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北海道美深町の暮らしと長い冬

このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。北海道の天塩川でアウトドアガイドをされる辻亮多さんに、川とともに生きる暮らしについてお話を伺います。

川の魅力を子どもたちに伝えたい

今井 今回は辻さんが普段、どんな人と一緒に暮らし、どんな人と仕事をされているのか、そんな話から伺えたらと思います。

辻 そうですね。僕のガイドの仕事に関しては一人で家族と行ってる小さなガイド屋なんです。前回までの話を聞いて、すごい北海道の大自然を思い浮かべているかもしれないんですけども、僕が住んでいる美深(びふか)町は4000人ぐらいの人口があって、町の人たちもとても魅力的なんです。

村上 美深の方々はどんな方々なんですか。

辻 そうですね北海道の土地の気質なのかもしれないんですけども、オープンな感じというか、僕みたいにガイドをして暮らしていこうなんて、多分変な人だと思うんですけども、そういう人が移住してきたことに関しても「そうか、がんばれよ」みたいな、チャレンジに対しても寛容な雰囲気は感じますね。

村上 川に携わって生業としてたりとか、趣味も含めてですけど、どういった関わり方持ってる人がいらっしゃるんですか。

辻  趣味でお休みになると仲間とカヌーで川を下る人がいたり、仕事が終わったら夕方に釣竿を持ってマス釣りを楽しんだり、街のそばを流れてる川を楽しんでる人も、もちろんなかにはいますね。
でもね、町の人にすると、川に興味がある人の方が少数なのかもしれないです。生活と川の距離は本州よりももっと感じます。生活と少し離れた場所にある川なので。でも嬉しかったのは「お前が引っ越してきたから、お前が浮いてないかなと思って、川を見るようになった」みたいなことを言われるのは、なんか嬉しかったりしますね。

村上 前回の話でいうと、環境の変化みたいなものが川の中に少しずつ現れてるといったお話もありましたけど、美深の皆さんはその変化に気づいているんですか。自分の目で。

気づいていますね。「今年川、水少ないなあ。辻くん大丈夫か? カヌー行けないべ」なんて言われたりはします。

村上 どういう所を見て感じてるんですかね。

辻 ひとつは橋を渡る時に、おおなんか水が少ないなとかですね。やっぱりせっかく北海道の中でも豊かな川のそばに暮らしてるから、そのことは少なくとも子どもたちには感じてもらいながら大きくなってほしいなと思って、町の仲間達と子供達を自然の中川の中に連れてったりするプログラムを実施したりはしてますね。

村上 僕なんかは町内会の人達と話をしてたりしても、話題に川が上がってくることはほぼ無いんですよね。皆さんの場合は、集まればやっぱり話題の中に川が自然に入ってくるんですか。

辻 いや・・・やっぱりね、そこまででもない気はするんですよね。でもそうなればいいなとは僕は思います。僕は移住者だから、ここの自然の良さに惹かれてきたので、自然の良さみたいなのを敏感に感じ取れるんだと思うんですけども、長く住んでるとどうしても当たり前になっちゃいがちでもあります。今はサケがいっぱい上ってきてるし、北海道らしい綺麗な雪が降り始めたり、そういった季節の変化とか自然の豊かさみたいなのをいっぱい感じて暮らせると、すごく幸せなことだなあとは思います。

雪の季節と、それに備えるそのほかの季節

村上 意外でしたね。川の話題とか、近ければ色々あるのかなと思いましたが、意外と出てこない。むしろ移住者である辻さんとかがプログラムを作って子供たちに触れるようにっていうふうにアクションするというのは少し僕は意外な感じにも思ったんですけど。ただやっぱりそこに当たり前にあると、あえて口にしないけれども普段感じている部分があったりして、逆に言うとその、美深の人達っていうのはどういう変化に着目して生きてるんですか。

辻 やっぱり大きな気になるポイントは雪です。一年の半分は雪なんですよ。この時期になると、いつ雪降るかなぁとか、スタッドレスタイヤに換えたとか、また雪かきだねみたいなところで、雪の季節とそれ以外の季節というところの変化をすごく意識して暮らしてると思います。冬に備えるための夏みたいなところは大きいんじゃないかなと思います。

今井 意外にも川とかかわりが少ない地元の人たち。でも考えてみれば川を旅するとなると技術がいるので、やっぱり地元の人であってもそこには橋渡し役が必要になるのでしょうか。
こらから冬がくると思うんですけれども、美深の人たちは冬はどういうふうに過ごしてらっしゃるんですか。

