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【読むラジオ】#004 当たり前の一瞬に、いかにお邪魔させてもらうか

前回からカンボジアの中部にあるサンボープレイクックという遺跡を中心に、現地で旅行会社を運営される吉川舞さんにお話を伺っています。

カンボジアの人たちのエネルギーが、上昇気流になって昇ってきた

今井)「遺跡」と聞くと、どうしても堅苦しいというか、文明や歴史を理解しておかなきゃいけないんじゃないかと思ってしまいますが、吉川さんの話を聞くとちょっとイメージが変わりましたね。

村上)そうですね。前回、吉川さんが遺跡のことを「町の寡黙なお父さん」という例えをされているのを聞いて、僕らは遺跡を必要以上に敬いすぎていたのかもしれないと感じました。「お父さんに会いに行く」という感覚であれば、こちらも壁を作らずにその「人となり」をもっとフレンドリーに知れるし、吉川さんがそういう感じで接されて多分十数年ですかね、遺跡を人のように愛するとこんな感じなんだなと、すごく感じました。

今井)今回のキーワードは「旅」にしたいと思っています。吉川さんは学生時代に様々な旅をされて、その中でカンボジアに出会ったという話を前回も少し伺いました。旅人としてのカンボジアの印象は、最初、どんな感じだったんでしょうか?

吉川)最初にカンボジアに来た時、東南アジアにまったく興味がありませんでした。文化財といえばやっぱりヨーロッパという頭があったので、東南アジアは、アンコールワットが名前が知られていたので、大学で専門に研究している先生と一緒に、夏に短い間だけ現場に行ける機会があり、それだけでカンボジア行ってみようと思ったんです。事前に「内戦」とか「発展途上国であり色々大変な課題がいっぱいあります」というようなことを勉強して、頭に詰め込んで、現地に行きました。
夜、飛行機が着いたときは真っ暗で、予想通りの印象でした。ところが翌朝、ホテルのカーテンを開けたら全然違う世界だったんですよ。すごく派手な色のパジャマを着てるおばちゃんたちが、極彩色の果物を頭に乗せて、エネルギーのぶつかり合いみたいなことがあちこちで起こっていたんです。なんだこのエネルギッシュさはと思いました。まるで人々の上昇気流がそのホテルの窓に向かってくるみたいな感じの現象が起こっていたんです。これ、知っているカンボジアと全然違うと思いました。

村上)エネルギーの塊みたいなのが最初のイメージだったんですね。いま、日本から初めて行く人たちも、いろんな情報を事前に持って入ってくると思うんですけど、吉川さんはどういう伝え方をして、どういう入口から入ってもらうんですか?

吉川)本であったりウェブであったり、私たちが二次情報としてふれられるものって、どこかでアソートされているので、カンボジアに来たらもう、生にふれてもらうしかないですね。それぞれが生きる日常の中に、ポンって飛び込んでみることが一番大事なんじゃないかと思います。何よりも「日常」ですよね。当たり前の一瞬に、いかにお邪魔させてもらうか、みたいなことをやりたくて旅をやっているんだと思います。

村上)なるほど。

吉川)だけど、初めて来る人にそれを伝えるのは難しいです。もちろん自分の経験をお話しすることはできるんですけど、「こういう素晴らしい世界があるから来てください」みたいな旅行の紹介って、あんまり得意じゃないんです。1回カンボジアに来ていただき、「あれ、なんだろう、なんだろう?」って思った人達に、また来てもらうケースが結構多かったりします。

今井)カンボジアの魅力を伝えることは、研究者とか、ジャーナリストとかもできることかもしれませんが、カンボジアの日常に、訪れた人をポンと案内する仕事はやっぱり旅行会社だからこそできるのですね。

吉川)そうですね。綺麗に整理されたものじゃなくて、受け手がどう受け取るか分からないんだけど、とりあえず生身と生身で出会ってからじゃないと分からないことがあると思っています。私はそれを「袖すり合い」って呼んでいるんですけど、その人生の袖すり合いの摩擦熱がカンボジアってすごいアツアツなんですよ。

今井)なるほど、それでは後半で、そのナプラワークスがこだわる「袖すり合い」について掘り下げて話を伺いたいと思います。

サンダルの裏から地球の核につながる人たち

今井)吉川さんが運営されてる旅行会社「ナプラワークス」では、カンボジアの中でもサンボープレイクックという遺跡群を中心に、現地の人たちと旅人をつないでいるということですが、この「ナプラワークス」ってどういう意味なんですか?

