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野菜だけでなく農家さんの物語も届けたい

信州・松本で6席の小さな食堂「アルプスごはん」店主の金子健一さん。顔の見える関係を築いて仕入れる野菜だけでなく、器や調理道具にいたるまで、お客さんとのふれあいや、その日の気分にあわせてチョイスしています。自らも野菜を育てるからこそわかるベストなものやタイミングで食事を出しています。

地域の農家さんとつながる

今井 金子さんが松本でワクワクする所って、どんなことですか?

金子 松本には4年前に移住してきたんですけども、暮らすようになって感じたのは、野菜がとにかく美味しい。そして農家さんとの距離が近いことがすごくありがたい環境だなと感じています。

村上 松本でよくとれる野菜にはどんなものがあるんですか。

金子 毎年11月くらいになると松本一本ねぎという伝統野菜の収穫が始まります。春と夏、斜めに植え替えをすることで白ねぎ部分が太くなって曲がるんです。火を入れるととろんと甘くなるんです。あとは漬物の文化がありますね。冬の時期に野沢菜漬ですとか、木曽の方では開田かぶ、大滝かぶなどの赤かぶでつくる「すんき」ですね。塩を使わない漬物で、木曽の赤かぶに含まれている乳酸菌を活用してうまく発酵させてつくるんです。冬の時期は野菜が穫れなくなるので、それぞれの家々で大根やかぶ、白菜などいろいろな野菜で仕込んだ漬け物がよく食べられます。

村上 ほかの季節ではどうですか。

金子 夏ですと全国各地でも作られているトマトや茄子、胡瓜、ズッキーニなどの夏野菜ですね。松本に「SASAKI SEEDS」さんという農家さんがいるんですけど、固定種、在来種のお野菜を種採りをして自然栽培で作ってくださっています。茄子だけでも山科茄子、泉州水茄子、白丸茄子、真黒茄子、薩摩白長茄子と5種類も作ってくださっています。また松本の「ふぁーむしかない」さんは、農薬化学肥料不使用でお野菜を育てています。夏場にはきゅうりを普通の胡瓜に始まって、八町胡瓜、四葉胡瓜と3種類作ってくださっています。多様性というか、農家さんによって野菜のつくり方も、畑への向き合い方もそれぞれなんですよね。それぞれに発見や気づきがあって興味深く見守っています。

村上 種類を作るとなると育て方も微妙に変わってくるでしょうし、時期であるとかいろんな手間もすごくかかったりすると思います。農家の方も誇りに思ってらっしゃるんですか。

金子 飲食店だけに向けて作っているわけではないので、やっぱりご家庭の台所を頑張って守ってるお母さんやお父さんに向けて、いろんな種類の野菜を季節によって楽しんでもらえたらという思いで作られていると思います。

村上 松本は野菜を育てる土地としてはすごくいいんですか。例えば冬場だと土が凍っちゃったりみたいなこともあるのかなあと思うんですけど。

金子 そうなんです。冬は農家さんにとっては短い冬休みになってます。だいたい12月中には出荷も終わるところが多くて、あとは根菜類が残ってるので、土に埋めて年明けとかに土から掘り起こして届けてくれたりもあるんですけど、だいたい1月中にはお休みに入られる農家さんが多いですね。

村上 前回もそうだったんですけど、食べ物の話を伺っている中で、すごく人の名前が出てきますね。その人たちが作ってる食材を預かって、金子さんがワクワクしつつも、その物語もちゃんと背負って、ごはんを作っていらっしゃるんだなと改めて感じました。

金子 ただ僕が作ったごはんを食べてもらうんじゃなくて、お野菜や調味料、道具、器など、それらの後ろには物語が必ずあると思っているので、料理と一緒に味わってもらえたらいいなと思っています。お客様には食べてもらいながらしゃべったりするんですけど、ついついしゃべり過ぎちゃうんですよね(笑)。

「SASAKI SEEDS」さん、夏のひとコマ。 佐々木さんが持っているのは種採り用の大きな大きなきゅうり。佐々木さんは種屋さんで種や苗を買うのではなくて、ご夫婦ふたりで、種を採るところまでやっています。


野菜メインでも満足感

今井 お野菜の話を伺ったんですけれど、お店で出されるお肉とかお魚とかそのあたりはどう仕入れていらっしゃるんでしょうか。

金子 お肉とお魚はですねアルプスごはんのプレートに関しては、ほぼ使ってないです。使ってるとしても、「高野豆腐のエビごま味噌和え」という料理で乾燥の小エビを使ってるだけなんです。ロスの問題とか、色々思うこともあったりするのと、あとはコロナ前は海外からのお客様も多くてベジタリアンの人たちが半分以上だったんです。旅先で食事が制限されるのが僕も嫌だなと思っていたので、それでお野菜中心にアルプスごはんのプレートに関してはしています。

