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ネパールを形づくる力について

開けちゃいけない扉

今井 ここ数回ですが、ネパールについて集中してお話を伺ってきました。最初は門谷JUMBO優さんにネパールでのアウトドアバッグ作りについてお話を聞きました。続いてのシリーズも同じ門谷さんに、今度はドキュメンタリーフォトグラファーとして追っているラウテ族というネパールの森を移動しながら暮らす民族についてお話を伺いました。さらにネパールのニレカアドベンチャーズの代表サティスさんには、アウトドアガイドの仕事について伺いました。そして前回まで、村上さんにゲストになっていただいて、村上さんが見たネパールの暮らしについてお話をさせてもらいました。
ネパール、いろんな角度から探っていきましたね、村上さん。

村上 本当にそうですよね。とはいえですよ、サティスも言ってくれましたけど東西には長く、南北で見ると標高が低いところから高いところまで変化がある世界で、国土としてはそんなに広いわけではないけどそこに100近い民族が住んでいて、かなり細かい単位で村があって、その村はどうしても高い山で、距離的にもというよりかは物理的に離れていることが多い。そうなると、本当に多様な暮らしが点在していて、そこがちょっとずつ繋がってきてものすごい複雑だと思うんですよ。
一つの国を見ても、この数回では全然理解しきれてないし、でもこれが世界全体にいろんな網の目のようにあるんだろうなって、なんかそこまで意識が飛んでいくというか、ネパールのシリーズはそんな回だったかなって僕は思います。

今井 全くおっしゃる通りだなと思っていて、私は1回しか行ったことないんですけれども、自分の見てきたネパールのイメージは多少なりと持って話を伺ってきたんですけれども、ネパールの人ですら意識して歩く人ではないと、なかなか見切れない文化もあるし、民族の違いによる、例えばサティスさんの民族はこういう仕事をしているのが普通であるみたいなそういう、感覚みたいなところとかって、なかなか一度二度訪れただけでは理解できないところがあるし、面白かったなと思っていましたね。

村上 やっぱりネパールという国って、まだ「開けちゃいけない扉」がたくさんあるような気がするんです。神聖な意味で開けちゃいけない扉もあるし、見て見ないふりするというか、日本で言うとその黒子っているじゃないすか、必ずそこにいて重要な役割を果たしているのに、その舞台を見る側からしたら「いないふうに見てる」わけですよね。ネパールには本当に黒子の数がとんでもない数だけいるようなイメージと言ったらいいでしょうか。山登りするときにもビジターとして行く人たちは黒子が裏で何をやってくれてるのか、何かちょっと見えてるし、その存在には気づいているけどその中身には触れない、何かそういうものがある国のような気がしているので、これからネパールに訪れる方がいれば、ネパールだけじゃないんですけど、やっぱり僕らが見ている世界っていうのは、現実なわけなんですよね。だけどそれだけが全てではなくて、黒子の存在から見たときには別の世界が見えてるだろうし、本当にそういう何か秘めた部分がある。それこそJUMBOさんが話してくれたラウテ族は、今どこにいるかわからない民族。黒子が黒子のままというか、見えないものを秘めたものを秘めたままに受け入れている。そこまで気にしないっていうのが根っこにあるような気がするんですよ。

今井 ネパールって国の話だけではなくて、自分たちも通じるところがすごくあるのかなというふうに感じました。ラウテの話を伺っていて、例えばそのラウテの人たちってすごくセルフィッシュなんだけれども、それをあるところまでは守りつつも、ラウテの人にとっても自分たちだけで生きていくわけにはいけないので、周りとのこの折り合いをどうしてもつけていかなければならなくて、その周りを取り囲む環境っていうのはもうどんどんどんどん当然変わっていって、昔であれば許容されていたこともどんどん吸収されなくなってきてるっていうところで、何を手放さずに残していくべきなのかとかそういうことをすごく考えさせられたし、ラウテの人たちの今の動きを見ながら、例えば日本だって、各地でいろんなお祭りとかがあるけれども、もう担い手がなくなって、中止をせざるを得なくなってきている状況とかもあると思うので、自分たちにとって残すべきものとか大切にすべきことって何かなみたいなところに通じる話なのかなっていうふうに感じました。

村上 今井さんどうですか、いろいろ話を聞いて、仮にですよ、ネパールにまだその残ってるものがあるとするんであれば、何かそのコツは結局何だったのかなって、どう感じました。

今井 ラウテの人たちが例えばすごくセルフィッシュだって話は聞いたんですけれども。
一方でラウテの人たちも、昔はどぶろくみたいなお酒を自分たちで作るのが文化だったけれども、今はもう安いウイスキーを飲んでいるっていうような感じで、周りの人の生活が変化すれば、あるところではそれを受け入れるってことも同時にしているわけですよね。
なので、やはりラウテの人たちにもかなりその受け入れる力、前回村上さんとのお話では諦めの力っていうのもあったと思いますが、そういう意識がやはりあるから存続し続けてきてるのかなと思いますね。