辻 もう早い年だと根雪といって春まで解けない積雪になってもおかしくない時期なんです。11月にもなれば、周りは真っ白な世界になってるんです。そうすると天塩川は全部凍っちゃうんです。川下りなんてもうできない状態になっちゃうんです。そうすると今度は僕は雪の上を歩いたりだとか、スキーで登って山を滑ったりっていうような楽しみと暮らしに変わってきますね。

今井 川の上を歩いて旅することもできるんですか。

辻 それがね、できないんですよ。いつ割れるか、いつ落ちるかわからないんです。でもね近くに朱鞠内湖っていう湖があって、その湖の上をクロスカントリースキーで走る楽しみがあったりしますね。

今井 うわーうらやましい。

村上 美深の方々はこの長い冬の過ごし方、どういったところに喜びを見出しているんですか。

辻 例えばやっぱりスキーをするだとか、ワカサギ釣りをする。あるいはその外ではなくて、日が短かったり外が寒かったりすることで、室内での楽しみだとか、そんな風に過ごしてるんじゃないかな。

村上 辻さんの知っている仲間たち、友達の中で、こんな面白い人いるよとか、こんな面白い楽しみ方知ってる人いるよとか、いますか。

辻 最初の方で川から上がって立ち寄るビールのお話をしましたが、そのビールって、実は美深で作ってるんですよ。クラフトビールの醸造所が美深にあって。そのビールはおもしろくて、美深町に生えている白樺の樹液から作ってたりするんです。川だけじゃなくて、そういったチャレンジをしてる仲間がいるだけじゃなくて、いろんな新しいチャレンジを楽しんでいる人は他にもいますね。

村上 そういった方々は元々美深で育った方なんでしょうか。それとも外からいらした人ですか。 

辻 両方なんですけども、どちらかというと移住してきてチャレンジしてる人は多いように思いますね。

村上 地元の方々、長く美深で暮らしてる人にはどんな方がいらっしゃいますか。

辻 昔は林業の町だったんですけど、今は農業の町で、開拓130年ぐらいの町なので、3代目、4代目ぐらいの人達の農業の人ってのが多いですね。

村上 そういった方々から、辻さんが来る9年前よりもっと前の川の姿とか、こんなんだったよとかサケはこんなんだったよとか、そんな話って聞いたりしますか。

辻  聞きますよ。昔は夏は川で泳いでたんだとか、チョウザメサメが泳いでたんだぞとか、面白い話をいっぱい聞きます。

村上 そういった場所の中で、辻さんのご家族はどうですか。なじんでいますか。

辻  本当に美深 の人になってると思います。うちは子供が4人いるんですけども、下の子達はもう美深で生まれてるので、本当に完全にネイティブなんだろうなと思います。

村上 子どもたちを見てて、この子たちこういうふうに馴染んでいっているんだとか、どういう時に気付いたりしますか。

辻 そうだなあ。学校に通学で歩いていく姿に僕は感動したりするんですよ。なんでかって言うと、朝はマイナス30°c 近い気温だったりするんですよ。ダイヤモンドダストがキラキラ光っていて、サンピラーが太陽の下に立ってる朝日の下を、普通にランドセルを背負った小学生達がテコテコ小学校に向かって歩いていくんですね。 なんてネイティブなんだこいつらはって思ったりしますね(笑)。

村上 なるほどね(笑) ちょっと話が飛んじゃうんですけど、もう少し年上の中高生ぐらいのおしゃれとかに敏感だったりもする年代の子達とかは、とはいえ外に出るにはおしゃれよりも防寒が優先されたりするんだと思うんですが、それでもやっぱりやっぱり年頃だなとかと思ったりするところはありますか。

辻 美深の女子高校生たちは、やっぱり制服のスカートを履いて出かけていきます。こういう土地では、もうそういう制服じゃないほうがいいんじゃないかなと思ったりますけどね(笑)

村上 防寒ズボンもはかずに?

辻 そう!

村上 すごいね。でもやっぱりそういうところに、なんかすごく人間っぽさっていうか、環境からしたら無駄な行為でも、自分がそこに自分としているために出してくる部分がある。すごい人間ぽいなって思うんです。

今井 寒くて暗くて長い冬だと思うんですけれども、お話を聞いてると、全然辛いとか、寂しさとかっていうものを感じないなと思いました。多分皆さんいろんな工夫をされて冬を過ごしていらっしゃるのかなと思いました。
(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・辻亮多)

次回のおしらせ

北海道美深町で、アウトドアガイドをされている辻亮多さんに、北海道の人と自然のかかわりや、天塩川を中心とした自然の中での暮らしについて聞きます。お楽しみに!

The best is yet to be!

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