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開発は過程にこそ価値がある 段ボール技術者のこれまでと未来

形になるまでの「産みの苦しみ」

今井 佐藤さんは最初、どのように段ボールに関わるようになったのでしょうか。

佐藤 私は入社して30年ぐらいになるんですけども、元々は日本トーカンパッケージの親会社にあたる東罐興業という会社に入社しました。最初は紙コップを作る機械の設計をしたというところから入っているんです。

村上 もともとは機械設計が専門で、大学の時もやられていたということですか。

佐藤 はい。学科としては精密機械工学科というところを出ましたので、まあ機械側で、なおかつ設計がやりたいという気持ちを持って入社しました。

村上 機械の設計をしながら、今は包装開発センターのセンター長をされているわけですが、その間はどのような経緯を?

佐藤 最初は紙コップの成型機をやってたんですけども、実はそれは1年ぐらいしかやらせてもらえなくて。その後に紙器のマルチパックといわれている、ビールでいうと6缶パックを紙で缶を包んであるようなのありますよね、あの包む包装機械の設計をやったんです。そして、東罐興業から日本トーカンパッケージが分社する時点で、佐藤がやってる仕事は日本トーカンパッケージの仕事じゃないの?というところから、段ボール側に入ってきたみたいなイメージです。

佐藤さま

村上 一「佐藤技術者」からしたら、あの時代が燃えていたなと感じることはありますか。

佐藤 個人的には機械設計が楽しくて仕事をしていたわけですから、自分で作った機械が動いた時というのはめちゃめちゃ楽しいわけです。でもそこに行くまでの、図面を書く間はすごく苦しいんですよ。苦しいんだけども、出来上がったものが動いた瞬間の喜びというのが今でも忘れられないところではあります。そういう意味では自己満足の世界でしかないのかなと思うんです。

村上 「ジャストフィット」という言葉が前回あったと思いますが、そういった意味では機械のスイッチを入れて、ジャストフィットしたら最高だと思うんですけど、ジャストフィットしてない経験も多分いっぱいあると思うんですよね。

佐藤 いっぱいあります。

村上 どんなことが起きるんですか?

佐藤 さきほどのマルチパックでいえば、パックにならなかったりするわけです。だけども実はジャストフィットって、最終型はそうあって欲しいんですけども、一技術者からすると、最初はダメで、それが最後にジャストフィットまではいかないにしても、形になっていくという、そういう「産みの苦しみ」を味わった方が、思い出は残ると思います。

村上 その時、佐藤さんの周りには先輩の技術者もいらっしゃったと思うんですけど、印象に残っているとか、こういう所は次の世代に伝えたいなとか、どんなところがありますか。

佐藤 二つあって、一つが最初のころの上司が何でもやらしてくれたんです。やらしてくれたっていうか、やっとけよくらいな感じだったので、その時に地力(じちから)っていったらおかしいですけども、自分でやっていく力がついたのかなって、感謝している部分があります。もう一つは、それとは対照的で、設計を見せながら教えてくれた先輩もいたんです。まあ今の時代には沿っていないのかもしれないですが、僕は見せて教えたいと思います。ただ取り組む姿勢としては、放置してやらせるのが一番いいのかなと思います。

相模原工場正門_R

村上 今、センター長でいらっしゃるわけですが、どんな苦労をされていますか。

佐藤 やっぱり自分でやりたくなっちゃうのをおさえるのが一番大変かな。やらせないとダメってわかっているんだけども、自分でやりたい気持ちもまだあったりするので、そこが一番難しいですね。

村上 それはなかなかのジレンマですね。

佐藤  ただ常々思っているのは、チャンスを与えないとダメだなって思っているので、何でもやりたいことはやらせてあげたい。そのために私はいるんだなと思っています。

村上 社の中と、流通させていく部分、両方考えないといけない立場なのかなと思いますが、そこはジレンマになる部分ですか。

佐藤 そうですね。 確かにやらせてあげたい部分と、結果を残さなければならないところは、なかなか両立は難しいので、「バランスを取りながら」という表現になるんですかね。

村上 この1年と少しの間、僕も佐藤さんと実際にお仕事をさせて頂いていますけど、僕の見ている佐藤さんは、「待つ」というか、芽が出るまで今のうちにこれを試しておくんだという、そこのウエイトがすごくある方だなという印象を持っています。そこでも、ここは大事なんだっていう気持ちのアンカーというか、そういったところはどこにあるんですか。

佐藤 結局それがないとただの暴走になっちゃうのかなって思っていて、どこかでは必要なのかなって思ってるんです。僕もセンター長になって2年になるんですけども、まずは「やる雰囲気」を作ろうというのが一番だったかなと思います。