村上 一方で、関わるという力が、僕はどんどん弱くなってる気もするんです。そういったところを見たときやっぱり根本には、ネパールの持ってる関わろうとする力、綺麗に言わなければ「常に好奇心を失わない」とか「野次馬」っていう言い方だってできるかもしれない、そういう力があって、諦めるとかなんかそのバランスが今の日本はちょっと変な感じになってる感じがややするんです。もちろん全部じゃないですよ、なんかそんな予兆を感じるんです。


作り続ける「未完の力」

今井 前回村上さんに話を聞かせてもらったネパールの家作りで、専門職ではなくてもそこら辺の村人たちが技術を持っていたりとか、家作りにも専門家ではなく、村人の人々のものになってるっていうところがすごいなと思いましたし、そういう暮らしそのものをみんなで繋げていくっていう力が、ネパールにもしかしたら残っているのか、ネパールが特にそこに秀でているのか、ちょっとまだそこまではわからないんですけれども、総合した生活力みたいなものが暮らしの力みたいなものをすごく持ってる人たちなのかなって感じました。
ここまで振り返ると、ネパールはすごく変化に富んでる国であることや、許容する力が強いっていうことを感じてきました。

村上 そうですね、改めてこれまでのゲストの皆さんと振り返りながら、ますますこの振り返り回で話しながら、あれは一体何だったんだろうって思っています。ネパールの人たちが持つ力は確かにあるし、僕も学びたいなって思います。ただその力は、おかれてる環境とセットになってる気がしていて、こうなりたいからになってるっていうより、仕方なくなってるから生まれてくる力のようなところもある。何かそのあたりがやっぱり改めてネパールってすごく知りたい国だなっていう気もするし。

今井 なるほど私もネパールのその置かれている状況についても今回のこの3回のシリーズを通して知りました。例えば海がない国だって言うことも、それがどういう意味を持ってくるのかっていうのは全然考えたことはなくて、やはり輸出に対してはすごくハードルになってしまうっていう現状から、JUMBOさんは、そこにカバン作りというプロジェクトを通して、ネパールの置かれる状況を少しでも改善したいという思いがすごく強かったなというふうにふり返りますし。一方で、やっぱりそういう国だからこそ国を捨てて他の国でてしまおうとしている人がかなり多いんだなっていうのをすごくひしひしと感じました。

村上 そうなんですよね、突然ですけど、僕の家の近くに僕がよく行くネパール料理屋さんがあるんですよ。このコロナ禍で飲食店がすごく大打撃を受けてる中で、かなり柔軟に対応してたなと思ってるんですよ。もう人を入れられないとなったらすぱっと閉じる期間もあったし、急に動き出して、空調を全部入れ替えてみようとか、店自体がウーバーに頼らず自分たちで配達を始めちゃったりとか、毎回行くたびにいろいろ変えていくところがあって、それはなんか今、強引かもしれないですけど振り返りを見たときに、なんとなくしっくりきちゃうんですよね。

今井さんが今言ってくれた感想の中にも、より良くしていこうとか、海がないからねとかっていうところも含めてより良くしていこうっていう。キーワードが「よりよく」っていうのがなんか近いような気がしています。要するに永遠に未完成な感じがしたんです、ネパールって。
これでいけるって完成の目処が立っても、すぐ次はそれを成長させるじゃないですか。たくさん頻度を繰り返して、たくさん稼ぐなら稼いでこうみたいなところっていう、そういう成長ではなくて、それこそ建築や暮らしでいうと、建物をいっきに完成させないんです。コンクリートの建物が最近カトマンズの町では多いんですけど、まずは1階と2階ぐらいをつくる。そして3階、4階、5階ぐらいは、お金があるときに足していこうよみたいな作り方をするので、屋根からまだコンクリートの鉄筋むき出しのやつがニョキニョキ出ているような、そういうのが1年2年とか長い時間空くんです。
最近の日本はなんかすごく完成させようというような感じもするし、それこそ多様性という言葉が出てますけど、多様性とそれこそ完成させない方が正しい気もするんですけど、僕個人的にですよ、「日本式の多様性」というのはこういう感じでやればいいんだっていうふうに何か完成させようとしているようにも見えなくはない。逆説的に。ネパールなんか「未完の力」があるっていう感じがしました。


今井 なるほど、それはもしかしたら、ネパールの置かれてきた状況が本当に変化に富んでるというか、国としても海がないということはあれを全て別の国に囲まれてるというわけなので。常に変化にさらされている国なのかなというふうにちょっと今お話を伺ってて感じました。

(文・写真 ネイティブ編集長・今井尚)

次回のお知らせ

次回もネパールのまとめをしたいと思います。それぞれ異なる角度からネパールについてみてきた話の中から、ネパール人たちの持つ暮らしの知恵について迫ります。
The best is yet to be!

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