて、一緒に絵を描いた作品になるんです。

村上 なるほど。住民という方とよりかは、オフィスとか商業施設とかもそういったものが多いエリアではあると思うんですけど、やっぱりあの地元の方が十数年前にできてから関わり方が変化もあったりはしたんでしょうか。

大越 そうですね。私たちのプログラムで心掛けているのが、いかに文化活動に触れる機会を作るかっていうのを中心に考えていることもあって、作品づくりのためのボランティアさんを集めたりだとか、ワークショップをやるときにも周辺にお住まいの方々を中心にお子さんたちに呼びかけたりだとか、そういうことで参加の枠を増やしてきたんです。そして最近は、もうちょっと踏み込んで、主体的に組織して頂けるようなガイドさんも、市民ボランティアさんの方で組織していたりだとか、少し市民ステージみたいなプロジェクトを立ち上げていて、ご自身の表現を象の鼻テラスの中でお披露目して頂けるような、そういうステージを設けたりもしています。いろんなきっかけ、切り口で関われる機会を作ろうとしています。

今井 美術館やギャラリーというと、そこに出かけるまでに、一歩を出す勇気というか機会がないとなかなか出かけないと思うんです。でも普段の暮らしの中で自然にアートに出会える場所があるってすごくいいなと思いました。それは同時に、横浜という新しい文化が入ってきた場所という価値を今に伝えている取り組みでもあるということ、とても納得しました。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真 Hajime Kato)


次回のおしらせ

神奈川県横浜市の「象の鼻パーク」を中心に、アートによるまちづくりをすすめる大越晴子さん(スパイラル/ワコールアートセンター)にお話を伺います。アートの力がどうまちづくりにかかわるのか、お楽しみに!

The best is yet to be!

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