吉川)もともと、サンボープレイクックの隣にあった7世紀頃にすごく栄えた都が、イシャナプラっていう名前なんです。イシャナプラのイシャナというところが、王様、あるいは神様に関する名前です。その町はかつては国際都市だったんですね。すごくたくさんの人が入り乱れて、新しい何かが発信されるような場所だったんです。
サンボープレイクック遺跡も今、世界遺産になったので、またここにいろんな人たちが訪れています。そこで新しい物語がどんどん生まれていってくれたらいいなと思い、それに関する仕事は何でもやろう、「イシャナプラ、再び」みたいな仕事にしたいなと思って名づけました。
私が初めてカンボジアを訪れた時、首都のプノンペンで、カンボジアの人々の上昇気流みたいなエネルギーを感じましたが、それと同時に、ここで暮らす人たちからは「サンダルの裏から地球の核と繋がっているようなエネルギー感」を感じるんです。それに弟子入りしたいなと思っているんです。

村上)上ではなく、今度は地面に対するエネルギーですか。根におろすエネルギーとは、どういったときに感じるんですか?

吉川)私は19歳の時にカンボジアに行ったんですけど、あるお宅を訪問したとき、お母さんから「あなた、ご飯は炊けるんでしょ?」と言われ、「まあ、炊飯器あれば炊けますけど・・・」って言ってる横で、9歳ぐらいのその家の女の子が枝をバキバキ折って火力調節をしながらご飯を炊いていたんです。それを見て、「私はできないな・・・」って思ったんですね。

村上)9歳の女の子がですか。

吉川)その家のお母さんから「9歳くらいになったら、もう家のことはだいたい出来てあたり前なんだから」と言われました。私はというと、いい大学に行かせてもらって、まるで「青葉がもさもさ茂っている木」みたいな感じだったのですが、その時「根が浅いな」と思ってしまったんです。カンボジアの人たちは、自分たちの生きることの根幹を全部一から作り上げていっている。家財とか、現金収入とか、そういうもので見ると全然青葉が茂っているようには見えないんだけれども、ものすごく地中に根を張っていて、世界がどう揺れても、それに合わせながら自分たちを保っていけるような感覚があって。これがすごいと思ったんですよね 。

村上)吉川さんは当時、9歳の根を張った女の子を外から旅人として見ていたんだけど、今はその人たちと一緒に仕事をして、同じ地面で生きてるわけじゃないですか。いま、それはできていますか。

吉川)私は一時期、カンボジア人になりたいとすら思ったこともあるんですよ。地域の人たちに近づきたいという気持ちが強すぎたんです。だけど、やっぱりできないんですよね。お水を確保したりとか、植えて育つのを待ったりとか。どんなに近くにいても、その距離が縮まらないことに葛藤があった時期がありました。みんなのようにもなれないし、かといってそうではない自分も受け入れられない。何なんだこれ、みたいな気持ちでした。

最終的に今感じていることは、その地域で生まれていないからこそ「それ、すごい」と言える大事な役割があると思っています。みんなが当たり前にできて、みんなにとっては当たり前だから誰も驚かないようなことが、それをできなくなってしまった側から見ると「本当にすごいことだ」と説得力を持って言えるのは、その地域がすごいく好きで、通いまくって日常の顔を見ていながら、あくまでもよそ者である自分というポジションにしかできないことではないかと思っています。あちら側の岸とこちら側の岸をつなぐ橋みたいな役割です。橋には橋しかできない仕事があるじゃないですか。だから今は「あちらでも、こちらでもない」ということを受け入れてきたかなと思います。

村上)ナプラワークスに来てくれるお客さんを、橋でつないで、これはすごいんだよって伝えると、どういう反応しますか。

吉川)私が何かを見せることはあまりしないです。地域の人たちが彼らのあり方を全部見せてくれるんです。私は二人の間で言葉が通じなかったりするから言葉を仲介したり、あるいは、お母さんが何かを始めそうだという空気を感じ取って、そのお母さんのところへそっとみんなを誘って行くような役割をしています。
私が何かすることでみんながすごく変わるというよりは、そのお母さんたちのあり方とか、村の人たちの存在に触れることによって、みなさんの中でどんどんいろんなことが解きほぐされていったり、「そうか、ああじゃなくてもいいんですよね」「本来これでもよかったはずなんだ」「こうじゃないやり方もあるんだ」「じゃあ自分はどうだろう」というように、それぞれの人の中でどんどんいろんなことが生まれていくような時間が多いです。


暮らしの根源的な意味を教えてくれるというカンボジアの村。世界が大きく揺れる今だからこそ、学ぶべきものが多い気がしました。次回もお楽しみに。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 Kimura Ayako)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #5 「一瞬の動きと、積み重ねてきた時間」
次回も、カンボジア中部のサンボ―・プレイ・クック遺跡を中心に現地で旅行会社を運営している吉川舞さんにお話を聞きます。

The best is yet to be, お楽しみに!

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