村上 ぼくは今そう伺うまで、お魚やお肉が入っていないイメージがなかったです。言われると、そういえば確かにメインもそうだなぁと思いましたが、そういうことだったんですね。

金子 そうなんです。結構、お肉とかお魚がなくても満足感があって、腹持ちするごはんだねって言ってもらえます。合鴨米を圧力鍋で炊いてもっちりさせたりとか、メインの揚げ物を車麩の唐揚げにしたりとか、そういうところでプラスアルファの満足感が出せたらいいなぁと思ったりします。あと食感をすごく意識した料理を作っているので、多分咀嚼する数、かむ回数が通常より多いんじゃないかなと思っていて、その点でも満足感に繋がるのかなと思っています。

村上 個人的にはどうしてもお野菜だとパンチという意味では、やっぱりお野菜って少ないような気もするんですけれども、金子さんのお店で使ってらっしゃるお野菜は一つひとつ個性があるから、その力強さもあるのかなと。あとその噛み応えであるとか、そういったとこも相まっているのかなと今思いました。

金子 そうですね、野菜が本当に美味しいんです。最低限の調理をすれば美味しく出来上がるっていうのを松本に来てわかりました。あまり食材をこねくり回して料理するより、シンプルに調理してあげた方が野菜も喜ぶし、自分も料理を作っていて楽しい気持ちになるので、そういう味付けにアルスごはんはなってます。

「ふぁーむしかない」の鹿内さんとにんじん 僕が鹿内さんのお野菜で初めて出会ったのが、にんじんでした。瑞々しさと甘さと人参本来持っている苦味のバランスが素晴らしいのです。葉っぱも炒ってふりかけにします。葉っぱはスーパーには並ばないので、農家さんと直接やりとりしているから味わうことができます。

村上 お料理される金子さんは、季節によって調理方法とかを変えたりとか意識されてることはあるんですか。

金子 夏場の汁物はさらっと飲める味噌汁を作るんですけど、やっぱり冬場とかは寒いので、ちょっととろみがかった汁物がいいなと思います。それでカブやごぼうなどを、玉ねぎやじゃがいもと一緒に出汁でコトコト煮込んで、柔らかくなったところでハンドミキサーで攪拌して味噌ポタージュっていうのを作るんです。これ、すごくあたたまるんですよ。

村上 ごはんも合鴨米とおっしゃっていましたが、ごはんも季節ごとに変えたり、炊き方も変えたりされているんですか。

金子 合鴨米に関しては、炊き方はずっと圧力鍋で炊いてます。新米の時はちょっとお水を少なめにして炊くとか、そういう工夫はしているんですけども、基本的にはもっちり食べてもらいたいなと思ってやっています。
この合鴨米は、安曇野の「バジルクラブ」の鈴木達也さんという方が作ってくれているんです。安曇野に三郷小学校っていう小学校があるんですけど、毎年5年生が、合鴨米の授業をします。命の授業をするのですが、田植えをした後に合鴨ちゃんたちを田んぼに放して、その合鴨ちゃん達は雑草とか害虫を食べてくれるので、薬なしでお米を作る農法なんです。農業と畜産を同時並行していくので、その年の11月には合鴨は解体されて食肉になるんです。鈴木さんたちは解体する所まで子供たちと親御さんと一緒にやられているんです。今年で12年目だと思うんですけども、そういう取り組みをしている人たちもいるっていうのがすごいなあと思います。

村上 合鴨米をいただいた時に、びっくりするくらいもっちりだったんです。僕はお米が好きで炊き方とかもちょっと頑張って炊いたりとかするんですけど、これどうやって炊いたんだろうみたいに思うくらいのもっちり感でした。金子さんがそこに行き着くまで、やっぱり試行錯誤があったんですか。

金子 そうですね。圧力鍋の炊き方はいろいろ研究しました。季節によって土鍋にしたほうがいいんじゃないかとか、試行錯誤はしたんですけど、やっぱり炊く量も多いのと、お客様がお家で土鍋とか炊飯器とかで炊いていたとしたら。そこでは食べられないものをお店で提供できたら面白いかなと思って圧力鍋を使っていますね。
(文・ネイティブ編集長今井尚)


次回のおしらせ

長野県松本市で、生産者さんと顔の見える関係を築きながら野菜を中心とした料理を出す小さな食堂「アルプスごはん」を立ち上げた金子健一さんにお話を聞きます。自らも野菜作りをする中で見えてきた、野菜作りと料理の関係。お客さんともコミュニケーションを楽しみながら農と暮らしをつなぐ役割も果たしています。お楽しみに!

The best is yet to be!

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