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【読むラジオ】#019 気づいたら40羽 あかぽっぽを守れ


アカガシラカラスバトという希少種


村上)今回から登場いただくのは、人と自然のつながりを、特に小笠原諸島をフィールドに取材し続けているライターの有川美紀子さんです。有川さんは『小笠原が救った鳥 アカガシラカラスバトと777匹のネコ』(緑風出版)という本を書かれているんですけれども、アカガシラカラスバトという、通称「あかぽっぽ」と呼ばれる絶滅が危惧されていた鳥が増えていく過程で、人間がその鳥とどう関わってきたのか、その絶滅を危惧するきっかけになってしまったのが人間が島に持ち込んだ猫だったというところで、自分達も命の一部だし、アカガシラカラスバトも命だし、猫だって命だしという中で、絶滅させないためにどうしたらいいかという活動を追ってこられました。この話は過去の話ではないし、今いろんなほかの場所にもある話だと思うし、未来にもある話だと思うんです。その中で人間がどう向き合ってきたのかという話をこの本の中で書かれているんですけれども、その中で僕がすごく印象に残ったのが、島の人たちが鳥の危機の事実を知った時に「見てしまったんだからやるしかない」と島の方が言っているんです。いろんな言葉があると思うんですけど、この言葉に至る部分をすごく聞きたいなと思っています。

今井)まずはこの小笠原の現場で今どういうことが起きているのか、うかがえますか?

有川) 最初に問題が起こったのは、実は1968年の小笠原返還の当初から、外来種が小笠原の希少種に対していろいろ影響を与えてるという話があったんです。でも困ったねと言いながら、ずっと問題が続いていた中で、ある岬で海鳥を猫が襲っているということが分かったことから、一気に話が進む出来事が起きたんです。それが2005年の話なのです。

村上)今回中心となるアカガシラカラスバト。この鳥はどういう鳥ですか。

有川)カラスバトという鳥の固有亜種です。カラスバトは島しょ部には結構いるんですけど、鳩の一種です。アカガシラカラスバトはドバトより一回り大きくて、食べるものは木の実とかです。首の周りに光が当たると虹色に綺麗に輝くような色に見えるのがこの鳥の特徴なんですけど、気が付いたらあともう40羽しかいない状況だったんです。

村上)今はそこから何羽ぐらいまで増えているんですか?

有川)今はそこから500羽くらいに回復しているって聞いてます。

村上)当初は、幻の鳥みたいに、島の人たちもいるって聞いたことあるような、ないような。でもどっちにしても見たことがないっていうような鳥だったんですね。

有川)2000年ぐらいまでは、みんな知ってはいたんですけど、森の中にいるので鳴き声を聞くのも山に入らないと聞こえないし、人里には来なかったので本当にいるのか?みたいな感じだったです。

村上)今はどうなんですか?

有川)夏から秋にかけては、その年に生まれた若鳥が、人里に降りてきて庭に来たりとか、道路の辺を歩いていたりとか、結構普通に見られるようになってきましたね。

村上)見えないものを守っていくなんて、よく島の人たちは動いたなと驚きました。

有川)それにはすごく色々な話があるんですけど、一つは2008年に国際的なワークショップを島で開催したことがきっかけになりました。この会議は、世界中のいろんな絶滅の危機に瀕している生物をどうやったら守れるか、専門家や土地の人などいろいろな利害関係者(ステークホルダー)で話し合って、今後の方向性を決めるものでした。島にあるNPO「小笠原自然文化研究所」の人たちが国や都、村やたくさんの人々を巻き込んで進めたんですが、彼らはそうした会議をやるぐらいのことをしないと、島の人たちが知らない間にこの鳥が滅んでしまう、この鳥が自分たちが生きてる時代に滅ぶのは嫌だから、無理な計画だけどやろうということになったんです。そこで初めて本当に危ない状況なんだということを島の人たちが情報共有できた。そこから始まったんですね。

島民発だから、続けられた

今井)アカガシラカラスバトという幻の鳥に、一つの大きな会議を通して気づいていったということですが、やっぱり島民の人たちを巻き込んだ活動にして行かないと、野生動物は守れないと思います。そこにはどういうプロセスがあったんでしょうか。