今井 これまで話を伺ってきた限りでも、どんどん新しい段ボール製品が生まれてきてるわけですから、新しい技術もどんどん必要になってくるのでしょうね。さて、ラジオネイティブには次回からも日本トーカンパッケージからゲストにお越しいただきたいと思っています。佐藤さんからご紹介いただけますか。

佐藤 はい。一丸欣司さんという方に出ていただこうと思っています。彼は箱の設計の部隊を取りまとめている人間で、箱については何でも知ってるぞ、という方になります。

村上 このシリーズでは何度か「やさしい」というキーワードが出てきたと思うんですけど、一丸さんはやさしい方ですか?

佐藤 すごくやさしいですね。やはり仕事に対する姿勢が真面目なところから、やさしさが出てるのかなと思っています。元々持ったものもあると思うんですけど、でもその裏には、しっかりと箱の設計をやってきたという自信があるからこそ、余裕がやさしさにつながったのかなと僕は感じてます。

村上 佐藤さんにとって、一丸さんみたいな方はどういう位置づけとして思っているのか、あるいは先ほど「雰囲気を作る」とおっしゃいましたが、そんな雰囲気を作るために担ってもらいたい部分という意味では、どういうことを考えながら一緒にお仕事されていますか。

佐藤  仕事のコアな部分、つまり箱の設計の部分に関しては、もうまったくまかせています。彼のいいところは自分のチームをまとめていく力が非常に強い所です。彼自身が人についてきてもらえる力があるので、彼を右腕って言ったら失礼ですけども、そういう形で活躍してもらうのは、僕にとってはすごく助かっています。

村上 僕らの番組では、同じところに所属されてる方に連続で出てもらうのは初めての試みなんですけど、ますます深みのあるお話を次回も期待できるのかなと思ってます。今井さんは、どんな話を一丸さんに伺ってみたいと思っていますか。

今井 そうですね。やはり箱の専門家ということなので、本当に今、箱が多様化していると思うので、どんな箱を作ってみたいかとか、聞いてみたいですね。

村上 そうですよね。そういう意味では今回触れませんでしたけど、とんでもなく変わった厄介な箱を僕がオーダーしているような形になるんですよね、佐藤さん。

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佐藤 そうですね。ここ1年ぐらい彼は悩んでるかもしれませんね・笑

村上 笑。そんな苦労話もうかがえるのかなって思います。

段ボール箱の未来

今井 佐藤さん、僕たちはネイティブという名前をつけて、暮らしを続けるためのお話を伺ってるんですけれども、この段ボール箱の世界で長く発展し続けていくために必要なことって、佐藤さんはどういうところだと思いますか。

佐藤 やはり相手のことを考えるということが長続きすることなのかなーっていうふうに僕は感じてますね。

村上 どの業界でも、相手のことを考えるってすごく普遍的な言葉じゃないですか。段ボールというものを見続けている佐藤さんから想像した時に、昔の人はこんなこと考えたんじゃないのかなとか、これからの人はこういうことを考えるんじゃないのかな、みたいなところで言うと、どう思われますか。

佐藤 そうですね。昔の人は、どうやって運ぼうかなと考え、運ぶために段ボールを使おうと考えたと思うんですね。でもこれから先は、運ぶだけじゃない段ボールの使い方を考えていこうという人たちがいっぱい出てきて、世の中段ボールであふれてくると、それには相手がどんなことで使いたいかなというのを想像しながら作ることがが、未来に向けての道なのかなって思ってます。

村上 例えばオリンピックとかで話題になったものに(選手村で使われた段ボール製の)ベットとかがありました。包むものから、そうじゃないものへということですか。

佐藤 そうですね。それか、人間を包むとかも、いいんじゃないですかね・笑

村上 こういう人が入ってくると段ボールの世界が面白くなってくるのではという目線で言うと、どんな方に期待しますか。

佐藤 まったく別の世界の方がいいですね。包むことを知らない人が入ってくるのが一番面白いと思います。

村上 ありがとうございます。ますますセンター長としていろんな方が入ってくると、やることも増えますね。

佐藤 でもそれは楽しみになると思いますので、じゃんじゃん来てくれないかなと思ってます。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 日本トーカンパッケージ)


次回のおしらせ

段ボール箱や、紙で作られる容器などの開発をする日本トーカンパッケージえ段ボール箱の開発をする一丸欣司さんに登場いただきます。一つの箱ができるまでに経る過程や工夫、開発の難しさなどを聞きます。お楽しみに。

The best is yet to be!

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