有川)そうですね、小笠原は「移住者9割」と言われるくらい、よそから来た人が多い島なんです。ですから歴史を今みんなで作っているような、若い島なのですが、この会議の時に、いろんなデータを組み合わせて、もしこのまま放っておいたらこの鳥はどのくらいで絶滅するか研究者がシュミレーションしたんです。私はこの会議の中心のところは出ていないので、あとから聞いた話ですが、このまま何も手を打たなければ20年ぐらいで絶滅すると聞いた時に、会場から「えー」「これは本当にやばい」っていう声が起きたそうなんです。
まああのすごく古い島だと、何かやる時に、いろんなしがらみがどうしてもあるんですけど、小笠原はその辺が若いがゆえに、みんなでやろうというところで盛り上がれたのが、ここまでつながった理由の一つかなと思います。

村上)柔軟だからバラバラになるというか、収集がつかなくなるというのはイメージできるんですけど、よく、やろうというところに「まとまっていく」ことができましたね。当たり前のように、まとまっていったんですか。

有川)会議の中で、やらなければいけない優先順位を決めたんですよ。そこで一番やらなければならないのは、山にいる猫をどうにかしなきゃいけないことだと、合意ができたんです。なので、それであればもう目的は見えているわけで、そのために何をしなければいけないのかという逆算で、会議の一年後には山で猫を捕獲する「ねこ隊」が結成されたり、お土産屋さんだったら、あかぽっぽを広めるために、あかぽっぽをモチーフにしたクッキーを作ったり、出席者全員がこの鳥を絶滅させないために、それぞれの立場でできることをやったために、みんなで盛り上がれたというのが理由の一つですね。

村上)今増えてきたという事実から逆に見ていくと、たしかに点と点が繋がっているようにも聞こえるんですけど、当時やっていた時は、本当に繋がるのかしら?と懐疑的になる人もいたと思うし、「幻の鳥が増える」なんて、手応えもつかめない中で、手は出すことはできても、長く背負っていくとなると、また違った難しさがあると思うんですけど、そのあたりはこの十数年間どうだったんですか。

有川)私は島の外から観察してる立場なので、島民の方の目線と違うかもしれないですが、さっき言った小笠原自然文化研究所というNPOの3人の男たちと、それに関わる人たちが、とにかく「決めたんだからやろう」とないがしろにせず、ずっと行政関係の交渉などを含めてずっとやり続けてきたので、島の中にそういう人たちがいたことが大きいと思います。外からの研究者とか偉い人がこうしなさいっていうことは、どこでもやられてるんですけど、島の中に、研究者の立場であり住人である人が、それを本当にやらなければならないと、夜も昼もなくやっていれば、周りの人たちも「あぁ、そうだ。俺も約束したっけ」みたいな感じになれた。だからずっと続けていけたという感じなんじゃないかなと思いますね。

村上)熱い3人の男たちの小さな火が、島の中でどんどん広がって、時にはちょっと消えかけたりもすると思うんだけれども消えてもまた広がっていくみたいなサイクルをイメージしましたが、どうですか。

有川)その男たちが、自分たちがしなければならないことに邁進しているなかで、その会議に出ていた誰かが事務所を訪ねてきて、あかぽっぽに関する手作り品をもってきたりするようになったんだそうです。もちろん火をつけたのは3人の彼らだと思うんですが、当初、彼らがやろうとしていなかったことを、島の人たちも勝手にやり始めて、どんどん面白がって熱意を持って、みんながこの鳥を守るためにこんなことをしてはどうか、と自発的にやり始めたらしいんですよ。

今井)先ほど、歴史が浅い島なので現在進行形で歴史が作られているとお話しいただきましたが、このアカガシラカラスバトを守る動きは、小笠原の歴史の大切な1ページになっていったんですね。 

(文・ネイティブ編集長 今井尚、写真・鈴木創)


次回のおしらせ

次回も貴重なアカガシラカラスバトの保全について長年取材を続けてきたライターの有川美紀子さんにご登場いただきます。人口450人の母島に移住した有川さんが1年を暮らしてみて分かったことをお聞きします。ラジオネイティブ #020 「小笠原へ移住して分かったこと 」をお楽しみに!

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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